既に述べたように情報通信分野におけるグローバルな競争は一層激化し、また、来るべき高度情報通信ネットワーク社会においては、ネットワーク上で様々な新事業が展開されるものと予想される。このような中で産業のインフラである電気通信ネットワークの戦略的な重要性はますます高まり、その設置・運用を担う通信産業の国際競争力を強化することは、わが国産業全体の発展にとって極めて重要である。
また、高度情報通信ネットワーク社会においては、技術が予想を超える早さで進歩し、その成果が通信事業者によってユーザーに還元されると同時に、ユーザー側からは新しい利用形態が提案され、その間の絶え間ない相互作用によって情報通信市場は活性化・拡大していくものと思われる。このような中で、第1に、第三者である行政が将来の市場動向を予測し、それに基づいて規制を行おうとすれば、その判断は自ずと恣意的とならざるを得ず、ダイナミックな相互作用を制約する恐れが大きい。したがって、「原則自由、例外規制」を政策の基本とし、例外的に規制を行う場合でも、競争促進のために最低限必要なものに止めるべきであり、対象事業者ならびに期限を限定する必要がある。第2に、あらゆる通信事業者とユーザーをつなぐ地域通信ネットワークがNTTのほぼ独占状態に置かれたままでは、通信事業者とユーザー相互の自由なアクセスとダイナミックな相互作用が制約される恐れがある。したがって、この地域通信ネットワークに、より自由にアクセスできるようにするとともに、地域通信市場において競争を促進する必要がある。
さらに、情報通信分野の技術進歩が予想を超えるものであることから、変化に柔軟に対応できる競争の枠組みを構築するとともに、一旦、構築した枠組みにとらわれることなく、市場の動向に合わせて不断の見直しを行う必要がある。
以上のような観点に立ち、上記II〜IVを踏まえ、今後の情報通信市場における競争の枠組みについて、われわれの見解を示す。
しかしながら、基本的には、同措置の推進は地域通信ネットワークをほぼ独占的に運営するNTTの自主的な取り組みに多くが委ねられ、その実行を担保する仕組みがないため、必ずしも期待された成果をあげていない。 したがって、同措置の内容を改めて見直すとともに、一層の推進が必要なものは法定・ルール化し、その実行を担保すべきである。例えば以下の事項がその対象として考えられる。
【法定・ルール化すべき事項】
加入者情報等を流用した営業行為の禁止の徹底
したがって、利害が相反する一方の当事者であるNTTに相互接続ルールを策定させるのではなく、競争を促進するためのルールの一環として中立的な立場から下に掲げるような相互接続の法定・ルール化を行うべきである。その際、個々の接続要望に個別に対応するという形ではなく、全ての事業者にNTTとの相互接続を保証するための環境を整備する必要がある。すなわち、全ての相互接続に必要な基本的機能をモジュラー化・アンバンドルすることで、他事業者が自らのサービスに必要な機能だけを組み合わせて使用できるよう、NTTは速やかに標準的インタフェースを用意し、そのコストを公開すべきである。
また、そのインタフェースを準備するコストは公正有効競争条件を整備するためのコストとして自らが負担すべきである。標準的インタフェースと異なる形での相互接続要望があり、当該事業者がそのためのコストを負担する場合であっても、そのコストは透明かつ納得できるものでなければならず、これを監視するため、NTTにはコスト情報の開示を義務づける必要がある。
さらに、事業者間接続料金については、当面、増分コストに基づいて設定されるべきであり、地域通信市場において有効な競争が現出し、NTTの市場シェアが一定水準に低下した時点で完全配賦コストに基づくようにすべきである。
【法定・ルール化すべき事項】
なお、95年9月末にNTTより示されたネットワーク、特に加入者回線のオープン化の方針は、接続点の増加ならびに接続形態の多様化につながるものであり、一歩前進である。
しかしながら、
こうした中で、地域通信市場において有効な競争を生み出すためには、長距離系、地域系、衛星系、移動系の各通信事業者、PHS事業者、CATV電話提供事業者等、自ら設備を敷設してユーザーに直接サービスを提供することを通じてNTT地域通信ネットワークと競争し得る各種ネットワーク・インフラを有する事業者の発展を促すと同時に、サービス面での競争を促進するための環境を整備する必要がある。そのため、以下の措置を講じる必要がある。
