2005年3月1日 (社)日本経済団体連合会 産業問題委員会・雇用委員会 |
現在法務省は、第2次出入国管理基本計画(2000年3月24日策定)が本年3月末にその期限を迎えることから、新たな出入国管理基本計画(第3次)の内容について検討している。新たな基本計画は、今後数年間に渡り出入国管理行政の指針として、わが国の外国人受け入れ政策に大きな影響を与えるものとなる。
これを受けて、産業問題委員会・雇用委員会合同会合は、昨年4月にまとめた「外国人受け入れ問題に関する提言」 (2004年4月20日) のフォローアップの一環として、改めて強調すべき点や提言発表後の状況変化等を踏まえて、新たな基本計画案について、下記のとおり意見を述べる。
法務省パブリックコメント「第3次出入国管理基本計画に関する意見募集」
http://www.moj.go.jp/
( http://www.moj.go.jp/PUBLIC/NYUKAN19/pub_nyukan19.html )
昨年4月、日本経団連は、多様性のダイナミズムを活かし国民一人ひとりの付加価値創造力を高めていく、そのプロセスに外国人がもつ力を活かすための総合的な外国人受け入れ施策を提言した。提言の主要な柱として、高度人材の積極的な受け入れ、外国人を受け入れるための3原則等を挙げている。
「第三次出入国管理基本計画における主要な課題と今後の方針」において、専門的・技術的分野における外国人労働者の受け入れの推進に加え、人口減少時代への対応として、現在では専門的、技術的分野に該当するとは評価されていない分野における外国人労働者の受け入れの検討に言及するなど、今回の法務省の姿勢は、従来より一歩踏み出したものと評価することができる。
一方、外国人受け入れ問題にかかわる縦割り行政の是正については、従来同様、今回の方針にも方向性が全く示されていない。多文化共生社会を実現していくためには、外国人受け入れに関する現行の縦割り行政を見直し、関係省庁が連携して施策を展開していく必要がある。
そこで、日本経団連は、民間有識者も参加した外国人受け入れに関する検討の場の整備や外国人に係る諸問題を総合的に企画・立案し必要な調整を行うため、内閣に総理を本部長とする「外国人受け入れ問題本部」(仮称)を設置すること、ならびに内閣府に特命担当大臣を置くことを提案する。今後、この総理直属の本部等が中心となって、外国人受け入れにかかわるコストベネフィット分析や地域への影響分析を行い、国として統一した政策方針を打ち出すべきである。また、将来的には、外国人受け入れに関する基本法の制定が望ましい。
以下は、第三次出入国管理基本計画における主要な課題と今後の方針に対する意見ならびに要望である。
わが国政府は、第9次雇用対策基本計画(1999年)、第二次出入国管理基本計画(2000年)において、「専門的、技術的分野の外国人労働者は、日本経済の活性化や一層の国際化を図る観点から、受け入れをより積極的に推進」することを掲げている。かかる方針をより一層推進し、専門的な知識や技術、技能を有する高度人材をはじめとするわが国が必要とする外国人について、更に円滑な受け入れを図るとともに、わが国経済社会のあるべき姿も見据え、その範囲を拡大していくべきである。
専門的な知識や技術、技能を有する「高度人材」の受け入れをより一層促進すべく、わが国で長期的かつ安定的に就労することを望む「高度人材」にとって阻害要因となっている最長3年の在留期間について、例えば「人文知識・国際業務」「技術」「投資・経営」等、総じて専門性が高く不法滞在者も少ない分野の人材については、在留期間を5年に伸張すべきである。同時に、労働基準法の改正により2004年度から高度専門知識を有する者の有期労働契約期間が5年に延長されたこと等も踏まえ、これら高度専門知識を有する外国人が5年の有期労働契約を締結しわが国で就労する際には、その期間に合わせて在留期間を設定すべきである。
また、これら「高度人材」のわが国への永住を促進すべく、永住許可要件を明確化するとともに、高度人材についての永住資格要件の緩和を図るべきである。
近年、わが国企業の更なる国際競争力強化に向けて、共同研究・開発、マーケティングやコンサルティングのアウトソーシング化等、国境を越えた様々な協力や事業再編等が増えている中、これら外国人を受入れるための制度の整備が強く求められている。
そこで、わが国企業と、わが国に本店、支店、その他の事業所がない外国企業とが一定の契約を締結し、同契約に基づき外国企業の専門的・技術的分野の外国人が長期間、わが国に在留し円滑に業務が遂行できるような在留資格を整備すべきである。
その際、当面、労働関係法令適用にかかわる措置が必要とされる場合には、(1)処分性を伴った行為を介在させないこと、(2)届出書類を極力簡素なものとすること、(3)業務独占資格者の介在を不要化すること、(4)労災等の保護措置の柔軟性を確保すること等により、わが国企業、外国企業ともに過度な負担を課すことのないようにするととともに、(5)在留期間について極力長期なものとすることが重要である。
