太平洋地域における経済発展上の課題とわが国の役割
― 国際産業協力委員会太平洋部会報告書 ―
1995年6月30日
社団法人 経済団体連合会
≪第1編 太平洋地域の貿易・投資関係≫
太平洋をめぐる経済関係はプラザ合意以降緊密度を強め、貿易・投資の両面で相互依存、国際分業が進行している。すなわち、80年代半ばには、(1)日本からの東アジア投資と東アジアから米国への輸出、(2)日米の緊密な二国間関係、の2つを軸とした比較的単純な構造であったものが、その後、特に90年頃からは東アジアが著しく発展して求心力を強めるとともに、域内の貿易・投資の自由化をテコにした連鎖的・重層的経済発展が実現している。また、アジアにおける垂直・水平分業を伴う貿易・投資交流の拡大によって日本のこの地域への経済的影響力は相対的に低下しているが、他方で円高で日本の製品輸入比率の上昇が加速されている点は見逃せない。なお、米国が東アジアの経済発展から受ける輸出増、投資増などの経済的メリットは、対欧州・ラ米に比べて際立って大きいものとはなっていない。しかし、米国市場は東アジアにとって依然として製品の輸出先として重要な役割を果たしている。
以下にこの地域における海外直接投資、貿易の現状について概観する。
- 海外直接投資
今日、海外直接投資は、太平洋地域の経済的相互依存を深める大きな要因となっている。わが国の東アジア諸国への直接投資が生産力の向上、人材育成、技術移転などの面で貢献し、その後の同地域の経済発展の一助となってきた。
近年のわが国および太平洋地域各国の海外直接投資の現状は以下のとおりである。
- プラザ合意後の円高により、80年代後半から日本の海外直接投資は急増した。日本にとって、対米輸出に比べ対米直接投資・現地生産が優位性を高めるとともに、ドルにリンクした通貨を持つ東アジアにおいても、日本からの直接投資・現地生産が拡大した(日→米・東ア)。
- 日本の対米直接投資は、1983年度から94年度までに残高ベースで11.6倍に伸びており(93年度末 1,944億ドル)、1994年度の日本の海外直接投資累計(4,636億ドル) の41.9%が米国向けである。ただし$近年は$日本経済の低迷や東アジアの投資優位性が増大したことにより$対米直接投資は減速している(日→米)。
- 東アジア諸国による、輸入代替から輸出指向に基づく開放的な投資政策への転換が、先進国からの直接投資受入れ急増の大きな要因となった。ただし、各国の外資政策の相異、経済発展段階に依拠する賃金格差等から、現地生産の進展は異なっている。先進国からの投資先は、順次、NIEs→ASEAN→中国・ベトナム等へと展開しており、93年以降、特に中国への投資が激増している。また、近年、現地の裾野産業を補完する中小企業の進出が多いことは地域の共通した特徴となっている(日・米・欧→東ア)。
- 米国の海外直接投資は、地理的・歴史的経緯から製造業分野ではラテンアメリカへの直接投資を指向している(米→ラ米)。
- 豪州への直接投資は、87〜90年まで日本が一位を占めていたが、91年には、米国からの投資(23億豪ドル)が対豪海外直接投資の3分の1を占めるに至った。また、90年代に入って、ASEAN諸国や香港からの直接投資の増加が目立っている(日・米・東ア→豪)。
- 80年代、華人企業の海外直接投資急増を主な要因として、東アジア域内での投資交流が進んでいる。とりわけNIEsからASEAN、中国、ベトナムへの直接投資が拡大しており、東アジアでの海外直接投資残高に占める日米の相対的比率は低下傾向にある(東ア→東ア)。
