日・スイス経済連携協定の早期締結を求める 【概要】
(PDF形式)
日本経団連では、昨年4月の提言「欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方」において、経済連携協定(EPA)は日欧経済関係強化のための有効なツールのひとつとなるとの考えを示した。また、昨年10月には、提言「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」を取りまとめ、包括的で質の高い多国間・二国間EPAの推進を積極的に働きかけてきた。これを受けて、政府においても各国・地域とのEPA交渉を精力的に進めている。
しかしながら、わが国との間でEPAを締結、大筋合意済みの国々との貿易は、現時点でわが国の貿易総額の約14%を占めるに過ぎない。交渉開始合意国まで含めてもその割合は1/3にとどまる。したがって、貿易・投資の自由化の一層の促進に向け、EPAの拡大は、引き続き重要な課題である。また、EPAの締結に向けて、物品貿易のみならず、サービス貿易、投資、ビジネス環境、知的財産権等に係わる問題点を洗い出し、議論すること自体、経済関係の一層の緊密化に資することになる。
こうした観点から、今般、日本とスイスのEPA交渉の開始が、政府間共同研究会報告書の提言を受けて、合意されたことを高く評価する。政府においては、以下に掲げるような経済連携強化の意義、EPAに期待される効果を踏まえ、交渉を迅速かつ着実に進め、先進国間同士に相応しい包括的で質の高いEPAの早期締結を目指すべきである。
スイスにとって、わが国は、EU、米国に次ぐ重要な貿易パートナーである。また、わが国との貿易収支はスイスの大幅な出超であり、精密機器等を中心に対日輸出は近年好調に推移している。このような中、スイスは、わが国との経済連携の強化を望んでおり、スイス経済界からも日本とのEPAの推進を求める提言が公表されている #1。スイスとの経済連携の強化は、わが国にとっても、同国との貿易・投資関係の拡大のみならず、次のような意義を有している。
わが国とスイスは、世界貿易機関(WTO)や経済協力開発機構(OECD)など国際的なルール作りの場において緊密な協力関係にある。特に、交渉が成功裡に終結するか否かの岐路にさしかかっているWTOドーハ・ラウンドにおいて、スイスとのパートナーシップは重要である。そうしたスイスと経済連携を強化することは、わが国の主張を国際的なルールに反映する上で有益である。
スイスは、1960年に発足した欧州自由貿易連合(EFTA)のメンバーであり、1972年には欧州共同体(EU)との間でFTAを締結している。これらを含め、今日、スイスの対外貿易の8割以上がFTAによってカバーされており、この比率は交渉中のFTAが実現されれば、更に高まる見込みである。このような中、FTAの言わば先進国であるスイスとの間で包括的で質の高いEPAを実現することは、わが国が貿易上不利な立場に置かれることを回避できるだけでなく、わが国がEPAを拡大・深化していく中で他の国・地域と交渉するにあたって、大いにプラスになるものと考えられる。
日本からスイスへの輸出の7割強が有税であり、輸出総額に占める割合の高い乗用車、モーターサイクル、テレビ、ビデオ等に対する従量方式の関税を含めて撤廃されることになれば、現在、EU・スイスFTAの下で無税輸入されているEU原産品に比べて劣位にある日本原産品の輸出拡大が期待できる。
サービス貿易では、ネガティブ・リスト方式を採用することによって、現行のWTOの約束表を超えた高度な自由化が実現されることが期待される。特に、コンピュータ、電気通信、音響映像サービスにおける自由化が重要である。
EPAの貿易促進効果を最大限享受するためには、利便性の高い原産地証明制度が不可欠である。政府間共同研究では、スイス側の原産地証明制度を分析することは、日本側が同制度を簡素化する際の参考となりうるとされている。スイスを含む欧州諸国は、原産地証明として「インボイス申告」を使用できる認定輸出者制度を採用し、企業の原産地証明取得コストを大幅に軽減している。また、スイスは一部の国とのEPAにおいて、自己証明制度も導入している。わが国としても、スイスとのEPAにおいて、これらの制度を参考にして利便性の高い制度を導入し、そのメリットを検証することによって、他の国・地域とのEPAへの採用を検討すべきである。
わが国企業の対スイス直接投資は、EUおよび米国企業の対スイス投資に比べ低い水準にとどまっている。また、スイスから日本への直接投資に比べても低調である。このような中、EPAによって、スイスにおける(1)取締役の国籍・居住要件(取締役会の成立要件として過半数がスイスに居住するスイス人であることを規定)、(2)滞在許可証発給の人数制限が不適用となれば、投資環境が改善し、わが国からの直接投資促進につながることが期待される。あわせて、スイスの滞在労働許可手続きの円滑化(証明要件の緩和など)が図られることも必要である。
日・スイスはともに最先端の技術力を誇る知的財産立国であり、また、世界的に通用するブランドを有する企業が両国には多数存在することから、知的財産権の保護が強化されることは、両国の企業にとって大きなメリットとなる。これまでのEPAは、締約国間同士での知的財産保護の効率的な制度運用やエンフォースメントを規定するにとどまっていたが、日・スイスEPAでは、今後のモデルとなるような第三国における模倣品、海賊版対策の協力など、質の高い知的財産権の保護に関する規定が盛り込まれることが期待される。