[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「ユニバーサルサービス基金制度の在り方」答申(案)に関する意見

2005年8月25日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会
情報通信ワーキンググループ

1.総論

(1) はじめに

携帯電話、IP電話の急速な普及等の電気通信市場における環境変化を踏まえ、「ユニバーサルサービス基金制度」の見直しを行うべく、総務省情報通信審議会において検討が進められ、答申(案)「ユニバーサルサービス基金制度の在り方」として、広く意見募集が行われている。そこで、産業ユーザーの立場から以下の通り、意見を提出する。

総務省パブリックコメント:
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=145200571&OBJCD=100145&GROUP=

(2) 答申(案)の概括評価

移動電話、ブロードバンドサービス、IP電話、無線LAN等の通信サービスの多様化、競争の進展など、電気通信を取り巻く環境は劇的な変化を遂げており、今後もその傾向が一層強まることが予想される。このような環境変化に対応して、情報通信分野の競争政策全般のあり方について、早急に検討を行うべき段階に差し掛かっている。競争政策と表裏一体の関係にある社会政策としてのユニバーサルサービス政策についても、このような抜本的な見直しの中で検討されるべき課題である。
今回の検討は、情報通信審議会電気通信事業部会(ユニバーサルサービス委員会)における、現行のユニバーサルサービス基金制度を前提とした検討にテーマを絞ったため、わが国情報通信を取り巻く環境変化を踏まえ、ユニバーサルサービス政策のあり方そのものを根本から検討し直すことが難しかったと考えられる。そのため、「2010年までに国民の100%が高速又は超高速(のネットワーク)を利用可能な社会にする」ことを目標として掲げるu-Japan政策など、総務省の掲げる情報通信政策の方向性との整合性も明確になっていない。
答申(案)では、従来のNTT東・西の採算地域から不採算地域への地域間の補填によるユニバーサルサービスの提供に代わり、産業界を含むユーザーに対し、ユニバーサルサービスを維持するための新たなコスト負担を求める以上、本来は、広く関係者による情報開示の下、下記のような論点について、十分な検討を行うことが重要ではなかったかと考える。

<ユニバーサルサービスの在り方に関して検討すべき事項・例>
  1. ユニバーサルサービスの定義・対象
    ユニバーサルサービスの範囲だけでなく、ユニバーサルサービスの受益者となる対象も含めた精査を行い、誰に対するどのようなサービスがユニバーサルサービスであるかを再定義すべきである。例えば、ユニバーサルサービスを弱者救済と考えれば、高コスト地域であっても別荘を所有するような富裕層を受益者の対象範囲から除くことも必要となる。また、ユニバーサルサービスの受益と負担の関係について、透明性を確保しつつ、双方の理解を得られる内容を提示する必要がある。
    移動電話、ブロードバンドサービス、IP電話、無線LAN、WiMAX、Wi-Fi、衛星通信など通信手段の多様化が進むなか、技術中立性を担保しつつ、緊急時を含めた、ユニバーサルサービス確保のための最適な形について検討すべきである。

  2. ユニバーサルサービスの担い手
    ユニバーサルサービスの確保が社会政策であるとすれば、本来、国、地方公共団体など公的主体がその確保の責任主体となるべきであり、そのような視点からの検討もすべきである。国、地方公共団体から応分の補助を受けつつ、最も効率よくサービスを提供する事業者が担うという方法も考えられる。その場合、行政の肥大化を防ぐ観点から、国、地方公共団体の関与は必要最小限とし、民間の活力を最大限活かす方法が望ましい。
    電気通信サービスのように受益者が国民全体に広がる場合には、社会政策として、バウチャーなどを活用して弱者に対して直接補填を行うなど、既存予算の枠内で、税・財政的手法を活用する新たな枠組みの可能性についても検討する必要がある。

(3) 政府の検討体制

現在、政府において、現在のe-Japan戦略に続く2006年以降のIT国家戦略の検討が進められている。IT戦略本部など、IT政策全般のあり方について議論を行う場においても、今後、ユニバーサルサービス政策のあり方について、検討を行う必要がある。