- 93年度の日本の海外直接投資の受入れは31億ドルであり、同年度の対外直接投資額 360億ドルと比較して、大きな不均衡を示している。対日直接投資が少ない理由としては、日本国内の高い人件費・地価、過剰で不透明な規制、日本的商慣行(株式持ち合い、系列など)が挙げられることが多い。また、急速な円高が対日直接投資に比して対日輸出を有利にしている、東アジア市場の急成長が日本より他の東アジア諸国をより魅力的なものにしている(投資収益率が高い)なども近年の要因として指摘される(米・欧・東ア→日)。
- 貿易
- 日米の通商関係
- 日本の全輸出に占める対米輸出の割合は30%程度、米国の全輸出に占める対日輸出の割合は10%程度と、それぞれ重要な輸出相手国となっている。しかし、米国の対EU輸出は対日輸出の2倍以上であり、対NIEs輸出も対日輸出を上回っている。
- 80年代前半、レーガン政権下の財政赤字拡大の影響を受けてドル高円安が進み、消費財を中心に日本からの対米輸出が加速した。その後、プラザ合意を受けて直接投資・現地生産が拡大するとともに、バブル経済による日本の輸入増があり、86年以降、日本の対米貿易収支黒字は大きく減少した。しかし、90年代に日本の対米貿易黒字は再び拡大し、94年には 550億ドルの水準となっている。
- 日本にとって対米貿易が依然として経済的に最重要であることには変わりがないが、近年、対アジア輸出の急増もあって日米貿易の比率はやや低下しつつある。
- 日本と東アジアの通商関係
- 日本の対東アジア輸出は、80年代前半の円安による対米輸出の急増を受けて一時的に相対的な比重が低下した。しかし、プラザ合意以降は資本財、生産財を中心に堅調な伸びを記録し、今や対東アジア輸出が対米輸出を上回る状況となっている。
- この背景には、東アジア各国が輸出指向型経済政策を採ったこと、日本からの直接投資が急増したことに伴い、裾野産業の不足もあって日本から生産に必要な資本財・半製品の輸出が増加したことがあげられる。
- さらに、東アジア各国が、太平洋経済圏の中で水平・垂直分業を進め、生産拠点としての役割を拡大していることも影響している。
- アジア諸国の連鎖的・重層的経済発展によって、NIEs、ASEANに引き続き、中国、インド、ベトナムなどが、マーケットとしての重要性を高めている。
- 日本の輸出先として東アジアが重要性を増しているにも拘わらず、東アジア各国はNIEsや中国等との貿易の比重を高め、経済不況の影響もあって日本の比重は一時的に低下傾向にある。
- 中国と日本の貿易は、輸出・輸入のいずれも顕著な増加傾向を示し、日中貿易(輸出+輸入)は日本にとって第2位、中国にとって第1位(香港を除く)となっている。また、中国は日本ばかりでなく東アジアとの輸出入も急増させている。
- 日本の総輸出の約70%が対東アジア・対米輸出によって安定的に占められている。
- 米国と東アジアの通商関係
- 米国にとって対東アジア輸出は対日輸出を少し上回る程度であり、比較的安定的に推移してきた。一方、東アジアにとって米国は最大の輸出先であり、80年以来、東アジア各国は連続して対米貿易黒字を記録している。この背景として、いくつかの産業では東アジアが「世界の工場」と呼べるまでに生産能力を高めている点が指摘できる。
- 豪州と日本・東アジアの通商関係
- 日豪は極めて安定した相互補完的な貿易関係にある。但し、豪側には日本に対する製品輸入増の期待が強い。
- 近年、豪州から東アジアへの輸出が飛躍的に拡大し、対日輸出に匹敵する規模となっている。一方、東アジアの全輸出に占める豪州の比率は、ほぼ一定である。
- 各国の貿易依存度
- もともと日米の貿易依存度(対GDP比)はOECD諸国の中で最低水準にあるが、最近10年をみると、日本およびNIEs各国の貿易依存度は下降傾向にあり、米国、カナダはほぼ横ばいである。一方、ASEANでは緩やかな上昇傾向にある。中国は、特に輸出依存度において太平洋地域で唯一著しい上昇を見せている。
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