独占禁止法第9条改正についての意見

1996年1月22日
社団法人 経済団体連合会


  1. 独占禁止法第9条は、実際の競争阻害性の有無に関わらず純粋持株会社を一律に禁止するものであり、経団連では長年にわたりその見直しを求めてきた。

  2. 企業が、経済、社会の変化に対応しつつ、リストラクチャリング、分社化、多角化など事業の再構築を進め、あるいは新規事業を積極的に育成していくためには、純粋持株会社は効率的な組織形態であり、欧米では広く活用されている。さらに、金融持株会社は、金融分野における競争の推進やサービスの多様化等に向けた金融制度改革、金融システムの安定化が緊急の課題となっている中で、有効な解決策である。

  3. 昨年3月31日に閣議決定された政府規制緩和推進計画では、持株会社について「3年以内に結論を得る」こととされていた。さらに、政府として尊重が求められている行政改革委員会「規制緩和の推進に関する意見(第1次)」(平成7年12月14日)では、「持株会社規制、大規模会社の株式保有総額規制を廃止すべく、速やかに検討を進め、所要の法律改正を行うべきである。」としている。
    しかしながら、公正取引委員会が昨年末に公表した「独占禁止法第4章改正問題研究会中間報告書」は、持株会社の原則禁止という考え方を維持しながら、例外的に一定の類型にあてはまるものに限り解禁としているに過ぎない。加えて、持株会社設立時の認可、設立後の株式取得の事前届出等、新たな規制を導入すべきとしており、経団連が主張する「原則自由」という考え方とはかけ離れた内容となっている。また、基本的に現行規制の枠組みを維持しようとしているために、全体としてみれば、却って規制強化との感すら免れない。

  4. 持株会社を全面的に解禁すべく、今期通常国会において独占禁止法第9条の改正が行われることを強く求める。
    なお、公正取引委員会の中間報告書(以下報告書)に基づき、現段階において、具体的問題点を指摘すれば、以下の通りである。

【記】

  1. 解禁される持株会社を限定的に示すべきではない
  2. 報告書は、第9条の目的を事業支配力の過度の集中の防止にあるとし、持株会社の原則禁止を維持しつつ、例外的に認められるものとして4つの類型を挙げている。
    しかしながら、持株会社について一定の類型を定めて、それ以外のものを禁止したり、一定の規模を超えるものについては、およそ持株会社となることを認めないとするのであれば、経営者による創意、工夫が発揮される余地を狭めてしまうばかりか、実際の競争阻害性の有無に拘わらず、外形的、一律に規制するという枠組みが少しも是正されない。例えば、純粋分社化について、報告書が示すように、自社の事業分野の全てを完全子会社(100%子会社)化する場合のみを認めるとするならば、事業再編のための持株会社の活用を不当に制限するものとなる。
    欧米の競争法では、持株会社に対して殊更の規定を置いておらず、通常の企業結合規制の中で対応している。独占禁止法においても、本来、持株会社に対する特別の規制を置く必要はなく、第10条等の現行規定を適正に運用することによって、十分な対応が可能であると考える。

  3. 持株会社設立に対する一律的な事前関与は不要である
  4. 報告書では、持株会社の設立あるいは持株会社への転化に際して、公正取引委員会の認可(許可)を要するとしているが、分社化など経営組織の変更に過ぎないものについてまで、公正取引委員会が事前に関与することは不要である。

  5. 持株会社による株式取得の事前届出・許可制は不適当である
  6. 報告書は、持株会社の株式取得について、持株会社が支配する会社が増加するごとに事前届出あるいは認可(許可)を求めるとしている。しかし、持株会社の株式取得について事前届出を課すならば、株式取得のつど、公正取引委員会の行政指導を仰ぐという形の不透明な規制が行われることとなりかねない。株式保有については、現行第10条の報告制度を活用すれば十分であり、このような規制は不要である。

  7. 持株会社について重複したディスクロージャーを求めるべきではない
  8. 報告書は、持株会社傘下の企業グループの実態について定期的に報告を求め、その概要を公表するとするが、商法、証券取引法における開示制度と重複するものであり、新たな報告義務を、独占禁止法において課す必要はない。

  9. 金融持株会社の範囲を不当に狭めるべきではない
  10. 金融制度改革の視点、さらには喫緊の課題となっている金融システムの安定化を図るために、金融他業態への多角的参入に加え、業界再編や金融機関自身の経営合理化が急務であり、このために、金融持株会社の活用は有用である。破綻した金融機関の救済や分社化に限らず、金融持株会社の利用を幅広く認めるべきである。

  11. 関連する条項について
    1. 大規模会社の株式保有総額の制限(第9条の2)の廃止
    2. 第9条の2は、現行第9条を前提としこれを補完するための規定であり、持株会社を解禁する以上、第9条の2は廃止すべきである。この点は、既に行政改革委員会の意見においても指摘されているところである。
      当面、持株会社については第9条の2が適用されないことを明確にすべきである。第9条の2の適用範囲を大規模会社の子会社にまで拡大するようなことは、規制の強化であり、本末転倒である。

    3. 金融会社の株式保有の制限(第11条)の廃止
    4. 金融資本による産業支配を防止することが必要であるとしても、そのためには第10条を適切に活用すれば足り、金融会社の株式取得について一律の規制を設ける必要はない。独占禁止法第11条は、廃止すべきである。

  12. 連結納税制度の早期導入
  13. 持株会社をより活用するために、法人税法における連結納税制度の早期導入が望まれる。


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