看護・介護
2004年11月に日比経済連携協定が大筋合意に達したことにより、フィリピン人の看護師・介護福祉士候補者がわが国で就労するとともに、国家試験受験後、資格取得者は引き続き就労が認められることになった。今回の合意は、これまで制限されていた看護・介護分野における外国人労働者の就労規制の緩和を図るものであり、とりわけこれまで専門的・技術的分野とみなされていなかった介護分野での外国人の就労の途が開かれた点で、その第一歩として評価できる。しかしながら、看護・介護分野は、わが国の少子化・高齢化が進む中、将来的に労働力不足が深刻化すると予想される分野であり、わが国の看護・介護サービスの維持・充実の観点からも、EPA交渉において合意した場合に限らず、同分野での外国人受け入れの一層の促進に取り組むべきである。
具体的には、看護については、外国の看護師資格者などが、わが国の国家試験を直接受験できるよう、受験資格要件の緩和・見直しを受験者に過度の負担を課すことなく早急に実施するとともに、4年以内の研修のみとする在留資格の制限を早急に撤廃し、上記試験に合格した外国人に対して日本人と同等の就労機会を確保すべきである。介護についても、介護福祉士やホームヘルパー等の公的資格を取得した外国人がわが国で就労することができるよう在留資格を整備すべきである。同時に、これら看護・介護分野における資格取得を円滑化すべく、外国における養成実施のための制度整備や日本語教育の充実、試験方法の多様化等を図るべきである。
「技能」・「企業内転勤」の対象職種の拡大
今後、労働力人口の減少が不可避的な状況にある中、わが国の国際競争力の維持・強化等を図る上では、わが国にとって付加価値の高い外国人労働者を適切に受け入れていくことが重要である。とりわけ、わが国の競争力の源泉である生産現場や関連サービス分野における高度の技術・技能、知識・ノウハウを有する人材や、豊かな国民生活や地域経済を維持する上で不可欠な人材などをより積極的に受け入れる必要性が高まりつつある。しかしながら、現行の在留資格の枠組みでは、これらの人材は必ずしも専門的・技術的分野に位置づけられず、円滑に受け入れられないこともある。そこで、例えば「技能」の在留資格で認められる活動として、入管法別表第一に定められている「産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動」をより広く解釈して基準省令を見直すことにより、わが国の産業競争力、地域経済、ならびに国民生活の維持・強化の観点から必要な外国人受け入れを推進すべきである。
同時に、「企業内転勤」の在留資格についても、上記見直しを進めつつ、「技能」の在留資格に該当する活動も適用されるようにすべきである。
今後、長期的に日本の労働力人口が減少していく中で、まずは労働生産性の向上を図り、女性、高齢者等の力を最大限活用することが求められる。しかし、それでもなお、例えば福祉を中心としたサービス分野、あるいは農林水産業等の第一次産業分野などにおいて、将来的に日本人だけでは労働力不足が深刻化するという見方もある。そうした場合、日本はこれまで以上に多様な分野で外国人を受け入れることが必要になってくる。
したがって、今回、「現在では専門的、技術的分野に該当するとは評価されていない分野における外国人労働者の受け入れについて検討していく」と明記されたことは、従来の政府方針から一歩踏み出したものと評価することができる。今後はいたずらに結論を先送りすることのないよう期限を明確にした上で、着実に検討を進めていくべきである。なお検討にあたり、まずは特定の地域や産業における受け入れニーズ、受け入れに伴うメリット・デメリット等の影響、地方自治体における受け入れ態勢の整備状況等を、関係省庁が連携して総合的に調査すべきである。その際、例えば全国規模での受け入れが困難な場合には、特区としての受け入れ等も視野に入れる必要がある。
外国人留学生の日本への受け入れは、諸外国との相互理解の促進、人的ネットワークの形成、国際競争力の強化などを図る上で意義は大きい。「留学生受け入れ10万人計画」が達成された今、今後は、質の高い留学生の受け入れを推進していく必要がある。また、優秀な留学生が日本国内で就職することは、専門的・技術的分野における外国人の活用にとって有効な方策であることから、日本の大学や大学院を優秀な成績で修了した留学生の日本国内での就職を促進するための環境整備も必要である。具体的には、これらの留学生が就労準備のため、卒業後1年間在留できる在留資格を設けるべきである。
