[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「中期プログラム」策定に関する緊急提言

2008年12月9日
(社)日本経済団体連合会

世界経済が同時不況に陥ろうとする中で、わが国経済は、極めて困難な状況に直面している。

当面、景気を一日も早く立て直すべく、先般とりまとめた「生活対策」の早期実行をはじめあらゆる政策手段を講じなければならない。

他方、国民の間に広がっている将来の生活への不安感、閉塞感を払拭する上で、社会保障制度の立て直しが急務となっている。中長期的に安心で信頼できる社会保障制度を構築することは、萎縮した国民のマインドを前向きにし、経済の活力向上にも大きく資すると考えられる。

このような観点から、経団連では、さる10月に「税・財政・社会保障制度の一体改革に関する提言」を公表し、社会保障制度の機能強化と持続可能性の確立、そして、これに必要となる安定財源を税体系の抜本改革により確保することを主張した。

「生活対策」においては、当面の対策とともに、持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」を本年内に策定することが明記され、現在、政府・与党において具体的な検討が進められている。

われわれは、「中期プログラム」策定に向けた取り組みを高く評価するとともに、その検討にあたっては、以下の視点が盛り込まれることを強く求めたい。

1.中福祉・中負担の社会保障制度の確立

経団連は、10月の提言において、今後高齢化が急速に進む中で、セーフティ・ネットに綻びが生じないように目配りをしつつ、中長期的に持続可能な経済の身の丈にあった社会保障制度の確立が急務となっており、この観点から、「中福祉・中負担」の社会保障を実現していくことが、わが国の目指すべき道であると主張した。

中期プログラムにおいて、「中福祉・中負担」の社会保障制度の具体的な姿や財源規模などを明らかにし、真に必要となる諸施策が講じられることについて国民の理解を深めながら、現状「低負担」となっている負担水準の引き上げを含め、給付と負担のバランスを適切なものとしていく必要がある。

2.基礎年金の税方式化

経団連は、これまで公的年金制度の改革に関し、基礎年金の税方式化が有力な選択肢であるとの主張を重ねてきた。

この点について、本年11月に取りまとめられた社会保障国民会議の最終報告では、税方式化を含め「基礎年金の財政方式に関する議論がさらに深まることを期待する」とされ、同じく社会保障審議会年金部会の中間的整理においても、基礎年金を税方式に転換するという考え方について「中長期的な視点で引き続き議論を行っていくべき」とされたところである。

基礎年金を税方式化することにより、保険料の未納や将来の無年金・低年金問題など現行制度に起因する問題は根本的に解消する。税方式化には巨額の財源を要するとの見方もあるが、保険料負担が不要となることから、総体としての国民負担は変わらない。むしろ、財源を国民が広く負担する消費税に求めることにより、制度の持続可能性が高まる。制度の運営機関を大幅に簡素化することも可能となり、国民にとってわかりやすい制度になると言うことができよう。国民皆年金を実現し、中福祉・中負担の社会保障制度を確立する観点から、基礎年金の税方式化を含めた形でのプログラムを作成すべきである。

なお、税方式化によって厚生年金保険料が引き下げられる場合には、引き下げ分すべてを従業員負担分から控除することなどにより、従業員に還元することは当然である。

3.税制抜本改革と社会保障の安定財源確保

かねてより、経団連は、国民の安心・安全を支え続けるために必要な財源を確保するとともに、個人や企業の活力を高めていくために、税制抜本改革が急務であると訴えてきた。

わが国税体系は、税収の約6割を個人所得税や法人税に依存しており、景気変動に対して脆弱な財政構造となっている。現役世代に対し大きな負担を強いる税体系のままでは、今後高齢化が急速に進展する中で、経済の活力を中長期的に維持することは不可能である。

また、安心で持続可能な社会保障制度を実現していく上で、現役世代の保険料負担に過度に依存する現行の財源方式を改め、消費税を中心に国民全体で広く支えていく方向に見直すことが不可避である。消費税は、経済活動への影響が最も中立で、国際競争力低下への懸念がなく、また、景気変動による税収の増減が少ない安定的な財源である。

社会保障に必要な財源の安定的確保、中長期的な経済活力の維持・向上、国の安定的な税収基盤の確立という観点から、中期プログラムにおいて、消費税率の引き上げ規模、スケジュール、中低所得者層への配慮などを含め、税制抜本改革の具体的な道筋を示すべきである。また、企業活動の活性化、競争力の強化の観点から国際的な整合性を踏まえた法人実効税率の引き下げも待ったなしの課題である。

以上のことに国民の十分な納得を得られるよう、政府は明快かつ適切な説明を尽くすべきである。なお、消費税率の引き上げの時期について、経済情勢を良く見極めた上で実施すべきことは、当然である。

以上

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