[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子について」
に対するコメント

2006年1月23日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会
消費者法部会

政府においては、消費者契約法制定時の附帯決議(平成12年)や司法制度改革推進計画(平成14年閣議決定)等に基き、消費者契約において、同種の被害の発生・拡大を未然に防止するという「消費者全体の利益」を守るために、一定の団体に、事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める制度(「消費者団体訴訟制度」)の導入に向けて、検討がなされている。

消費者団体訴訟制度は、本来、訴訟を起こす資格や権限を有しない団体に対して、「消費者全体の利益」という公益のために、特別に差止請求権を認めるものであり、我が国の民事訴訟において前例のない制度となる。したがって、制度の濫用・悪用がなされる懸念があり、その場合には、不当な目的等による有形無形の利得を助長するのみならず、健全な事業活動が阻害されるおそれがある。

したがって、本法律案の作成にあたっては、我が国の民事訴訟制度との整合性を図るとともに、制度が濫用・悪用されることのないよう、国民の信頼に足る堅実な制度設計を行う必要がある。今回、パブリック・コメントに付された「消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子について」は、全体としては、制度の濫用・悪用防止に一定の配慮がなされており、今後の立法作業において、本案が法律上明確に規定されることを強く求めるとともに、下記のような経済界が特に懸念している事項についても、十分配慮していただきたい。

内閣府
消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子
(「消費者団体訴訟制度」の導入について)
http://www.consumer.go.jp/info/soken/kossi.pdf

1.適格消費者団体

(1)適格消費者団体の認定等−適格要件−

  1. 「差止請求関係業務を適正に遂行するための体制及び業務規程が適切に整備されていること」等のように、定義が不明確な要件がある。制度の濫用・悪用や運営上の混乱を防ぐ観点から、「適正に遂行」ならびに「適切に整備」の内容を明確にする必要がある。

  2. 「理事に占める『特定の事業者の関係者』又は『同一業界関係者』の割合が、それぞれ3分の1又は2分の1を超えていないこと」とあるが、このような要件では、適格消費者団体に対して、事業活動を行う者や政治団体等からの影響力の排除には、不十分である。企業恐喝的な訴訟、和解金目的の訴訟、競争事業者による悪用等を徹底排除するため、事業者の役員・重要な使用人、適格消費者団体等と契約関係にある弁護士等については、過去5年以内にそうであった者を含めて、適格消費者団体の役員への兼任を禁止するか、少なくとも「特定の法人又は個人により実質的に支配され、『特定の事業者の関係者』又は『同一業界関係者』の割合が、それぞれ3分の1又は2分の1を超えていないこと」との要件が機能しない場合を排除する規定を設けるなど、より適正な要件とすべきである。また、「特定の事業者の関係者」ならびに「同一業界関係者」の定義を明確化すべきである。

  3. その他:適格消費者団体は、消費者全体の利益を擁護するために、差止請求権という特別の権利を付与されることから、多くの消費者からの支持を得ていることが必要である。その根拠として、消費者利益代表性の観点から、「一定以上の会員規模」を有していることも、要件に加えるべきである。

(2)差止請求関係業務等及びその監督等

  1. 適格消費者団体は、「差止請求権を濫用して行使してはならない」とし、不正な目的による訴訟を却下する仕組みを導入することには賛成であり、実効ある制度運用が期待される。

  2. 「業務及び経理の状況について、専門性を有する第三者の調査を受け、その調査報告書を情報開示しなければならない」としていることには、開示された情報の適正性を担保するために不可欠であり、賛成である。ただし、第三者の役割の重要性に鑑みて、「専門性を有する第三者」の定義を明確にするとともに、第三者に求められる資質として、専門性のみならず、「公正」「誠実」「品位」の要件を課すべきである。

  3. 更新制の有効期間について、「3年」では、不適切な訴権行使の排除の観点からは、不十分である。有効期間を短縮(例えば、毎年の更新制)することが望ましい。

  4. 「適格消費者団体は、政党又は政治的目的のために利用してはならない」としていることには、賛成である。ただし、「政治的目的」の具体的な内容については、ガイドライン等で、詳細かつ厳格に規定する必要がある。

  5. その他
    a) 情報公開を含め、適格消費者団体の適切な運営を確保するため、理事ならびに調査を行う第三者の責任に関する規定を整備する必要がある。なお、政府においても、十分な監督ができる体制を整備することが求められる。

    b) 差止請求に係る判決については、希望者に対しては、全文を入手できるようにすることが望ましい。

2.訴訟関係

(1)適格消費者団体に対して、「事業者に対し書面による事前の請求をし、その書面の到達時から一週間経過後でなければ、差止めの訴え(仮処分命令の申立てを含む)を提起することができない」としているが、1週間という短期間では、事前請求に応じるか否かの判断が困難である場合も想定される。したがって、少なくとも営業日ベースとした上で、特別の事情がある場合には、期間を延長できるようにすべきである。

(2)管轄について、民事訴訟法第5条の特別裁判籍として、「事業者の営業所等の所在地の管轄(第5号)」を認めることとしているが、手続面での迅速な対応や、特に中小企業など応訴の負担、同時複数提訴による弊害等を十分考慮する必要がある。したがって、原則、被告の本店所在地とし、特別裁判籍として「事業者の営業所等の所在地の管轄」は、当事者双方の合意がある場合に限り認めることが望ましい。

(3)(注)において、「訴訟上(訴訟外も同様)、(a)図利加害目的の請求はすることができず、(b)他の適格消費者団体による確定判決等が存する場合、同一事件の請求は原則としてすることができない」としているが、本内容は、制度の濫用・悪用排除の観点から重要な事項であり、法律上明文化すべきである。

(4)その他

  1. 「担保提供命令制度」は、原告に一定の負担を課すことによって、原告と被告との間で適切なバランスをとるとともに、不当な訴訟によって被告が受ける損害を補填することに意義があり、不当な訴訟を却下する仕組みと趣旨・機能を異にする。また、本制度は、裁判所の判断により、悪意など不当な目的による訴訟であるおそれがある場合に限って発動されるものであり、健全な訴訟活動には無関係である。さらに、仮処分の申立てを行わずに、直ちに正式裁判を選択する可能性もある。したがって、制度の濫用・悪用に万全を期す観点から、「担保提供命令制度」も、法律上明記することが望ましい。

  2. 複数の適格消費者団体が、実質的に同種の行為について、複数の裁判所に訴えを提起した場合には、1箇所の裁判所で取扱うことができるようにすべきである。

  3. なお、本制度が目的とする消費者契約に関する被害の発生・拡大の予防に向けては、訴訟もさることながら、ADRを活用することが有効であり、政府ならびに法曹界においては、その周知・徹底に努める必要がある。

以上

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