2008年7月10日 (社)日本経済団体連合会 情報通信委員会 情報化部会 IT新改革戦略推進ワーキング・グループ |
内閣IT戦略本部では、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会」を2010年までに実現するという目標に向け、2006年にIT新改革戦略を策定した。さらに、IT戦略の目標を確実に達成するとともに、2010年以降も視野に入れた中長期目標を示し、その実現に向けた工程表を明確化するため、本年6月に「IT政策ロードマップ」 を発表した。
「重点計画-2008」は、IT新改革戦略およびIT政策ロードマップに掲げられた目標を達成するため、2008年度に実施すべき具体的施策である。本計画について下記のとおり意見を述べる。
ワンストップ化の実現など、複数の府省庁に跨った取り組みにおいては、全ての関係府省庁が足並みを揃える必要がある。関係府省庁の中に、予算を付けられなかった省があったためにワンストップ化が実現できないといったことが無いよう、施策を推進する主体を明確にした上、予算措置の権限を持たせるといった仕組みを検討するべきである。
電子診療録の外部保存については、厚生労働省および経済産業省によりガイドラインが策定されたところだが、外部保存に関するIDC事業者とASP事業者の位置づけが未だ明確にされていない。また、事業者にとって事業運営上かなり厳しい条件も散見される。電子診療録の外部保存にASP事業者が携わることも念頭に置き、ガイドラインの改定を検討するべきである。
「社会保障カード(仮称)の検討にあたっては、住民基本台帳カード及び公的個人認証サービスの普及に関する検討と一体的に進める」とあるが、電子私書箱(仮称)もこれらのカードと密接な関連の下、1つの電子政府基盤を成すものであるため、一体的に検討する体制を早急に整備するとともに、官と民の役割分担についても早期に方向性を明確化する必要がある。
その際、将来的には利用者にとって魅力あるサービスが提供できるよう、電子マネー等の既存の民間サービスとの連携も視野に入れた検討を行うべきである。
また、複数府省庁の所管に跨るため、検討の際には責任を持つ担当省庁を明確にし、法整備・財源確保を念頭に置き、実現性を担保しながら推進するべきである。
経済財政改革の基本方針2008(原案)にも低炭素社会の構築が記載されているとおり、今後の社会における環境負荷低減は一層重要な課題になる。低炭素化は社会にとっても重要な取り組みである一方、日本企業の技術を更に強化するという競争力強化の観点からもITの環境負荷低減を実現する研究開発の思い切った増額が望まれる。更に、ITによる環境負荷低減については、オフィス・家庭と物流・交通分野について記載されているが、より幅広い分野における一層の支援を期待する。
また、「グリーンIT」の着実な推進に当たっては、企業等における環境貢献度の可視化が必須であり、環境負荷低減に寄与した企業が適切に評価される手法及び枠組みを構築し、普及させる必要がある。評価の際には、単純な製造段階におけるエネルギー使用量だけでなく、家庭・他企業等における製品・サービス利用段階の環境貢献や、リサイクル・廃棄時における環境負荷等も視野に入れた、産業連関的な観点及び供給製品のライフサイクル全体評価の観点からも適切に評価されるものになるよう検討すべきである。
全体として、IT新改革戦略の取り組みが利用者である国民・企業に一層理解されるよう、継続して広報・啓発活動を実施しながらこれらの施策が進められていくことを期待する。
プローブ情報はその精度と鮮度を高めることにより、ユーザーにとって有益なものになると考えられる。現在個々に進められているプローブサービスを連携し、交通渋滞の緩和、環境改善に向け、明確な目標達成期限を設定するとともに、関係府省庁と民間の一体となった活動が推進されるべきである。
災害対策としては、迅速な事後対応とともに減災の観点が重要だが、災害発生時にも混乱なくスムーズに対応するためには、災害時のみならず平常時から公共施設等の社会資本の維持管理や河川・道路空間の監視など国民生活の安全・安心を守る用途に活用可能、かつ災害時には減災や迅速な情報収集を可能とするシステムを構築すべきである。
また、このような基本的な考え方を具体化するため、国土交通省が次世代の河川管理として取り組んでいるユビキタス河川情報システムや双方向型プラットフォームの整備、線的・面的・時間的にきめ細やかな監視の実現に向けた技術開発などを重点計画として推進すべきである。
災害時等においては、関係する全ての防災機関が迅速に状況を把握し、国民の安全を確保する必要があることから、防災情報基盤の整備主体には、内閣府及び総務省だけでなく、国土交通省等の防災関係機関も参画することが不可欠である。
また、防災関係機関は、各府省が個別に様々なプラットフォームの構築に着手していることから、このような現状を踏まえたうえで、防災情報の共有にあたっては、先進的な組織横断の事例を参考にし、防災関係機関間における情報の取り扱いの統一化など、組織間連携に向けた方策について方向性を示すべきである。
各府省庁の業務継続計画について、「2008年度を目途とした各府省の計画策定やその後の運用のための支援を行う。」とあるが、運用を行う際には、内閣府は支援するだけでなく、その取り組みを評価しPDCAを回すことが重要である。
車両からは直接見えない範囲の交通事象に対処すべく、必要に応じて運転者に情報提供、注意喚起、警報等を行うインフラ協調による安全運転支援システムは国民にとって新たなシステムであり、今後の交通事故削減に重要な役割を担っていく。それ故、国民の理解を深めるため、実車体験や広報を通じ、そのシステム有用性が正しく、分かりやすく周知されるようにするべきである。