2003年の「研修」による新規入国者数が6万人を越え、技能実習移行者も2万人を越えるなど、開発途上国の人材育成・技術移転を目的とする本制度は、わが国および開発途上国において広く認知され、着実に定着してきている。これら研修・技能実習生は、総じて研修・実習への意欲も高く、実習期間中の労働力としての質も高く、研修・技能実習終了後は、日本人と同等以上の高い技能を発揮する者も少なくない。同時に、国内では日本人に対して求人募集を行っても応募者がない、あるいは極めて少数にとどまっている産業分野においては、外国人である研修生・技能実習生を受け入れ、彼らと共生することで事業が継続でき、その結果、日本人の雇用も守られているという事実もある。
一方で、本制度をめぐる問題点も一部に顕在化していることもあり、関係者がこれら諸問題への解決に向けて真摯に取り組むとともに、同制度の改善に向けた具体的な施策を進める必要がある。
技能実習制度が創設されて10年以上が経過し、本制度は製造業を中心に産業界で広く活用されるようになってきた。しかしながら、受け入れ企業によっては、低賃金の単純労働者を確保するために本制度を活用し、開発途上国等への技術移転という本来の目的から乖離しているケースもある。そのため、まずは、国際研修協力機構(JITCO)が関係省庁との緊密な連携のもと現場の実態を十分把握した上で、送り出し機関ならびに受け入れ機関に対する本制度の趣旨・ルールの周知徹底、適切な助言や指導、各種相談援助などの活動を強める必要がある。
また、受け入れ機関の不正行為に対する処分内容の強化の観点からは、不正行為を行った受け入れ機関に対してより厳しい措置を講じるよう「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」(1999年2月)を見直し、新規受け入れ停止期間を5年間に延長するとともに、当該受け入れ機関が既に受け入れている研修・技能実習生については、JITCOの斡旋により、直ちに類似職種を取り扱う他の受け入れ機関に移すようにすべきである。
研修と技能実習の期間は、合わせて最長3年間となっているが、受け入れ企業、技能実習生の双方から、5年程度まで期間を延長してほしいという強い要望がある。これは、受け入れ企業にとっては貴重な戦力であること、技能実習生にとってはさらに技術レベルを高めたいとの理由によるものである。また、企業の国際競争力を高めるため、進出国への技術、知識、ノウハウの移転は必要不可欠であり、現地法人の外国籍技術者を日本に招聘し、新製品の生産に必要な技能を習得させるべく研修を実施するケースや、海外関連会社の立ち上げのため一度に多くの研修生を受け入れるケースも増えてきている。
そこで、例えば、過去数年間に渡り研修生・技能実習生の受け入れ実績がありかつ不正行為等なく適正な運営を行っている企業を優良事業者として認定し、一定の要件のもと、研修・技能実習の最長期間を5年間まで延長したり、受け入れ人数枠を緩和する等、問題の少ない企業単独型の研修・技能実習について、企業活動の変化に応じ柔軟な運用を行うべきである。
入管法上は、研修・技能実習制度を終了して帰国した元研修生・技能実習生の再入国が禁止されているわけではないが、帰国後早々の再研修や、前回の研修と同種・同等レベルの再研修は認められていない。しかし、年に複数回、新製品の生産が開始されることも少なくない中、一人の技術者が複数製品を担当したり、更なる高度技術を習得するため複数回研修を受ける必要がある場合がある。また、元研修生・技能実習生のなかにも、次は生産ラインの管理者としてのスキル、ノウハウを学びたいといった希望を持つ者も少なくない。
そこで、こうした企業ニーズを踏まえつつ、再研修・再技能実習が認められる基準を明確にし制度化すべきである。
技能実習は、現在、62職種113作業が認められているが、その大半が製造業に係る職種である。そこで、サービス業を含め開発途上国等に高いニーズがある分野や、わが国において優れた知見・技術が蓄積されている分野等について対象職種を拡大していくべきである。
技能実習生への移行者が2万人を超える等(2003年)、技能実習制度がわが国および開発途上国において欠かせない制度となった今、同制度の法的な基盤を整備するとともに、適切な運用を確保していくことが重要である。そのために、同制度における非実務研修、実務研修、技能実習のあり方について見直しを図るとともに、「技能実習」を前提として在留する外国人については、在留期間を通じた新たな在留資格を創設すべきである。なお、見直しにあたっては、例えば、対象職種が技能実習対象職種(62職種113作業)に限定されたり、実務研修に移行しない企業単独型の研修に支障が生じるなど、規制強化につながらないよう十分留意すべきである。
研修・技能実習生の中には、研修・技能実習で得た技能を母国において活かすのみならず、将来的にわが国経済社会の発展にも活かしたいと希望する者もいる。そこで、わが国の産業競争力、地域経済、国民生活の維持・強化に必要な分野について、特に高度な技能を修得した者については、専門的・技術的分野の人材としてわが国において就労を認めることにつき、検討を進めるべきである。
