日本経団連は、2006年に提言「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」をとりまとめ、コーポレート・ガバナンスとは、企業の不正行為の防止ならびに競争力・収益力の向上という二つの視点を総合的に捉え、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みをいかに構築するかという問題であるという考え方を示した。そして、コーポレート・ガバナンスの向上については、国内外の様々なステークホルダーの声を踏まえた各企業の多様かつ自主的な取り組みを尊重するとともに、機動的にガバナンスの向上につながる取り組みを実施できるような柔軟性の高い枠組みが必要であること、また、形式ではなく、実質に着目して、実効性のある取り組みを推進すべきことなどを主張した。これらのコーポレート・ガバナンスに関する経済界の考え方は基本的に変わっていない。
一方、近年、欧米政府や機関投資家から日本企業のコーポレート・ガバナンス制度の見直しを求める要求が出されているほか、金融庁の金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」、経済産業省「企業統治研究会」、東京証券取引所(以下、東証)「上場制度整備懇談会」などにおいて、コーポレート・ガバナンスに関する議論が行われている。
そこで、このような状況を踏まえ、コーポレート・ガバナンスの改善・強化に向けて日本企業が真摯に取り組んでいる現状を説明するとともに、コーポレート・ガバナンスのあるべき姿についての日本の経済界としての考え方を改めて明らかにし、対外的に理解を求めていくことによって、わが国の企業や資本市場に対する信頼性の一層の向上につなげていきたい。
長期的な企業価値向上のためには、企業の公正性と効率性をともに確保する仕組みとしてのコーポレート・ガバナンスが健全に機能することが不可欠である。また、コーポレート・ガバナンスの充実に向けた取り組みは固定的に考えるべきではなく、それぞれの企業を取り巻く環境変化や、株主、従業員、取引先、顧客などの国内外の多様なステークホルダーに配慮した経営を行う中で、常に改善していくべきものであり、実際に各企業は投資家とのコミュニケーションの充実などを含む様々な取り組みを自主的に推進している。
例えば、各企業は、株主との対話に一層の力を入れており、IR活動も従前と比較して格段に充実している。また、株主との最も重要な対話の場である株主総会について、開催日の集中度は分散傾向が進んでいる #1。株主総会の招集通知についても、法定期限である総会開催日2週間前までより早期に発送する企業の割合が増加している。特に、開催日の3週間以上前に送付する企業は、堅調に増加している動きが見られる #2。さらに、招集通知や議決権行使のIT化が進んでいるとともに、英文招集通知を作成・送付したり、ホームページに掲載したりしている企業も増えている #3。IR活動が活発化していることを端的に示す指標として、IR活動の年間費用を取り上げてみると、上場企業1社あたりの費用は、2004年から2008年までの間に70%以上増えている #4。さらに海外や国内の機関投資家等との個別会合も年間平均それぞれ40〜50回開催されている #5。このように特に上場企業において、活発なIR活動が展開されている実態が伺える #6。このほかに、個人株主向けのIRを充実させる観点から、個人投資家向け説明会の開催や個人投資家向けイベントやフェアへの参加、IR資料の充実、WEBによるIR資料の積極的な開示などに力を入れている企業も多い #7。
さらに、株主還元に関する目標値を設定し、有価証券報告書や決算短信において利益還元目標の具体的な数値基準を記載するなどして配当政策を公表する企業が増えており #8、実際の株主への利益配分も、ここ数年堅調に伸びてきた #9。
取締役の任期についても、米国の多くの州では3年以内となっているところ、わが国においては、会社法上、監査役会設置会社においては2年以下とされているが、任意に短縮化を推進する傾向が見られ、上場企業においては任期を1年とする企業が主流となっている #10。また、米国では、取締役の解任にあたって正当事由が必要とされているが、わが国においては元々そのような要件は課されていない。
