[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

WTO香港閣僚会議に向けた緊急提言

2005年12月5日
(社)日本経済団体連合会

来るWTO香港閣僚会議は、2006年中の質の高い最終合意を目指している新ラウンド交渉の帰趨を占う最大の山場である。

今秋以来、各国から農業、鉱工業、サービスなど主要交渉分野で、具体的な提案がなされるようになったことは、膠着状態からの一歩前進として評価できるが、農業分野などでは、依然として各国の主張の隔たりが大きい。

仮に香港閣僚会議で実質的な進展が見られず、2006年中の交渉終結が困難となれば、自由貿易体制の根幹をなすWTO体制そのものへの信頼が大きく損なわれ、世界経済の持続的発展を危うくするばかりでなく、国際社会の不安定化を招きかねない。特に、多角的貿易体制から多大な恩恵を享受してきたわが国にとって、その影響は計り知れない。

日本経団連では、かかる認識の下、わが国政府に対して、香港閣僚会議で交渉を何としても前進させ、2006年中の交渉終結に至る具体的な道筋を明らかにすべく、政治的リーダーシップを発揮するよう改めて要請する。そのため、わが国としての総合的な戦略を確立し、それに基づき、迅速な決断ができる態勢で、関係省庁が一体となって交渉に臨むべきである。

香港閣僚会議で実現すべき主要交渉分野ごとの要望は以下のとおりである。

1.農業

わが国が、コア・メンバーの一員として、交渉に参加できるようになったことを歓迎する。市場アクセス、国内支持、輸出競争の3つの分野において、輸出国と輸入国、先進国と途上国の利益が考慮され、バランスがとれた合意を形成することが重要である。わが国は、農産品の輸入国の立場から、真に守るべきは守り、譲るものは譲るとの姿勢で、主体的に交渉し、香港閣僚会議までに妥協点を見出せるよう全力を傾注すべきである。併せて国内農業の競争力強化に資する改革を着実に実施すべきである。

2.鉱工業

わが国の東アジア諸国などへの説得が功を奏し、高関税ほど大幅な関税削減を実現するスイス・フォーミュラの採用に議論が収斂しつつあることを評価する。香港閣僚会議で、スイス・フォーミュラの採用とその係数の合意形成を目指し、引き続き交渉をリードする必要がある。係数については、途上国には緩和された係数を適用することにより途上国への配慮も取り入れつつ、実行税率を大幅に削減する小さな数字とすべきである。併せて、分野別の関税撤廃・削減や非関税障壁の是正に関しても、香港閣僚会議で合意が可能となるよう、努力すべきである。

3.サービス貿易

わが国などが、積極的に提案しているサービス貿易自由化のオファーの質の向上に資する方策について香港閣僚会議で合意し、それに基づく取組みを早急に開始すべきである。また、わが国の関心分野において、より質の高い自由化を目指して世界貿易の大宗(クリティカル・マス)を形成する関係国による交渉を本格化すべきである。

4.その他

他分野より交渉開始時期が遅かったにもかかわらず、通関などの貿易関連手続きの迅速化・簡素化等に関する議論が進展していることを評価する。香港閣僚会議では、貿易円滑化に関する協定の2006年中の策定に向けて、交渉を加速することに合意することが重要である。併せて、ODA等を活用し、後発途上国の交渉参加能力及び協定履行能力改善のための支援に取組むべきである。
またWTOをベースとした公正かつ透明なルールの作成・強化に関しては、特に恣意的・保護主義的なアンチ・ダンピング措置の防止がわが国にとって緊急の課題であることから、アンチ・ダンピング協定の規律の明確化・強化に向けた交渉を2006年中に終結させるために、香港閣僚会議で包括的条文案の提示時期について合意すべきである。

日本経団連では、前回のカンクン閣僚会議に続いて、香港閣僚会議に代表を派遣し、日本政府代表団や各国の経済団体と連携を一層強化し、交渉の後押しをしていく所存である。

以上

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