国際標準化活動は国際会議でのイニシアチブをとることが重要であり、ドキュメント作成、内容のネゴシエーション等、語学力を含め様々な能力が要求される。路車間通信や走行制御等、ITS技術における国際標準化の推進にあたっては、有力な技術開発とともに国際会議を主導できるような人材育成、専門家委託等も併せて検討し、戦略的に推進することが重要である。
行政機関間の情報連携基盤となる国民IDや統合された企業コード(以下、国民ID等)が整備されていない現状では、複数の府省庁・自治体に跨るバックオフィス連携による行政事務の効率化や手続の統合を前提とした、真に便利で効率的な電子行政サービスを提供することはできない。世界一便利で効率的な電子行政の実現のためには、電子行政先進国に倣い、電子行政の基盤となる国民ID等の整備をしっかりと行い、この基盤に立脚した行政手続きのワンストップ化やバックオフィス連携に係る政策を推進すべきである。国民ID等の整備にあたっては、多岐に亘る制度について、多くの府省庁・自治体と調整する必要があることから、総理大臣直轄の推進体制を整備し、トップダウンで推進すべきである。
政府ではオンライン利用促進の取組みが盛んに行われているが、利便性が高く効率的な電子行政が実現すれば、結果としてオンライン利用率は自ずと上昇するはずである。したがって、「単位申請手続き当たりの所要時間」や「コストの削減率」といった成果指標型の数値目標を設定するべきである。
電子行政への取組み強化を図るには、府省庁横断的に予算措置等の権限を持つ推進組織と通則法の整備が不可欠である。重点計画では、通則法に関しては、2009年の通常国会への提出を目指すことが明記されているが、推進組織に関しては、「司令塔」機能の具体的内容がまだ詰められていない。したがって、推進組織の「司令塔」機能を早急に明確化し、整備する必要がある。
公的個人認証サービスについては、使い勝手を向上させるとともに利用範囲を拡大し、普及促進に努めるべきである。また、既に普及しているインフラで公的個人認証を利用できるようにすることが、さらなる利用促進につながると考えられ、携帯電話での利用を視野に入れた検討を行うべきである。
現在の最適化の推進・評価においては、システムの最適化のみがフォーカスされており、その前提となる業務の最適化が十分に行われていない。業務について最適化計画や評価指標を明確化したうえ、自己評価だけで無くGPMO等の第三者による評価が必要である。
なお、システムの最適化に当っては、価格の安さだけを追求するのではなく、信頼性等を多面的に検討するべきである。
「政府の情報システムの調達において、特定事業者の独自技術によらない、オープンな技術標準に基づく調達を促進するため…」との記述があるが、「特定事業者の独自技術」という表現は、独自技術=独自製品との誤解を読者に与える虞がある。本項目の意図は、相互運用性の確保等の観点に立った政府の情報システムにおけるオープンな「技術標準」の積極的な採用にあるはずである。従って、オープンな技術標準を実装した民間企業の独自製品は推奨されるべきものであり、読者の誤解を招く「特定事業者の独自技術によらない」をいう表現を、「オープンな技術標準の積極的な採用による」という趣旨に変更するべきである。
国と地方公共体を結んでいるネットワークについてはLGWANに統合することにより重複投資を省き、トータルコストの抑制に努めるべきである。
独立行政法人等に横断的な課題、国と共通の課題等については、システム・サービスの共有化や民間へのアウトソーシングにより大幅な効率化・コスト削減が期待できるため、積極的に検討するべきである。
CIO補佐官、PMO等の役割は非常に重要であるが、現状では十分な権限が付与されていないため、有効に機能しているとは言えない。また、電子政府評価委員会による評価結果にも、拘束力が伴っていない。電子行政を推進する上で重要な役割を果たすこれらの機関には、電子行政推進法(仮称)において一定の権限を付与するべきである。
e文書法や電子帳簿保存法により、保存義務のある国税関係帳簿書類を電子データにより保存することが可能となっているが、承認取得にあたり、審査の基準が非常に高いため、紙での保存コスト以上の情報化投資が必要となり、ほとんど普及していない。当制度は企業における国税関係帳簿書類の保存コスト削減や、企業活動の環境負荷低減、コンプライアンスの向上に加え、国税当局の税務監査の効率化にも繋がるため、普及阻害要因の分析を行い、企業の情報システムの実態を踏まえ、より多くの企業に普及するよう、制度の改善や運用の見直しを早急に行うべきである。e文書法に関しては、IT戦略本部にて構築した象徴的な制度であり、重点計画2008では、評価・実施体制の充実強化を謳っていることからも、評価専門調査会にて当件を取り上げるべきである。
光ファイバ等の「整備」に当っては、全国約3万km以上にわたって整備されている国土交通省が管理する光ファイバ網の利活用も念頭に置き、効果的な「整備」を促進するべきである。
情報セキュリティの強化に向けた事前対策の徹底は継続していくべきであるが、「完全な事前防止は困難」との観点から、問題発生時の迅速かつ実効的な対応により事業継続性を確保する「事故前提社会」への対応力強化も視野に入れた総合的な情報セキュリティの強化に取組む必要がある。
情報システムの取引における現行の「人月方式単価」による価格決定方式からの脱却およびパフォーマンスベース契約の普及を図るには、まず、官公庁調達において率先して実施するべきである。そのため、責任主管として、経済産業省に総務省も加えるべきである。