政府は、第9次雇用対策基本計画等において、単純労働者の受け入れについては十分慎重に対応という方針を示してきた。しかし実態を見ると、既に日本には、実態において単純労働に近い就労をしている外国人が相当数流入している。その多くは、ブラジル、ペルー等南米諸国から来日した日系人であり、1990年の入管法改正に伴い急激に増加した。現在その数は23万人にものぼる。政府の受け入れ方針と実態は大きく乖離しており、わが国における外国人受け入れを考えるとき、日系人問題を避けて通ることはできない。第三次出入国管理基本計画において、日系人問題についての法務省としての見解、対応方針を示すべきである。
日系人は身分又は地位に基づく在留資格であるため、一般の外国人のように、入国に際して企業等との雇用契約を前提としていない。そのため、将来の生活の見通しや十分な準備が整わないまま日本に入国するケースも少なくなく、その結果、入国後、厳しい生活・就労環境に置かれることも多い。いわゆる日系人をめぐる問題としては、子弟の未就学、社会保険への未加入、日本人住民との摩擦等が挙げられており、受け入れの最前線である地方自治体が対応を一手に引き受けているのが現状である。
日系人が、わが国経済を支える重要な役割を果たしていることは論を待たず、日系人問題への対応は、わが国の今後の外国人受け入れにおいて、正に試金石ともいうべき重要な課題である。地方自治体のみならず、国、企業がそれぞれの立場で、日系人問題の改善に向けた取り組みを行う必要がある。
すでに定住している日系人について、地方自治体は、日本語教育の機会の提供、居住地の確認、居住環境の改善、日本人住民との摩擦の排除等に努める必要がある。国は、地方自治体の財政事情を考慮して、交付金などの支援措置を検討する必要がある。企業は、日系人についても日本人を雇用する場合と同様、社会保険制度への加入、適切な就労環境の提供等に努めるべきである。
現在、在留資格「定住者」については、入国審査の時に、日本で自立した生活ができるかどうか、雇用契約の有無、保証人の有無等について確認がなされているが、今後、入国を希望する日系人については、これらに加えて一定レベルの日本語習得、社会保険制度への加入についても確認すべきである。
在留外国人に対する地方自治体による行政サービスの提供には、居住地の的確な把握が必要不可欠である。在留外国人については、外国人登録法により居住地登録が義務付けられており、転居した場合には、転入先自治体において、居住地変更登録を行うことが義務付けられている。しかし、現状では居住地変更登録が的確に行われているとは言い難い。外国人登録が的確に行われるよう、全国の外国人登録の実態状況について総合的に調査を行ったうえで、罰則強化、登録に伴うインセンティブの導入等も含めて、制度を見直す必要がある。また、入国後管理の適正化という観点から、関係省庁が連携して、外国人登録法、職業安定法施行規則に基づく外国人雇用状況報告など、現行の入国後管理の仕組みを見直す必要がある。
査証の発給に係る基準の明確化
在外公館の査証発給に係る基準については、各国地域の状況やわが国との関係等を踏まえ決定しているが、実際の審査においては、各在外公館の担当者の裁量に委ねられ、恣意的に行われているのではないかといった指摘もある。したがって、申請者の予見可能性を高め、客観性を担保するため、予め、査証発給審査に係る基準や標準処理期間を設定・公表するとともに、拒否処分の際の理由提示を行うなどにより、制度・運用の透明性向上、公正確保を図るべきである。
優良申請者等に対する査証発給手続の簡素化・迅速化措置の導入
日々変化する事業環境への対応の観点から、わが国への外国人の急な出張・招聘・転勤等が必要となるケースも増えている。在留資格認定証明書の発給手続きに関しては、いわゆる優良事業者(過去3年間にわたり不交付・不許可となったことがない機関又は東京証券取引所上場企業若しくはこれと同程度の規模を有する機関)との契約に基づいて活動を行うことを目的とする申請案件については、申請を受理した日から2週間以内を目標に処理することとしているほか、雇用する機関に関する立証書類については、過去1年以内に提出がなされたものと同じもので、かつ、内容に変更のない場合には、特に必要と認める場合を除き、その提出を省略することとしている。在留資格認定証明書の発給手続きの簡素化・迅速化措置を活用したとしても、査証発給手続きが遅延すれば、円滑な事業活動のための外国人人材の移動が実現できない。従って、査証の申請においても、同様に優良事業者・申請者を認定する制度を設け、こうした者が査証を申請する場合は、特別に迅速かつ簡易な手続きで当該申請に対する処理を行い得るようにすべきである。