第三者評価委員会は、2002年度に各業種のデータ収集・集計方法、また2003年度には、記載内容の充実など、経団連環境自主行動計画の一層の信頼性、透明性の向上のための課題を指摘してきた。
今年度の評価にあたり、欧州排出権取引制度(EUETS)の導入を間近に控えた2004年9月に、イギリス、オランダ、ドイツにおいて実地調査を行い、自主行動計画と排出権取引制度との関係を中心に、関係者との意見交換を行った。
また、各業界から事務局に提出されたデータを精査するとともに、6業種(電力、セメント、海運、鉄鋼、電機・電子、製紙)の担当者から直接説明を聴取した。
以上をふまえ、環境自主行動計画の透明性・信頼性向上の更なる向上に向けた課題について指摘する。
評価報告の対象である産業・エネルギー転換部門から、34業種が今年度のフォローアップに参加している。
参加業種間の重複を避ける観点から指摘したバウンダリ調整については、今年度23業種において問題がないことが確認された(昨年度は2業種)。しかし、調整対象のない場合も含め、未確認の業種が残っており、徹底が求められる。
また、フォローアップの対象は原則として実際に参加している企業に限るべきとの指摘については、30業種について問題がないことが確認できた(昨年度は29業種)。しかし、4業種が依然として拡大推計を行っており、改善が求められる。
各業種が示す2010年度のCO2排出量の予測値の妥当性を高める観点から求めた統一経済指標の採用については、事務局が提示した経済指標#1を採用または参考とした業種は14業種であり、昨年度の2業種から大幅に増加した。統一指標を採用しなかった20業種のうち、採用した指標及び採用の理由、マクロの統一指標とミクロの目標の関連性、整合性について説明を行った業種は8業種であった。12業種については、特段の説明がなかったが、来年度以降、統一指標を用いない場合には、少なくとも自業種が用いる指標の採用理由を説明すべきである。
昨年度の評価報告で求めた、CO2排出量予測の根拠となる生産額や生産量の見通しは、全業種が公表している。来年度以降は、これら数値の根拠も明らかにすべきである。
なお、2010年度の生産見通しならびにCO2排出量見通しについては、事務局の示した統一経済指標を採用した場合を含め、各業種固有の状況をふまえた説得力ある説明を行うことが望まれる。
本年度は目標となる指標の選択理由について33業種から、また数値の設定理由について30業種から説明があり、説明内容の見直しも図られつつある。
排出量の増減に関し、増減理由は29業種、要因分析は32業種と、昨年度に引き続き殆どの業種から何らかの形で説明がなされた。しかし残念ながら、依然一部業種は説明または要因分析を行っておらず、説明責任を果たすよう期待する。また、産業構造の変化の影響の説明等を含め分析手法の検討と精緻化に取り組むことが求められる。
産業部門の取り組みは、製造段階のCO2排出量削減にとどまらず、民生・運輸部門からの排出削減に繋がる製品の使用段階等の排出量削減についても積極的に評価されるべきである。かかる観点から指摘したLCA的観点からの評価については、22業種(昨年度は16業種)から何らかの形で説明があり、うち9業種から定量的評価が示された。
例えば電機・電子4団体は、電気冷蔵庫のCO2排出量について、製造、輸送、使用、リサイクル等各段階について詳細な定量分析を示している。こうした情報開示を高く評価するとともに、他業種においても、同様の取り組みを期待したい。昨年も指摘した通り、中期的には、統一的、定量的な評価に向けた方法論の確立・共有と、各業種からの情報提供が求められる。
参加業種におけるエネルギー効率の国際比較については、9業種から説明があった。国際比較は、各業界のエネルギー効率の現状を把握するとともに、産業界の努力に対して適正な評価を受ける上で不可欠である。特に、信頼性・客観性確保の観点から、第三者的な立場にある研究機関などによる国際比較が必要である。セメント協会のバテル記念研究所の報告書に基づくデータ提示をはじめ、電気事業連合会がECOFYS社との間で使用データについて確認作業を行うなど、具体的な検討が進みつつあるが、他業種においても同様の取り組みが望まれる。
当委員会の過去の指摘事項に対する参加業種の対応状況は、第三者評価委員会として確認したところ別紙 <PDF> の通りであった。来年度以降は、フォローアップ調査において参加業種自らが各事項への対応状況を回答するとともに、日本経団連として一覧性をもって公表することが強く望まれる。
