不良債権問題に対する考え方
1995年7月3日
社団法人 経済団体連合会
- はじめに
- 我が国経済は、景気腰折れの懸念される厳しい局面にあるが、不良債権問題の深刻化が、事態を一層悪化させる懸念がある。
不良債権問題により金融機関のリスクテイク能力は低下し、金融仲介機能を弱体化させている。また、金融機関の資金調達や新商品開発に影響を与え、金融機関の競争力を弱めている。更には、我が国の金融機関に対する国際的信認を低下させている。
- 株式市場の低迷、地価の下落が続くなか、不良債権問題の解決が遅れれば、問題はますます深刻化していく。こうした現実を直視し、一刻も早く不良債権問題への具体策を打ち出していく必要がある。その際、金融当局は、これまでにも増して不良債権問題の全体像把握に努め、これを公表すべきである。
- 米国ならびに欧州の経験から、金融不安が懸念される状況では、一刻も早い問題解決への取り組みによって、コストを最小限に抑えられることが確認されている。我が国においても、緊急に抜本策を講ずる必要がある。その場合、不良債権処理方策に関する国民のコンセンサスを早急に形成していくことが求められる。
以上の観点から、不良債権問題の解決のための緊急対策を中心に、基本的な考え方をとりまとめた。
- 不良債権処理のための緊急対策
- 不良債権処理の緊急性
不良債権処理の大原則は、あくまで、徹底したリストラをはじめとする金融機関自らによる最大限の努力である。しかし、不良債権は総額約40兆円を超え、回収不能額も相当の巨額にのぼるとみられている。これを自助努力に委ねるだけでは、問題を先送りするのみで、また国民経済的見地からも、最終的には処理のためのコストを増大させる結果となる。今後早急に、公的資金の導入対象ならびに方法を含め、対応策の具体化を図る必要がある。
- 財政資金導入の必要性
公的資金導入の具体的手法としては、主に
- 日銀法25条による出資・融資、
- 財投資金の活用、
- 財政資金(一般会計)の繰り入れ
がある。
但し、日銀法25条の発動は、あくまで緊急避難的な措置と位置づけられており、過大な役割を求めることは難しい。また、財投資金の場合は、有償資金であるため、金融機関破綻処理のために直接用いることには、自ずと限界がある。
従って、不良債権問題に本格的に取り組むにあたっては、財政資金の投入に踏み切らざるをえない。実質的な破綻状態にある金融機関に対しては、経営者の責任を明確化するとともに、目的を金融機関救済ではなく預金者保護に限ったうえで、預金保険機構からの資金援助で賄いきれない部分について、財政資金を導入すべきである。
- 中小金融機関の破綻処理と、住専問題への対応
中小金融機関の破綻処理にあたっては、実質的に債務超過が生じていることを目安とした財政資金の導入や、破綻処理のための機関の設置が必要である。
一方、住専は預金を受け入れる機関ではないが、その不良債権問題を放置するならば、住専向けに融資を行っている金融機関にも多大の影響を及ぼし、預金者保護の観点からも問題が生じかねない。従って、住専向け不良債権問題の解決にあたっても、まず関係者間で、住専再建計画の抜本的見直しを国民経済的観点から行なうとともに、住専融資に係わる金融機関の資産内容の全体像を明らかにしたうえで、財政資金導入のスキームを策定する必要がある。
- 不良債権償却の弾力化
金融機関における積極的な不良債権償却の努力を促すうえでは、貸出金の無税償却を行なうための環境整備が必要であり、直接償却の要件の緩和が求められる。
また、単年度の償却負担を軽減する観点から、不良債権の分割償却を検討すべきである。
- 債権・不動産の流動化
不良債権の処理を促進するため、
- 担保不動産の空中権移転などによる優良な都市再開発事業の促進、
- 定期借地権の活用などによる民間都市開発推進機構の土地先行取得事業の拡充、
- 地価税の廃止、土地譲渡益課税の軽減
など、土地税制の抜本的見直しを図ることによって、土地の流動化を促す必要がある。
併せて、債権ならびに担保不動産の証券化を図ることも重要である。
- 中長期的に取り組むべき課題
- 以上の緊急対策と併せて、金融当局においては、これまでの金融行政の反省にたち、市場規律を重視した取り組みが必要である。
- 金融機関経営の透明性の向上は、金融機関における過度のリスク行動の抑制につながり、不良債権問題の発生を未然に防ぐ効果を期待できる。また、ペイオフを行う場合も、まず、金融機関の情報公開が大前提となる。
- 預金保険機構についても、金融機関の破綻があった場合に、ペイオフや資金援助を迅速に行えるよう、財政基盤の強化を含めて、抜本的な機能強化を図ることが必要となる。
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