今日、急速にグローバル化が進展し、ヒト・モノ・カネの移動は、一層活発化している。特に、資本市場における資金の流れは、瞬時にして国境を越え、企業や投資家は、最も条件のよい市場を選んで自由に資金調達や投資を行なう時代が到来した。これに伴い、会計基準の国際的な比較可能性がビジネスインフラの一つとして、ますます重要になっている。
このような視点から日本経団連では、2003年に「会計基準に関する国際的な協調を求める」と題した提言をとりまとめるなど、一貫して会計基準のコンバージェンスを支持してきた。関係者の積極的な取り組みもあって、欧州連合によるわが国会計基準の同等性評価において、欧州証券規制当局委員会(CESR)が、日本の会計基準が国際会計基準と同等であると判断したように、日本においても、高品質で国際水準と同等な会計基準の開発が進んだ。また、2008年度からは、全ての上場会社が、内部統制の評価と四半期開示を行なうなど、企業の財務情報の透明性と市場の信頼性の確保へ向け、わが国の資本市場のインフラは確実に整備されてきている。
他方、会計基準のコンバージェンスを巡っては、本年2月に米欧の間で2009年を目途に相互承認を行なうべく、当局と基準設定主体の双方が、会計基準のコンバージェンスと、その過程としての相互承認の実現に向けての合意が成立し、更に大きな一歩を踏み出した。これに呼応し、欧州委員会は日・米・加の会計基準の使用を2009年度まで認める法案を欧州議会に提出した。今後、国際会計基準と米国基準とのコンバージェンスが進む中で、日本基準だけが大きく乖離してしまえば、世界に日本基準が異質な基準であるとの印象を与え、国際的にビジネスを展開している企業の活動を妨げ、日本基準の孤立化、ひいては、日本市場、日本企業の信頼性の低下につながる可能性があり、懸念を抱く。そのような事態になれば、国際的な事業展開をしている企業は、国際会計基準に基づいた財務情報を作成せざるを得なくなる可能性がある。
わが国が追求すべきは、日本の資本市場の活性化と企業活力の強化であり、グローバルな競争力を有し、高付加価値を生み出す製造業と高品質のサービス業の育成・発展である。わが国としては、2009年までに、日米欧間における会計基準のコンバージェンスを加速化し、相互承認を実現することが、当面の最大の課題である。
そのために、日本経団連は、会計基準のコンバージェンスの加速化を積極的に支持する決意である。世界から信頼される日本企業と日本市場の形成のため、金融庁や企業会計基準委員会(ASBJ)をはじめとするわが国の関係者が一丸となって、会計基準のコンバージェンスを加速するとともに、日米欧の金融当局間で相互承認を実現するためのフレームワークに合意するよう、米欧の当局に対して早急に働きかける必要がある。
この目標を実現するためには、下記のような様々な課題が生じることが予想されるが、日本経団連としては、関係者と緊密な連携をとりつつ、その解決と実現に取り組んでいく。
日本経団連は、世界の主要な基準設定主体である、国際会計基準審議会(IASB)、米国財務会計基準審議会(FASB)、ASBJの活動を積極的に支持し、三者がより活用しやすい会計基準の設定のために、互いの活動につき、定期的に意見交換を行ない、相互に理解を促進していくことを提案する。同時に、IASBには会計基準の検討にあたり、財務諸表作成者、利用者、監査人、市場監督当局等の市場参加者の現実的なニーズに耳を傾けるよう、強く求める。
特に、現在行なわれているIASBにおける業績報告や金融商品等の議論は、極端に資産/負債アプローチに基づいており、全面時価会計につながりかねない方向に進んでいる。これらが、短期的視野に基づく企業経営を助長し、経済の長期的成長を阻害しかねないと懸念する。企業は、ゴーイング・コンサーンの下、長期的視野を重視した経済活動を行なっており、このことが結果的に投資家の利益につながる。我々がそうした視点からこれらのプロジェクトに積極的に参画し、意見発信をしているということを、IASBは十分に考慮すべきである。IASBには、「革新的な会計基準」ではなく、企業側の実務負担に配慮した、実態に即した基準の開発を望む。
また、国際会計基準委員会財団(IASCF)の評議員会には、IASBに対する監視・監督機能の役割をこれまで以上に果たし、ガバナンスを強め、IASBが企業の活動実態に即した国際会計基準の開発を行うよう指導することを求める。
わが国の会計基準の開発を担っているASBJの役割の重要性を認識し、その活動を引き続き支援していく。今後、ASBJが世界の基準設定主体とともに、グローバルかつ高品質な会計基準の開発の中心的役割を担っていくにあたっては、現在の体制の更なる強化が必要であり、その実現に向け、各関係者の理解と協力を求めたい。
限られた時間の中で会計基準のコンバージェンスをよりスムースに進めるため、法人税の課税所得計算のあり方については、関係当局との密接な協力の下、個別に解決を図る必要がある。その際、企業の競争力、活力の向上と、国際的イコール・フッティングを視野に入れた総合的判断を行なっていくべきである。