【ネットワーク・インフラの競争を促進するための措置】
【サービスの競争を促進するための措置】
【見直すべき事項】
法制度上はNTT法、KDD法による国際・国内の区分が存在するだけであるが、国内市場においても長距離、地域等の区分が存在しており、それぞれの市場において管理された競争が行われているのが実態である。また、衛星を使って地球上のどの地点においても通信が可能となるようなシステムが計画されており、将来、現行の人為的な区分はますます意味を持たなくなることが予想される。したがって、NTT以外の事業者については、これら市場区分を撤廃し、事業者が自らの判断によって自由に市場に参入し事業展開できるようにすべきである。ただし、NTTについては、同社が地域通信市場をほぼ独占している状態に鑑みれば、国際通信事業への参入を直ちに認めることは公正有効競争の観点から問題があると考えられる。したがって、地域通信市場において上記1、2に示した措置により有効な競争が現出し、NTTの市場シェアが一定水準に低下した時点で参入を認めるべきである。
第一種電気通信事業は多大な設備投資を必要とするため、いわゆる既得権を得るだけの安易な参入は考え難い上、事業開始の義務の規定により、このような参入は防止されるものと考えられる。また、退出についても、複数事業者が存在する今日、サービス提供の不安定性が問題となることもないと考えられる。したがって、参入・退出については、できる限り規制を緩和する必要がある。参入許可基準の一つである、いわゆる需給調整条項(郵政省は「過剰設備防止要件」であるとしている)については、郵政省は「申請者が行う需要見込みを基本として対応する」ので問題ないとしているが、そうであれば、何故、需給調整条項が必要なのか疑問である。また、郵政省は公益事業特権を付与するためには「過剰設備防止要件」が必要であるとしているが、公益事業特権については、その他の方法によって対応は可能と考えられる。したがって、需給調整条項は撤廃すべきである。
法制度上、電気通信サービスは7種類(電報を除く電話、電信、専用、データ通信、デジタルデータ伝送、無線呼出し、その他)の役務に区分されているが、今後は技術革新等により、複数の種類にまたがるなどの新しいサービスの出現が予想される。したがって、新しいサービスの提供にあたって、役務種類の変更許可が円滑なサービス提供の妨げとならぬよう役務種類の変更許可制を届出制へ緩和すべきである。
第一種電気通信事業者は自ら設備を保有しサービスを提供する事業者であるため、業務委託は限定的なケースしか認められていない。しかしながら、上記2で述べたように同条項をより弾力的に運用し、受託者の範囲を拡大することにより新たに設備を設置することが困難な地域通信市場、とりわけ加入者回線においてもサービス面での競争を促進することが容易となる。また、現在、受託者は原則として第一種電気通信事業者とされているが、これもCATV事業者等に拡大すれば、多様なネットワークを経済的に構築することが可能となり、競争の進展に寄与するものと考えられる。
高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けて、技術革新等による新たなサービスの円滑な導入、情報通信の一層の利用を促す柔軟な料金設定を可能にする必要があり、また、事業者の自主性尊重、経営の効率化、行政事務の簡素化等を図る観点から、NTT以外の事業者については、国民経済、国民生活に係わりの深い基本的なサービスは届出制とし、その他の競争状況下にあるサービスは規制を撤廃すべきである。NTTについては、上記1(3)で述べたようにプライスキャップ制を導入し、同制度の下に置かれない競争状況下にあるサービスは基本的に他事業者の場合と同等の扱いとすべきである。
