宇宙基本計画に関する意見

2009年5月18日
(社)日本経済団体連合会
宇宙開発利用推進委員会
企画部会・宇宙利用部会

日本経団連では、「戦略的宇宙基本計画の策定と実効ある推進体制の整備を求める」(2009年2月17日)において、宇宙基本計画の策定と盛り込むべき内容について提言した。

今般、政府の宇宙開発戦略本部が、宇宙基本計画(案)に関するパブリックコメントを募集している。これは、宇宙基本法に基づいて策定される初めての計画であり、わが国の宇宙開発利用を進める重要な役割を担っているが、人工衛星の打ち上げ基数など、今後5年間の具体的施策が盛りこまれていることを評価する。宇宙開発戦略本部が、関係府省の緊密な連携のもと、基本計画の着実な実施を図り、わが国の宇宙政策を強力に展開することを期待する。

日本経団連宇宙開発利用推進委員会企画部会・宇宙利用部会としては、この機会に、基本計画に盛り込むべき内容について、下記のとおり意見を取りまとめた。

1.基本的な方針等

(1) 宇宙基本計画の位置付け(P3)

「本計画については策定から5年後をめどに見直しを行う」となっているが、これにとどまらず、たとえば時代の変化に応じた新たなニーズを踏まえた中間評価を3年目に行ったうえで、必要に応じて計画の一部を見直すなどの機動的対応が必要である。

(2) 宇宙基本計画に基づく施策の推進体制(P42)

宇宙基本計画の実施にあたっては、宇宙開発戦略本部が司令塔としてリーダーシップを発揮して、関係府省の総合調整を行う必要がある。宇宙開発戦略本部が研究開発と実用衛星の利用を図るため、重要な施策の推進に関する決定権限をもつとともに、特別予算枠をもち重要プロジェクトの円滑な推進を図ることが求められる。また、具体的施策を推進する個別の関係府省を明確にすべきである。

(3) 施策の実施のために必要な予算・人員の確保(P42)

2009年度の宇宙関係予算は約3600億円(補正予算案125億円を含む)であるが、依然として欧米に比べ見劣りする。わが国の宇宙開発利用推進のため、例えば5年後には現行の2倍程度を目指し、2013年度の政府予算を少なくとも6000億円オーダーとするなど、予算規模の総額を明示すべきである。

(4) 外交に貢献する宇宙開発利用の推進と宇宙のための外交努力(P27〜31)

1990年の日米衛星調達合意により、政府機関が調達する衛星について、研究開発衛星以外の実用型衛星については、国際競争入札の実施が義務づけられた。その結果、わが国の実用型衛星の受注を海外企業が占めることとなり、宇宙開発においても諸外国に遅れをとることとなった。こうした合意は諸外国に例をみないものであり、その撤廃に向けた方針を明確にすべきである。
また、公共の安全の確保に利用される衛星については、気象衛星を含め、広い意味での安全保障に資するものであり、日米衛星調達合意の対象外とすることを明確にすべきである。

(5) 21世紀の戦略的産業の育成(P9〜10)

戦略的産業の育成、国際市場における宇宙機器の受注の獲得に向けて、研究開発の拡充に加え、軌道上での実証や運用、打ち上げなどの実績を積み重ねていく必要がある。このため、通信衛星を含めた国による研究開発や実証の継続的な実施等によりシリーズ化を図り、打ち上げ機会をできるだけ増やすことが宇宙産業の国際競争力強化につながることを明確にすべきである。
また、宇宙利用サービス産業の拡大のため、わが国においてもPPP(Public Private Partnership)やプロダクト購入保証などを検討することを明確にすべきである。

(6) 宇宙活動に関する法制の整備(P42)

宇宙活動に関する法制については、産業界からの意見を十分に考慮し、民間の活力が発揮できる整備をすべきである。

2.個別のプロジェクトについて

(1) 早期警戒衛星(P5、P21)

宇宙基本法により、わが国も宇宙条約が定める平和原則の下、非侵略目的であれば安全保障分野で宇宙を積極的に利用できるようになった。こうしたなか、本年4月に北朝鮮が国連安全保障理事会の決議を無視する形で発射したミサイルが日本海と太平洋に落下するなど、安全保障分野における宇宙開発利用の役割は高まっている。諸外国では、すでに弾道ミサイルの発射を探知するセンサを搭載する早期警戒衛星の開発・整備を行っている。
基本計画(案)では、「安全保障を強化するための新たな宇宙開発利用を推進する」、「早期警戒機能のためのセンサの研究・・・を着実に推進する」との記述にとどまっているが、早期警戒衛星について、できるだけ早く自主技術を中心として軌道上実証を行い、データの収集・蓄積を推進するとともに、開発・整備することを明確にすべきである。

(2) 測位衛星システム(P19〜20)

わが国としての自律的測位システムの確立のため、準天頂衛星については、将来の7機体制の構築の実現を明確にすべきである。
まず、5年間の開発利用計画に関して、測位衛星システムの実証に必要となる3機体制の構築を国が責任をもって行うとともに、整備・運用担当機関を決定すべきである。

(3) 高度情報通信衛星システム(P18)

地上/衛星共用携帯電話システムの実現のための次期実証衛星については、研究開発を前倒し・加速化し、できるだけ早く打ち上げることにより、高度情報通信分野の衛星システムの開発の継続性を確保すべきである。また、軌道上実証の後に、民間活力により利用サービスを提供することについて検討すべきである。さらに、衛星通信技術の国際競争力の強化の観点から、高性能軌道上交換技術を含むブロードバンド技術、抗たん性に優れた衛星通信技術などの研究開発課題への対応も重要である。

(4) 宇宙機器産業(P32)

「小型衛星を活用した軌道上実証等の取組を推進する」とあるが、衛星については小型衛星に限定する必要はなく、ロケットや宇宙ステーションを含め「衛星等を活用した軌道上実証の取組を推進する」とすべきである。

(5) 国際宇宙ステーション計画(P30)

国際宇宙ステーションの運用のあり方だけでなく、その有効利用について、HTVの帰還モジュール化等の能力向上なども含め検討することを明確にすべきである。

(6) 宇宙環境の保全(P38)

「サブメートル級のデブリの詳細な軌道位置などを把握することを目指す」とあるが、安全な宇宙活動の実施に向けて、センチメートル級のデブリの把握を目指すべきである。

(7) その他

衛星の実利用を進めるためシリーズ化を図り、データの継続的確保による利用の拡大を打ち出したことを評価する。軌道上のトラブルにより衛星からのデータが途絶えることのないよう、軌道予備等のバックアップの対応の必要性について明確にすべきである。

以上

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