ガバナンス機構については、形式的な要件を満たしているかどうかよりも、その仕組みが株主の信頼の下に公正かつ効率的な経営が進められるために機能しているかどうかという「実質」の確保がより重要である。このことは、アメリカにおいて金融破綻の原因となった巨大金融機関のガバナンス機構が、各州の会社法やNYSE(ニューヨーク証券取引所)で求められている形式的要件を整えていながら、実質的に十分なガバナンス機能を発揮していなかったことが明らかである点を見ても疑問の余地はない。
このような反省を踏まえ、ガバナンス機構の形式的要件ではなく、いかにガバナンス機構の仕組みを機能させるか、という視点からコーポレート・ガバナンスのあり方について議論すべきであり、企業の具体的な取り組みに対する評価は、最終的には市場による判断に委ねるべきである #11。
したがって議論の前提として特定の国や市場で適用されているコーポレート・ガバナンスに関するルールを、そのままわが国企業に形式的に当てはめてその適否を判断することは妥当ではない。むしろ、市場による規律が重要であるという観点から言えば、株主を含む市場関係者や多様なステークホルダーに対して当該企業がいかなる哲学に基づいてコーポレート・ガバナンスに関する仕組みを構築し、どのように実践しているかを示し、理解を求めていくことが、特にわが国資本市場での海外投資家比率が高まっている現在、これまで以上に重要となっている。
本提言では、以上のような基本的な視座に立って、昨今指摘されているコーポレート・ガバナンスに関する主要論点について、日本経団連としての考え方を中間報告として整理した。
今後は、この中間報告をベースに、さらに内外の機関投資家をはじめ各方面との対話を重ね、企業価値の向上のためのより適切なコーポレート・ガバナンスのあり方について検討を深めていきたい。
会社法は大企業に対して委員会設置会社と監査役会設置会社の二つの機関設計を用意しており、これらの間に優劣はなく、監督と執行の分離という観点から、制度的には両者は等価値なものとして設計されている。
委員会設置会社については、3委員会それぞれの過半数を社外取締役が占めることを義務付けられている #12。一方、日本の上場会社の大半を占める監査役会設置会社 #13 については、監査役の半数以上を社外監査役とすることが義務付けられている #14 が、社外取締役の設置は義務付けられておらず、それぞれの会社の判断に委ねられている。
もっとも、東証上場会社を例にとってみると、監査役会設置会社の44.1%が自主的な判断で社外取締役を設置しており、この割合は増加傾向にある #15。社外取締役を自主的に設置する意義については、取締役の業務執行に対する監督以上に、当該社外取締役の持つ識見等に基づき、外部的視点から、いかに企業価値を高めていくかといった経営アドバイスを期待しているという声が多く聞かれる。また、社外取締役を設置していない企業においても、社外の有識者から構成されるアドバイザリー・ボード等を置き、経営方針や戦略に関するアドバイスを得て経営判断に反映させているなど実質的に独自の努力をしている例が見られる。その企業の従業員として勤務したことのない、いわゆる社外出身の業務執行取締役が選任されているが、会社法上、社外取締役は、現在及び過去において当該会社の業務執行取締役でないという定義であるため #16、会社法上の社外取締役とはされていないケースもある。
さらに、有価証券報告書における「コーポレート・ガバナンスの状況」や2006年3月にスタートした東証のコーポレート・ガバナンスに関する報告書では、各企業がどのような哲学に基づいてそのようなガバナンス機構や体制を採用しているかという理由が開示されている。
わが国の上場会社の大部分を占める監査役会設置会社においては、会社の業務執行は取締役が行うとされ #17、しかも取締役から構成される取締役会の職務は、(1)取締役会設置会社の業務執行の決定(重要な業務の執行の決定は取締役に委任できない)、(2)取締役の職務の執行の監督、(3)代表取締役の選定及び解職、と定められている #18。ここで明らかなように、わが国企業の取締役会は、業務の執行と執行に対する監督との両方の機能を担っている。
わが国の会社法においては、配当の決定は総会決議事項であり、定款変更についても株主提案が可能である。一方、米国では、配当は総会決議事項ではなく、基本定款の改訂について株主が提案することはできない #19。また、取締役会の決議事項については、日本の会社法上、詳細に規定されている。