2.各論 −答申(案)の内容に対する意見

(1) 見直しの背景(第1章)について

答申(案)では、NTT東・西の内部における地域間補填により、ユニバーサルサービスを維持することが困難になりつつあることから、現行基金制度の見直しを行うとしている。しかし、答申(案)では内部相互補助が困難になりつつある状況を示す具体的なデータが必ずしも明確に提示されていない。利用者に新たな負担を課すような場合、その具体的データを示すことが制度変更の前提条件である。

(2) ユニバーサル基金による補填の対象等(第2章)について

「国民生活に不可欠な電話役務のあまねく全国における安定的供給の確保」を図るというユニバーサルサービスの趣旨に照らせば、ユニバーサルサービスの範囲は極力、限定されるべきである。答申(案)では、電話サービスのうち、市内通話サービスは除外され、加入者回線アクセス、公衆電話サービス、離島特例通信並びに緊急通報サービスに範囲が限定されたことは評価できる。
一方、ユニバーサルサービスの担い手については、国、地方公共団体の責任の下、最も効率よくサービスを提供する事業者が担う等、様々な選択肢も検討すべきである。

(3) 補填額の算定(第3章)について

標準偏差を用いた「ベンチマーク」については、最終負担者であるユーザーにとって理解可能な合理的根拠であるとはいえない。また、新たな算定方式の下では、過疎化の進展等に伴い、今後、ユーザー負担の増大が懸念される。答申(案)では、補填額の推計値として、平成17年度(110〜170億円)から、平成19年度(280〜380億円)にかけて、3年間で補填額が約3倍に膨らむと推計されているが、その根拠となる具体的データ、4年目以降の推計についても、ユーザーに明確に提示するとともに、補填額の増大に歯止めをかけるための方策も組み込んでいくべきである。
ユーザーに新たな負担を課すのであれば、受益と負担の関係が理解しやすい簡素で透明性のある基金制度とし、負担の根拠、仕組み、規模など、積極的な情報開示を行い、ユーザーの同意を得る必要がある。

(4) 拠出の在り方(第4章)について

  1. 新たな拠出方式(第2節)について
    新たな基金制度においては、現行の事業者の売上高に応じた負担から、電話番号数ベースでの負担への移行の方向性が示されており、ユーザー負担へと明確に方向転換したことが特徴であると考えられる。
    一方、この方式では、固定電話に加え、携帯電話、IP電話なども拠出の対象となる。今後、携帯電話やIP電話の普及が一層進み、固定電話が減少すれば、携帯電話、IP電話等のユーザー負担において、加入電話の加入者回線アクセスを維持することにもなりかねず、技術中立性、競争中立性を阻害する懸念がある。

  2. 利用者への情報開示(第3節)について
    事業者からユーザーに対する請求書に基金への負担額を明示させるなど、少なくとも、ユーザーがユニバーサルサービスを維持するためのコストを明確に把握できるようにすべきである。

(5) 運用及び今後の課題(第5章)について

  1. 運用について
    今回、基金制度が見直され、稼動すれば、基金を運営・管理する支援機関(以下、「支援機関」とする)がその役割を開始することとなる。
    しかし、本答申(案)では、実際の基金の徴収・交付方法、及び本支援機関の主体・経費・運営等に関する明記がなく、その詳細は明らかにされていない。基金の徴収・交付方法等は総務省の裁量で決定することも可能であることから、国民に対する情報開示、制度設計の透明性の確保については懸念がある。また、本支援機関の運営経費がユニバーサルサービス基金によって賄われるのであれば、運営経費の肥大化等により、ユーザー負担が増大する可能性もある。
    基金制度の運用のあり方に関しては、広く国民に対する情報公開を行い、国民的な議論と同意を得ることを条件に、制度設計を行うべきである。

  2. 基金制度の見直しについて(第3節)
    答申(案)では、制度見直しは2、3年後を目途としている。しかし、昨今の急速な技術進展、市場環境の変化を踏まえれば、より短期間に基金制度を超えたユニバーサルサービス政策自体の抜本的な見直しを行うべきである。
    基金への補填額については毎年度改定されるが、そのタイミングに合わせ、少なくとも1年毎に、電気通信市場の状況と予測を踏まえた形で、基金制度の検証を行う必要がある。

以上

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