わが国経済は一部に明るさがみえてきたものの、依然として危機的な状況が続いている。この国難ともいえる状況を一刻も早く打破し、内需主導で景気回復を図っていくためには、経済や雇用への波及効果の大きい住宅投資が極めて重要である。
足元の住宅市場は、新設住宅着工件数が大幅な落ち込みを続けるなど、依然として大変厳しい状況にある。ただし、平成21年度税制改正や補正予算において、住宅投資減税の新設や住宅ローン減税の大幅な拡充などの政策措置がとられたことにより、徐々に明るい兆しもみえつつある。景気回復の芽を摘むことのないよう、引き続き、市場の動向を十分注視しつつ、必要に応じて適時・的確な税財政、金融上の施策を講じていく必要がある。
他方、わが国経済社会が持続的な成長を目指す上では、本格的な少子化・高齢化社会の到来、安心・安全な社会の構築といった難題が立ちはだかっている。これらの課題の解決に向けて、社会インフラであり、生活の礎である住宅の果たす役割は大きい。中長期的な視点に立ち、良質な住宅ストックの形成と循環を通じて、豊かな住環境の整備を進め、国民一人一人が真の豊かさを実感できる活力ある社会の構築につなげていく必要がある。
また、わが国をあげて地球環境問題に対応することが求められている状況に鑑みれば、住宅分野でも省エネ化推進のためのさらなる対策が必要となる。
こうした観点から、経団連は平成22年度税制改正において、以下の措置を要望するものである。
現下の厳しい経済情勢の下、国民の住宅取得やリフォームのための資金負担は大変重いものとなっている。より多くの国民が良質な住宅を手に入れることができるよう、世代間の所得移転を通じた住宅購入者の住宅取得資金の確保や、住宅の取得・保有に係る負担軽減のための措置を講じる必要がある。
新築住宅について、取得から一定期間、120m2相当部分まで固定資産税を2分の1に減額する特例措置(2009年度末まで)の延長を行うべきである。
住宅資金の贈与については、相続時精算課税制度の非課税枠(2,500万円)を1,000万円上乗せするとともに、65歳未満の者からの贈与も対象とする特例措置(2009年末まで)を延長すべきである。
わが国の住宅政策は量的充足から質的充実への転換が進んできてはいるものの、依然として、住生活、住環境は、国民が求める質を十分に満たしているとは言い難い。わが国全体の住宅の質の底上げに向けて、住宅の新築、改修、住み替え、建替え等の各方面から政策支援を進め、良質な住宅ストックの形成、循環につなげていく必要がある。
ライフステージに応じた住み替えによる良質な住宅の取得の促進や、既存住宅の流動化を通じた住宅市場の活性化のため、居住用財産の譲渡や買換えに係る以下の特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
所有期間5年以上の居住用財産を譲渡して、新たに一定の居住用財産を取得した際に譲渡損失が発生した場合、その年の損益通算に加え、以降3年間の譲渡損失の繰越控除を可能とする特例措置
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
住宅ローンの残る、所有期間5年以上の居住用財産を譲渡して、損失が生じた場合、住宅ローン残高から譲渡価額を控除した額を限度として、その年の損益通算に加え、以降3年間の譲渡損失の繰越控除を可能とする特例措置
居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例
所有期間、居住期間ともに10年以上の居住用財産を譲渡し、新たに一定の居住用財産を取得した場合、譲渡益の課税繰延べを可能とする特例措置
長期優良住宅に対する税制優遇については、2009年6月の制度導入後、間もない状況にあり、今後、本格的な政策効果が期待されているところである。そのため、長期優良住宅に関する下記の特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
また、長期優良住宅について、一般住宅よりも割高になる費用(上限1,000万円)の10%相当額をその年の所得税額から控除する特例措置については、制度の使い勝手を検証し、より活用しやすい制度となるよう改善すべきである。
住宅用家屋の所有権保存登記等に係る登録免許税の軽減
長期優良住宅について、住宅用家屋の(1)所有権保存登記、(2)所有権移転登記に係る税率を、一般住宅特例(保存登記:0.15%、移転登記:0.3%)よりも軽減する特例措置(保存登記:0.1%、移転登記:0.1%)
新築住宅に係る不動産取得税の課税標準からの控除額の増額
長期優良住宅について、新築住宅に係る不動産取得税の課税標準からの控除額を、一般住宅特例(1,200万円)よりも増額する特例措置(1,300万円)
新築住宅に係る固定資産税の減額措置の適用期間の延長
長期優良住宅について、新築住宅に係る固定資産税の減額(2分の1)措置の適用期間を延長する特例措置
住宅の長寿命化と質的向上を図るためには、既存住宅のリフォームやメンテナンスを促す措置も必要である。住宅の省エネ性能の向上、バリアフリー化は、地球温暖化防止、高齢化社会への対応といった社会的要請にも資するものであり、住宅の省エネ及びバリアフリー改修に係る下記の特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
住宅の省エネ改修に係る固定資産税の軽減
住宅の省エネ改修工事行った場合、翌年度分の当該家屋の固定資産税を120m2相当分まで3分の1減額する措置
住宅のバリアフリー改修に係る固定資産税の軽減
住宅のバリアフリー改修工事を行った場合、翌年度分の当該家屋の固定資産税を100m2相当分まで3分の1減額する措置
今後、老朽化したマンションの急増が予想されるなか、住環境の質の向上、防災、街の再生等の観点から、マンションの建替えに係る以下の特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
マンション建替事業に係る登録免許税の非課税措置
権利変換手続開始の登記、権利変換後の土地に関する権利について必要な登記などマンション建替事業に係る登録免許税の非課税措置
マンション建替事業に係る不動産取得税の課税標準の特例
売渡請求、買取請求等により転出する者が事業を継続するために土地を取得した場合や、建替マンションの敷地として用いる土地を取得した場合、不動産取得税の課税標準を5分の1控除する措置
昨今の経済、金融環境の下、不動産市場は大きな落ち込みを見せている。土地や建物の流動化とその有効利用、良質な建築物の形成を通じて、都市再生や地域活性化へとつなげていく必要がある。その主体となる民間事業者に対する支援措置を講ずるべきである。
都市再生緊急整備地域及び都市再生整備計画の区域並びに認定中心市街地において、優良な非住宅用建物を新築した場合、不動産取得税の課税標準を10分の1控除する特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
JリートやSPCが土地、建物を取得する場合の登録免許税の特例措置(2009年度末まで)について、(1)所有権移転登記の税率(0.8%)、(2)抵当権等の移転登記の税率(0.15%)を据え置くべきである。
特定の建築物に対する耐震改修工事について、工事費の10%を特別償却する特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。
ディベロッパー等に対する新築住宅のみなし取得時期の特例措置(2009年度末まで;本則:6ヶ月以内→特例:1年以内)を延長すべきである。
また、土地を取得してから一定期間内に一定の住宅が新築された場合、当該土地の不動産取得税を減額する措置の期間要件に関する特例措置(2009年度末まで;本則:2年以内→特例:3年以内(大規模マンションは4年以内))を延長すべきである。
中心市街地において、優良な賃貸住宅を建てる場合、一定の要件の下、市町村長が認定するものについては、所得税、法人税の割増償却(5年間3.6割増(耐用年数35年以上の場合5割増))を認める特例措置(2009年度末まで)を延長すべきである。