さらに、会社法では、取締役会による監督機能に加えて、社外監査役を半数以上含む監査役(会)による取締役の業務執行に対する監督が存在し、執行に対して二段構えのモニタリング機能が存在している。監査役は業務執行を行わない会社役員であるという点で、社外取締役以上に経営からの独立性が高く、欧米諸国企業における執行に対するモニタリング機能に勝るとも劣らぬ仕組みである。日本の仕組みは、業務執行を行わない会社役員(非業務執行の会社役員)である監査役(会)と業務執行を担う取締役を中心とした取締役会という二つのモニタリング機関が並存しているという点で、優れているとも言える。
取締役会が執行に対して適正な監督を行えるか否かは、業務執行を行わない取締役である社外取締役がいるかどうか(社外取締役の数)という点以上に、経営に関する知識や経験を有し、当該企業の事業や当該産業についてよく知っているとともに、それらの知識や経験に基づいてタイミングよく適切な発言をすることができる能力を持つ取締役であるかどうか(取締役の質)によって左右される。ガバナンスのあり方については、各企業の自主的な選択が認められ、取締役がそのような適性・能力を備えているか否かという実質については、開示情報に基づいて役員選任議案への投票行動によって最終的に株主が判断する枠組みが適切であると考える。
各企業は、投資家から、社外取締役の設置を求める声があるならば、真摯に耳を傾けるとともに、これにどのように応えていくかを、投資家との直接的な対話などIR活動を通じて、できる限り丁寧に説明・発信していかなければならない。
2008年度の米国政府からの規制改革要望において、現行会社法において「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役、執行役、又は支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役、執行役、又は支配人その他の使用人となったことがない者」とされている社外取締役あるいは社外監査役(「過去にその会社又は子会社の取締役・会計参与・執行役又は支配人その他の使用人となったことがない者」)の要件を改め、取引先や親会社の従業員・役員等が除外されるような「独立性」要件への改訂が要望されている。
企業グループ全体のガバナンスが重視されており、また、社外役員は特定の投資家の利益のみを代表するものではない(いわば多様なステークホルダーの立場に立つ公益代表)と考えられている中で、親会社や取引先の役員・従業員であるということだけで、「社外」役員から除外されるとなると、当該会社の企業価値向上に多大な貢献が可能であり、かつ当該会社の内容について知識や経験を持つ関係者(取引先等)が排除されてしまうおそれがあり、かえって十分なガバナンス上の機能を果たしえないのではないか、という懸念がある。
社外性を議論する際には、経営陣(業務執行者)からの独立性(経営陣からの圧力等によって判断を左右されない関係であるかどうか)は検討すべきであるが、経営陣に対する影響力があることは、ガバナンス上好ましい側面があると考えられる。
親会社の役員・従業員出身者を社外取締役とするべきではないという主張の背景には、大株主である親会社の意向が重視され、一般株主の利害が損なわれるおそれがあるという指摘があると考えられる。しかし、取締役としての忠実義務に違反して、第三者である親会社の利益を優先させて会社との利益相反を生じさせるようなことがあってはならないし、会社法上もそのような行為は許されないことは明らかである。
いずれにせよ、社外役員のあり方については、形式的に独立性要件に厳格化するのではなく、多様性を認め、現行の枠組みのように、充実した開示によって、実質的に社外役員として経営陣に対するチェック機能を果たしうるか否かを、株主総会の役員選任議案において株主の判断に最終的に委ねるのが望ましい。
社外役員に関する事項について、日本では、会社法上、株主総会参考書類や事業報告において記載されているほか、東証のコーポレート・ガバナンス報告制度においても、社外取締役の属性について詳細な開示項目が挙げられているなど、既にかなり充実した水準の開示が行われている。こうした実態を踏まえつつ、各企業は自主的な開示の充実に向けて引き続き努力していく必要がある。
日本の監査役制度は、1974年以降、業務執行に対する監督機能強化の観点から、累次の会社法改正等により監査役の権限及び独立性が拡充・強化されている。最近では2001年改正により監査役の独立性を高めるために監査役の任期が4年に伸長されたほか、監査役会設置会社においては、全監査役の半数以上を社外者とすることが義務付けられた。また2006年に施行された新会社法においては、会計監査人の選任議案に加えて、報酬についても監査役会に同意権が与えられた。
