2009年1月30日 (社)日本経済団体連合会 知的財産委員会 企画部会 |
近年、企業の事業活動がグローバル化するとともに、外国企業等の外部との連携・協業によってイノベーションを実現するオープン化の動きが広がっている。それに伴い、企業が保有する技術やノウハウなど営業秘密の確実な保護が従来にも増して重要となっている。各企業では、セキュリティ技術の導入や社内規定の整備など懸命な取り組みを進めているが、企業の自助努力だけで営業秘密を保護することは非常に困難な状況である。また、営業秘密を保護するためのわが国の法制は、諸外国との比較において劣後しており、実効的な保護を実現できていない。こうした状況は、外部との協業・連携を阻むものであり、イノベーション創出力や国際競争力の観点から、早期の改善が強く期待される。
こうした中、今般、技術情報の保護等の在り方に関する小委員会において、刑事的措置にかかる法制の見直しについて検討が行われ、不正競争防止法に関して、刑事罰の対象範囲の領得行為への拡大や、営業秘密侵害罪にかかる目的要件の「図利加害目的」への変更など、営業秘密の侵害行為の抑制に資する方向性が示されたことは誠に時宜にかなったものであり、評価するところである。今後、可能な限り早期に制度改正するとともに、改正の趣旨や企業実務への影響などについての十分な周知を図っていただくよう期待する。
一方、営業秘密侵害罪にかかる刑事訴訟手続に関しては、(1)営業秘密の秘匿決定、(2)期日外証人尋問、(3)公開停止など、公判審理の公開によって、営業秘密の内容が公になることを防止するための法的措置について検討がなされたものの、今回のとりまとめでは、憲法における裁判公開の原則との関係などについて引き続き検討を行うとの表現にとどまった。
公判審理において営業秘密の内容が公にされることは、被害者である企業にとって二次的な損害を被ることを意味するものであり、そうした懸念が存在しているという事実は、実際のビジネスにおいて被害者が告訴に踏み切れない大きな要因となっている。憲法第82条第1項に規定されている裁判の公開は、尊重されるべき基本原則であることは論を俟たないが、被害者たる企業が告訴できない現状は、明らかに司法制度の不備であり、公判審理において営業秘密が公になることを防止するための具体的な法的措置が早期にとりまとめられることを強く求めたい。
刑事訴訟手続に関する検討にあたっては、法務省と経産省の連携の下、小委員会におけるこれまでの議論や企業実務の実態を十分に踏まえつつ、検討の期限を明確に示した上、具体的な対策をとりまとめるべきである。その際、諸外国において実施されている刑事訴訟手続にかかる措置を参考としつつ、現行法の下でどのような法的措置の実現が可能なのか、法的措置の実現が困難な場合、司法としてどのような対応が可能なのか、具体的な対策を示すべきである。