「安全・安心な住生活と内需拡大の実現に向けた緊急提言」概要 <PDF>
世界経済が100年に一度の大不況に見舞われるなか、わが国経済もかつて経験したことのない危機に直面している。なかでも住宅投資は、金融不安や雇用情勢の急激な悪化などの影響を受け、大幅に落ち込んでいる(資料1)。景気回復のために即効性のある需要創出策が求められるなか、関連分野への波及効果が大きく、本来、内需の柱としての役割が期待される住宅投資のこれ以上の落ち込みを防ぎ、むしろ内需拡大の牽引役とすることが、今、強く求められている。
地球温暖化問題に対応する上で欠かせない住宅の省エネ化、国民の生命を守るための住宅の耐震化・不燃化といった課題に対しては、かねてより着実な対応の必要性が指摘されてきたところである。これらの対策は需要創出にもつながることから、この際、前倒しをして実施していく必要がある。
以上のような観点から、住宅分野への税財政・金融上の思い切った支援策を講じることにより、国民の安全・安心な住生活を支える社会インフラ整備の推進を図り、需要創出につなげるべきである。以下は、日本経団連が3月9日に公表した「経済危機からの脱却に向けた緊急提言〜平成21年度補正予算の早期実行を求める」を踏まえ、住宅分野において平成21年度補正予算において措置すべき緊急対策を提言するものである。
京都議定書の目標を達成するためには、わが国では、2008〜2012年度で、温室効果ガスの排出量を1990年度(基準年)比6%削減しなければならない。同議定書対象の温室効果ガスのうち、CO2排出量の推移(基準年比の2006年度実績)を見ると、産業部門が約5%減に対し、運輸部門は約17%増、業務その他部門は約40%増、家庭部門は約30%増となっている。このことから、基準年比で増加率が大きい家庭部門における省エネ対策の強化が必要であり、そのひとつの手法として、住宅の省エネ性能の向上が求められる。
そこで、次世代省エネ基準(資料2)を満たす住宅の建設に対する国の補助制度を創設すべきである。また、既存住宅における省エネ改修(資料3)に対する国の補助制度を創設すべきである。
家庭のエネルギー消費においては、暖冷房、給湯がそれぞれ約3分の1ずつと、多くの割合を占めている。したがって、このような分野での省エネが重要であり、よりCO2削減効果の大きい高効率機器の選択が有効と言える。
そこで、高効率給湯機器、家庭用燃料電池、太陽光発電パネル等の普及促進のための補助制度(資料4)を大幅に拡充するとともに、より多くの購入者がメリットを受けられるよう、十分な予算を確保すべきである。
現在、わが国の住宅ストック約4,700万戸の25%に当たる約1,150万戸が耐震性不十分な住宅とされており、これらの住宅の建て替え、改修が急務であるが、十分な進捗が見られない。理由のひとつとして、住民の高齢化が進んでいることもあり、現存住宅の解体費が負担となっているという事情がある。
そこで、1981年(新耐震基準)以前に建設された耐震性・防火性・省エネ性能の不十分な住宅(以下、旧耐震建物)を建て替える場合、解体費の全額を国が補助する制度を創設すべきである。
旧耐震建物約1,150万戸のうち、マンションは約100万戸あるが、規模が大きくコスト負担が莫大となるマンションについては、1992年にマンション建替円滑化法が施行されたにもかかわらず、未だ建て替えが進捗していない。この背景には、国の優良建築物等整備事業(資料5)による補助金が、地方自治体による補助制度の適用を前提としているため、地方財政の厳しい状況のなかで、地方自治体による補助が認められず、結果として国の補助金も受けられないという状況がある。
そこで、国の優良建築物等整備事業による補助金を、地方自治体の補助制度から切り離すべきである。
旧耐震建物の建て替えを進める際に、容積率を上げることにより増加する床を保留床として販売または賃貸することにより収入を得て、建て替え費用の全部または一部を賄うことが多い。しかし容積率の規制により十分な保留床を得られず、建て替え事業が進まないケースがある。
そこで、旧耐震建物の建て替えを促進するために、容積率の規制を緩和すべきである。
良質な住宅ストックの形成を促進するために、平成21年度より長期優良住宅に対する投資減税が導入されたが、減税額が性能強化費用相当額(上限1,000万円)の10%、所得税から引ききれない場合、翌年まで繰越し可能とされている。
そこで、長期優良住宅に対する投資減税(資料6)を拡充し、建設費の性能強化費用相当額(上限1,000万円)の30%を税額控除し、最長5年目まで繰越し可能とすべきである。
長期優良住宅の普及促進の観点から、住宅金融支援機構の優良住宅支援制度(フラット35S)(資料7)の優遇金利0.3%の適用期間を、長期優良住宅については20年間に拡充すべきである。
わが国の個人金融資産は1,500兆円余といわれ、その過半を50〜60歳代が保有している。これを親から子に、または祖父母から孫に贈与することにより、子育て世代の持家取得の促進につなげて、需要の創出を図るべきである。現行の相続時精算課税制度(資料8)は、将来の相続の見通しが立たない時点で選択しなければならず使いにくいとの指摘があり、より簡素な制度とすることが求められる。
そこで、住宅取得資金の贈与に関しては、贈与税の非課税枠を2,000万円に拡大すべきである。
民間金融機関の審査の厳格化により、住宅ローンを利用できないために住宅を購入できない事例が散見される。こうした問題には、住宅ローン税制の拡充だけでは対応できない。
そこで、住宅金融支援機構のフラット35を中心とした住宅ローン(資料9)に対する1%程度の利子補給制度の創設、住宅金融融資保険制度の拡充等により、住宅ローンがより円滑に供給される環境を整備すべきである。
住宅取得時の購入者の負担を軽減し、資金調達を容易にする観点から、不動産流通税(不動産取得税、登録免許税、印紙税)(資料10)のさらなる減免を図るべきである。
国民の安全・安心な住生活を実現するためには、個々の住宅のみならず市街地環境の整備・改善が不可欠であり、これに資する事業を支援していく必要がある。
そこで、住宅金融支援機構によるまちづくり融資(資料11)の融資枠を拡大するとともに、融資要件を緩和すべきである。
市街地環境の整備の観点から、住宅建設、宅地開発に際し公園・緑地等の整備や無電柱化を図るには多額の費用を要することから、事業者にとって大きな負担となり、実施できない場合もある。
そこで、住宅市街地基盤整備事業等の地域要件を緩和し、こうした市街地環境整備に資する事業に対する補助を拡充すべきである。