2005年12月5日 (社)日本経済団体連合会 経済法規委員会 企業会計部会・企画部会 |
コーポレート・ガバナンスのあり方に関して、わが国では、株主や債権者の保護を使命とする会社法制において実体的規制が行われており、米国のように、連邦会社法が存在せず、証券諸法と証券取引所規則でそれを代替する必要がある国とは、状況が異なる。わが国の証券取引所によるコーポレート・ガバナンスへの取組みを検討する際には、米国をはじめとする諸外国との法制度全体との相違を踏まえる必要がある。
今般、東京証券取引所による「コーポレート・ガバナンス報告制度」は、単なるアンケートとは異なり、企業名や個別データが公表され、かつ実質的な制裁を伴う上場規則に基づく報告である。したがって、企業実態や開示に係るコストとその有用性を十分検討した上で、開示側の企業や情報の受け手となる投資家の混乱やミスリードを防ぎつつ、制度導入を図る必要がある。とりわけ、企業への過剰な負担を強いることがないよう、一律強制の開示項目は、必要最低限のものに絞込む一方で、各社が自主的な判断に応じて、補足説明ができるよう、自由記載が可能な仕組みとすべきである。
なお、今後、具体的な記載内容を決定するにあたっては、企業の実務家の意見が十分反映されるような検討の機会を設けて頂きたい。
日本経団連経済法規委員会企業会計部会ならびに同企画部会としてのコメントは、以下の通りである。
東京証券取引所
「コーポレート・ガバナンスの充実に向けた上場制度の整備について」
http://www.tse.or.jp/guide/comment/051122jojo.pdf
「取締役及び監査役の独立性」のように、概念が曖昧で、現時点ではコンセンサスを得られていない項目が含まれている。このような項目は、東京証券取引所が、「独立取締役・監査役」を導入することが望ましいとの考え方の下、設置を推奨・誘導するかのように感じられる。
また、国際的に見ても、独立取締役の有効性が実証されているかは疑問である。
さらに、独立性について「実質的にみて、当該会社との間で客観性及び中立性が確保され、独立した判断を下すことができる」との定義についても、疑問である。
このように、議論が未成熟なまま、「独立」か否かについて、各社が主観的に判断・開示することになれば、むしろ、投資家の混乱を招くおそれや投資家をミスリードする可能性がある。まずは、実証分析を行った上で、開示の必要性の有無について検討すべきであり、一律に記載を強制するのは、時期尚早である。したがって、各社の自主的な判断に応じて、「社外の人材の活用」について、自由に記載できる仕組みとすべきである。
「独立取締役の有無」や「各種委員会の設置の有無」等のように、「形式」に係る項目が見られるが、このような項目の設定は、東京証券取引所が、これら特定の施策やモデルの採用を推奨・誘導するかの印象が拭えない。コーポレート・ガバナンスの実体的規制は、会社法が担っていることを踏まえれば、東京証券取引所が特定の施策を誘導すべきではない。
また、各種委員会について、その有効性が実証されているかは疑問であるが、各種委員会の設置は、機能発揮の一手段であり、それ自体は単なる形式にすぎない。
コーポレート・ガバナンスについては、形式に捉われることなく、「実際に効果を上げる」ことが重要である。したがって、このような形式に係る項目の設定は不適切であり、実質的な機能に焦点を当てるべきである。
なお、委員会等設置会社と監査役設置会社については、商法(会社法)において両制度に優劣はないという考え方の下、任意に選択することが認められており、「社外取締役」や「各種委員会」の位置づけは異なる。法定のガバナンス構造の違いを踏まえ、報告様式を分けるべきである。また、「各種委員会の設置の有無」については、企業には、非常に多くの委員会が設置されており、その全てを記載させるのは合理的ではない。義務的記載事項はその決定が会社を法的に拘束し得るような「各種委員会」(委員会等設置会社における必置3委員会)に限り、その他の任意に設置された委員会については開示を任意とすべきである。
「当該体制等が自社にとって『適切である』と考える理由や当該体制等を採用したことによる『成果』等」について開示を求めているが、各企業は、常により良い仕組みづくりへの改善に向けて不断の改革に努めている。しかも、企業を取り巻く環境は急速な変化を続けている。したがって、ある時点での体制等を「適切である」と判断させる項目の設定は不適切かつ不要であり、各社の自主的な判断に応じて、自由に記載できる仕組みとすべきである。
使用する用語については、混乱、誤解を生じさせないよう、有価証券報告書など、公的な定義、記載基準と整合性を図った上で、一義的に明確に定義する必要があるが、そのような定義付けが困難な項目(「独立取締役」等)については、削除すべきである。
また、「その他コーポレート・ガバナンスに影響を与えうる各社個別事情等」など、どのような事情を想定しているかが不明な項目も見られるため、記載基準または記載例が示される必要がある。
本制度において、開示が求められている項目の中には、すでに各社が有価証券報告書、営業報告書(事業報告書)等で開示している情報が多く含まれている。企業への過剰な負担を強いることがないよう、「資本構成」、「企業属性」、「取締役・監査役の略歴」をはじめ、法定開示情報と重複した項目は排除し、最低限必要な項目に限定すべきである。
また、「内部統制システムの整備状況」については、すでに有価証券報告書において開示が行われており、営業報告書(事業報告書)における開示も義務付けられることになっている。したがって、本制度における特別の開示は不要である。
「敵対的買収防衛策の導入状況」についても、法定開示の検討が進んでおり、本制度における特別の開示は不要である。
報告時期について、5月までに報告するとしているが、特に上場会社の多数を占める3月決算会社にとっては、決算事務で繁忙を極めている。この時期に、本報告書を準備させることは、企業に多大な負担を課すことになる。
また、コーポレート・ガバナンスに関する重要事項については、株主総会に付議する項目が多く、仮に株主総会前に開示をしても、否決された場合、逆に投資家を混乱させることになる。
したがって、特に移行期においては、株主の意思が反映された最新の情報を開示できるよう、株主総会後の一定期間内に報告することとすべきである。