なお、同制度の導入・改定にあたっては、同一のプライスキャップ下に置かれるサービス・料金の種類(範囲が広くなれば、当該企業による料金設定の自由度が高まる)、生産性向上の期待値(値が大きくなれば、当該企業に求める経営効率化の内容が厳しくなる)を、以下の点に十分配慮して決定する必要がある。その際、基本的には、十分な競争状況下にあるサービスの料金は市場メカニズムに委ね、国民経済、国民生活に係わりの深い基本的なサービスであって競争が不十分なものをプライスキャップ下に置くべきである。また、例えば基本料金等独占状態にあるものについてはサブ・キャップを設けることとすれば、独占部門においても経営効率化のインセンティブが働くとともに、安易な料金値上げを防止することができる。
(配慮すべき事項)
上記1に示したように新たに相互接続の義務づけを含めた法定・ルール化を行うべきである。
WTOにおいて基本サービスの自由化に向けて交渉が行われており、来春にはその結論が出る予定である。また、現在、米国議会で審議に付されている通信法改正法案には、諸外国の市場開放を狙いとして相互主義に基づき米国の外資規制を撤廃する旨の条項が含まれている。さらに、第二種電気通信事業者による電話サービスの提供が可能となることを契機に、わが国市場に外国通信事業者がより積極的に進出を図る可能性が高まっている。このような情勢に鑑み、外国通信事業者によるより自由な事業展開が可能となるよう、あくまでも最恵国待遇を原則として、現在、1/3未満とされている外資規制の緩和に向けた見直しが必要である。その際、安全保障上の問題に十分配慮する必要がある。なお、わが国通信事業者の海外でのより自由な事業展開のためには、諸外国に対してもWTO等の多国間交渉の場において基準の明確化、審査手続きの迅速化を含む規制の緩和を求めていくべきである。
国内通信においては、公専公接続の解禁により第一種電気通信事業者と第二種電気通信事業者が異なる規制の下で同様のサービスを提供することとなる。また、国際通信においても、第二種電気通信事業者による基本音声サービスの提供が可能となり国内通信と同様の問題が生じる。さらに、将来的には、技術革新に伴い第一種事業者のサービスは一層高度化し、第二種事業者との境界はますます曖昧になることが予想される。したがって、設備を保有しているか否かを基準として事業者を区分している現行制度に代わり、提供するサービスの内容〔例えば国民経済、国民生活に係わりの深いサービスとそれ以外〕により規制の態様を切り分けるなど、設備を保有するか否かは事業者の判断に委ねることを検討すべきである。そうすることにより、事業者は事業戦略上最も望ましい形でネットワークを構成し、市場ニーズに迅速に対応したサービスを提供することが可能となる。また、新規参入が容易になることで競争が一層促進され、市場の活性化にもつながる。
【見直すべき事項】
なお、目的達成業務認可制(NTT法第1条)に関連して、アプリケーションやコンテンツは、ベンチャー企業をはじめ多様な事業者が参入し、創意工夫を発揮することが期待される分野であることから、それら分野へのNTTの事業展開にあたっては、公正競争が実質的に確保されるよう十分留意する必要がある。したがって、ネットワークの構築上不可欠と認められるものを除くアプリケーションの開発、ならびにコンテンツ分野への進出については、分離子会社によることとするなど公正競争を確保するための条件を明確にすべきである。
デファクト標準を含む国際標準化において、わが国が主導性を発揮し、わが国における標準が世界の標準となるためには、主要通信事業者が研究開発の開始当初から国内外の通信事業者ならびに通信機器メーカー等との連携を進める必要がある。また、その成果の合理的価格によるオープン化、普及の促進が必要である。
新たなアプリケーションの開発に向け多様な事業者間連携を進める上でベンチャー企業に対する期待は大きい。したがって、独創的なベンチャー企業を支援する仕組みを充実する必要がある。また、多大な投資と研究開発を要するネットワーク・インフラの高度化については、通信事業者が先行的に投資を行っていくことが肝要である。
基礎研究については、当面、通信事業者ならびに通信機器メーカー等の民間部門に頼らざるを得ないが、新社会資本を整備する観点から、硬直的な予算配分を抜本的に見直し、国公立研究機関・大学が主要な役割を担うことができるような環境を整備することが重要である。一方、実用化研究については、事業に直結した形で行われることが不可欠である。