これらの監査役の権限強化により、投資家が期待する執行機関に対する監督の中には、非業務執行の会社役員である監査役が適切に行う権限と責任を負っている事項も少なくない。業務執行が公正かつ適正に行われていることについて、業務執行者だけでなく、非業務執行の会社役員も関与してチェックを行い、株主に対する説明責任を果たすことで、株主の目から見た業務執行の正当性に対する納得性が増し、ひいては業務執行の安定性に資することにもなる。
取締役会という機関として経営に関する事項を決定する取締役に対し、監査役は独任であるため、個々の監査役として、取締役の善管注意義務に反する業務執行等に対する差止請求権などを持っているほか、監査報告書への意見の記載等を通じて株主に対して直接その意見を開示することができる。監査役には監査法人等からも業務執行上の違法行為等について情報伝達がなされる。また、取締役会への出席義務や意見陳述義務があり、取締役会において、必要に応じて発言することが可能である。意見を述べることができる範囲に特段の制限は設けられていない。また、監査役会の半数以上を構成する社外監査役については、学者、弁護士、公認会計士など、専門的職責を負ったいわゆる独立者が就任している事例が多い #20。
業務執行に対する監督機能の充実・強化を図る必要があるとすれば、現行の法制について改正を加えるよりも、むしろ、監査役が既に与えられている権能を十分に発揮できるために、体制整備や社内連携の強化等に監督機能を担う機関である取締役会と監査役会が協調して取り組むなどの、一層の企業努力が必要ではないか。
例えば、各企業による実務改善の工夫としては、監査役の業務をサポートする事務局体制の充実と内部統制部門との連携体制の整備など、情報伝達体制及び社内受入れ体制の一層の整備が挙げられる。さらに、監査役会を、代表取締役をはじめとする業務執行トップに対して率直に意見を述べることができ、かつその意見が業務執行責任者によって真摯に受け止められるような、人格・経歴・知識等を有する者によって構成することが有効であると考えられる。
金融商品取引法(以下、金商法)上の監査人(有価証券報告書等の(連結)財務諸表等の会計監査を行う者)と会計監査の対象である被監査会社の経営者との間で監査契約を締結し、被監査会社が監査人に対して監査報酬を支払うという仕組みであるために、監査人が経営者におもねるような監査を行い、会計不祥事につながりやすくなっているとの指摘がある。このような状態について、いわゆる「インセンティブのねじれ」があるとの認識から、同意権ではなく、監査人の選任議案の決定権や監査報酬の決定権を監査役会に与えるべきではないか、との意見がある。現行金商法には、監査人の選任・報酬に関する規定はないが、会社法上の会計監査人(会社法上の計算書類等の会計監査を行う者)の選任議案及び報酬の決定について、監査役等の同意権が定められていることから、会社法の見直しを求める意見が一部にある #21。
しかし、インセンティブのねじれのような問題が指摘される背景には、会計監査人の選解任や報酬の決定について、監査役が既に有している権限を十分に行使していないという実態があるのではないか。
監査役会設置会社と委員会設置会社を等価値とする現行法の建付けにおいて、経営陣に対するモニタリングの仕組みとしても両制度は等価値であり、監査役制度における監査役(会)は執行部のピラミッドの中に入っていない立場、委員会制度における社外取締役はピラミッドの中で取締役会のメンバーとしての、社外の立場からCEOをチェックする立場である。
監査役に会計監査人の選任議案や報酬を決定するという業務執行権限を与えることとなれば、業務執行を行わないが故に経営陣から独立の存在であることに大きな価値がある監査役制度の趣旨に反し、監査役が会社の業務執行の一端を担うことより、業務執行の意思決定の二元化をもたらしかねない。
監査役は、会計監査人の選任議案について同意権を有しているのに加え、取締役会が選任しようとする会計監査人が適当でないと監査役が判断すれば同意を与えないことにより監査役の意見を反映することができ、取締役会に対する牽制機能となる。また、監査役(会)は議案提出請求権も有しており、会計監査人の選任に関してイニシアティブを取れる立場にある。同様に、監査役は会計監査人の報酬についても同意権を有している。
会計不祥事は、選任議案・報酬の決定権が業務執行側にあることにより生じているというよりは、一部の不見識な経営者やそれに同調する一部の監査人の倫理観の欠如から起きていると考えられる。監査人が職業倫理を貫き、監査役が自らの持つ権限を生かしてそれをサポートすることが重要である。