自主行動計画の透明性・信頼性向上のためには、以上の指摘事項に加えて今後以下の課題に取り組むことを期待する。
今年度フォローアップでは、電機・電子4団体について、業態構造の変化をふまえて、目標の見直しが表明された#2。各業種の目標達成の蓋然性向上の観点から、より現実に即した形で目標を修正していく必要性は認められる。しかし、安易に目標の下方修正が行われることのないよう、今後、目標の見直しを検討する場合は、変更理由及び新たな指標や目標値の妥当性について十分な説明責任を果たす必要がある。
さらに、今後の課題として、目標見直しのあり方に関する統一方針を日本経団連として検討する必要がある。
前述の通り、自主行動計画全体の要因分析において、「CO2排出係数の変化」、「生産活動の変化」、「生産活動あたり排出量の変化」に加えて、製造業の海外進出の影響など「産業構造の変化」についても、今後考慮していくことが期待される。
参加業種は4つの指標から、自らが最も適当と考える指標を選び、削減目標を設定しているため、昨年報告で指摘の通り、日本経団連として、計画全体の総量目標と各業種の目標の関係、ならびに総量目標の達成の蓋然性について説明が求められる。
今年度フォローアップでは、自主行動計画でカバーする排出量の約9割を占める主要7業種の見通しをもとに、2010年度のCO2排出量見込みを計算し、目標達成の蓋然性の検証を試みている。引き続き、目標達成の蓋然性の検証方法の改善に向け、検討していくべきである。また、可能な場合は京都メカニズムによるクレジットの獲得見込み量を公表してはどうかと考える。
昨年度報告でも、経済情勢等に関わらず、産業界が責任をもって取り組める指標として、原単位目標の重要性を指摘したところである。CO2排出量の増減については、現在、自主行動計画全体ならびに参加業種毎に要因分析を行っているが、各業種が採用する原単位指標の変化の分析結果も、業種毎に説明すべきである。
政策手法としての自主行動計画の有効性を明らかにし、費用効率的な温室効果ガスの削減を図る観点から、費用対効果が明らかにされなければならない。その一環として、産業界は自主行動計画のコスト評価を、自ら行う必要がある#3 #4。
各業界から提出された数字と国の統計との整合性の確認、自主行動計画全体の目標と各業種目標の整合性の確認、各業種目標の妥当性のチェック、自主行動計画の効果の評価手法の確立、モニタリングレポートの公表、エネルギー効率の国際比較、自主行動計画のコスト評価等の諸課題に対応するためには、専門機関の活用や、データベースの整備が必要である。これらにより、自主行動計画の透明性・信頼性の更なる向上が期待される。#5
民生・運輸部門の参加業種の拡充
金融や情報をはじめとするサービス産業の拡大等、わが国の産業構造が大きく変化している中で、CO2の排出量が増加している民生(業務)・運輸部門における対策強化が大きな課題となっている。民生・運輸部門からは、昨年度に引き続き、23業種・企業が参加しているが、現在のところこれら参加業種・企業からの排出量が、わが国における両部門の総排出量に占める割合は低く、参加業種の拡充が望まれる。
産業・エネルギー転換部門における対策の推進
同時に、産業・エネルギー転換部門の企業内の業務・運輸分野における排出状況についても、定量的な把握と削減への取り組みが求められる。
1.、2. に共通する課題として、これらの部門における排出の現状を正確に把握するとともに、合理的な目標を設定し、排出削減に取り組むことが望まれる。将来的には、例えば業務部門における床面積当り・従業員当り原単位といった統一指標の採用や、共通目標の策定も必要と考えられる。
京都議定書の発効に伴い、温暖化対策を進めるため政府により目標達成計画が策定される#6。京都議定書目標の達成が容易でない中、産業界による、より積極的な取組みが期待される。産業部門・エネルギー転換部門の対策の柱として、まず現行の自主行動計画を着実に実施するとともに、民生・運輸部門についても、自主的な創意工夫の下、効率的な対策に取り組む必要がある。さらに、積極的な情報提供をはじめ、消費者、従業員、NGO等ステークホルダーとのコミュニケーションや連携協力を通じて、国民運動としての温暖化対策の促進に貢献することを期待する。