東証が2008年に行った上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する投資家からの意見募集(以下、東証投資家アンケート)の結果によると、内外の投資家から、株主総会における議決権行使結果の開示を求める意見が寄せられている。
会社法上は、委任状及び書面投票について、総会後3ヶ月間、株主の閲覧に供することとなっているが、これに加えて、株主総会における議決権行使結果について、総会後に各企業ホームページなどで行使結果を公開している企業が見受けられるようになってきた。全ての企業において議決権行使結果を開示できる環境が整っているかどうかについては意見の分かれるところであり、法律や上場規則等で開示を義務付けるべきではないと考えられるが、株主とのコミュニケーションを一層充実させる観点から、企業が自主的にこのような取り組みを推進していることは評価に値する。
事前行使の段階で、議案が可決条件を満たしていることから、株主総会当日出席株主の賛否の詳細な集計を省略しているケースが多く、現時点では当日投票分を含めた開示は実務的に対応困難である。また、上場会社であっても、株主総会は権利を有する株主のみによって構成される会議体であることが法律上の大原則であり、企業の実務もその原則に従って運用されている。一方、議決権行使結果を株主に限らず広く開示することにより、株主総会の外からの影響力が増大したり、当日の議決権行使分を含まない数字を開示することにより誤解を生じかねない数字が一人歩きしたりするなど、場合によってはガバナンスを歪める事態を招くことも懸念される。したがって、実際の対応については、個別の実態に即した各企業の判断に委ねるべきである。
現行制度においては、定款に定められた授権株式数の範囲内であり、かつ有利発行に該当しない限り、取締役会決議により特定の第三者に新株を発行することが可能である。
しかし、東証投資家アンケートでも指摘されているように、内外の投資家から、大規模な第三者割当増資によって既存株主の権利が希釈化されたり、会社の支配権の移動が生じたりすることや、割当先に関する情報開示が不十分であることを問題視する意見が寄せられている。特に、苦境にある企業が反社会的勢力等につけこまれて行われたのではないかと言われる事例が見られることから、市場の公正性、企業経営の健全性の観点からも看過できない。
発行会社としてのアカウンタビリティを充実させ、既存株主の権利が不当に毀損されないよう配慮する必要がある。企業の機動的な資金調達を阻害することのないよう十分留意しながら市場の公正性や既存株主の保護等の確保とのバランスの観点から、取引所において割当先に関する実質審査を充実するとともに、割当先の資金手当ての状況の開示等、市場の信頼性のより一層の向上に向けた検討をすべきである。
いずれの国の企業であっても、法律や取引所規則等によって求められている形式要件を満たせばそれでコーポレート・ガバナンスは完全であるということはなく、企業の活動する社会・経済環境や市場の状況を踏まえ、個々の企業・事業内容に適したコーポレート・ガバナンスのあり方を追求し続ける必要がある。
わが国としても、対外的に日本の会社法制と実務について、内外の投資家からの一層の理解を得るため活発に発信をしていく必要がある。また、各企業においても、引き続き活発なIR活動などを通じて、投資家との相互理解を深め、説明責任を果たしていくことが重要である。
各企業による自主的なコーポレート・ガバナンス強化の取り組みは進展しているものの、企業によるばらつきも大きい。日本経団連としても、企業によるコーポレート・ガバナンスの一層の充実にむけた自主的な取り組みが促進されるよう、活発な活動を続けていく。また、企業が株主をはじめとする多様なステークホルダーとのコミュニケーションを図るために、運用や議決権の行使について決定権を持つ実質的な株主に関する情報を企業が把握しやすくする仕組み #22 を導入するなど、会社と株主の間の双方向の対話促進のための環境整備が不可欠である。さらに、ガバナンス機構の改善に向けた企業の創意工夫を可能にするためには、監査役会制度と委員会制度それぞれの良いところをとり入れた多様な組み合わせを制度上認めることも考えられる。
わが国の金融・資本市場に対する信頼性を一層向上させる観点からも、日本経団連としては、本中間整理を起点として、内外の政府や機関投資家との対話を一層積極的に行うとともに、市場関係者等との連携を強化しながら、引き続き、企業が企業価値向上につながるコーポレート・ガバナンスの実質を高めるための取り組みを行いたい。