2005年2月8日 (社)日本経済団体連合会 情報通信委員会 情報化部会 |
「個人情報の保護に関する法律」(以下、「法」と記す)は、第1条に「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的する」とあるように、個人情報の保護と利用のバランスを図ることの重要性を謳っており、「雇用管理に関する個人情報の適切な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下、「指針」と記す)およびその解説も、そのような法の精神が尊重されたものとすべきである。
また、2004年4月に閣議決定された「個人情報の保護に関する基本方針」では、法は、「個人情報を取り扱う者において、それぞれの事業等の分野の実情に応じて、自律的に個人情報の保護に万全が期されることを期待している」とあり、また、「こうした事業者の自律的な取組に関しては、国の行政機関等の支援が重要」であるとも記されている。したがって、指針およびその解説も事業者の取組みを支援する内容とすべきであり、事業の実態を無視し、法に規定されていない措置を定めることによって、事業者に過重な負担を課すことは適当でない。
以上のような考えを基本とし、解説案について下記のとおり意見を述べる。
厚生労働省 パブリックコメント
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=495040141
法第36条第1項第1号においては、個人情報取扱事業者が行う個人情報の取扱いのうち雇用管理に関するものについては、厚生労働大臣と当該個人情報取扱事業者が行う事業を所管する大臣等が主務大臣となることとされている。これに関連し、解説案においては、「法第34条に規定されている勧告、命令及び緊急命令については、厚生労働大臣及び各事業所管大臣が連携して手続きを行う」とあるが、解説案において「しなければならない」と記載されている事項に従わなかった場合、厚生労働大臣のみの勧告、命令および緊急命令の対象となるのか、それとも、厚生労働大臣および各事業所管大臣連携の勧告、命令、緊急命令の対象となるのかを明確に示すべきである。
P9で、「専ら経営判断を行い、自らは他人から指図されないような『役員』は、ここでいう『労働者』には当たらない」とあるが、そのような役員の個人情報が雇用管理に関する個人情報から除外され、指針の保護対象外とされるのは適当ではなく、(2)は削除すべきである。
「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」(平成16年厚生労働省・経済産業省告示第4号)においては、「人的安全管理措置として講じなければならない事項」の一つとして、「雇用契約時及び委託契約時における非開示契約の締結」が挙げられている。同ガイドラインにおいては、派遣労働者も「従業者」に含まれるとされているので、事業者と派遣労働者が非開示契約を締結しなければならないこととなる。しかし、派遣先事業者としては、直接の雇用関係がない派遣労働者との間で非開示契約を締結することや、誓約書や念書を取り交わすことが許されるか判断に迷うところであり、この件に関する厚生労働省の見解を明確に示すべきである。
また、従業者が非開示契約の締結等に応じない場合、業務命令違反として、事業者が当該従業者に懲戒処分を課すことが許されるかどうかについても、厚生労働省の見解を明確に示すべきである。
指針第三の四においては、「事業者は、雇用管理に関する個人データの取扱いの委託に当たって、次に掲げる事項に留意するものとすること」として、(一)、(二)が挙げられているが、これらはあくまでも「留意する」ことであり、とりわけ、(二)に掲げられている事項は、「以下の事項が考えられる」として、列挙されているところである。
したがって、法に違反しているかどうかは、情報の内容、利用の態様に応じて個々に判断されるべきであり、P22に記載されている「利用目的達成後の個人データについては、当該データの盗用や流出等を防止するためにも、できる限り早期に、委託元への返却又は委託先における破棄若しくは削除を確実に行」うこと、「『データの改ざん等』の『等』には、委託契約の範囲を超えてのデータの書き換え、あるいは不正な情報の追加を行うことが含まれ、これらの行為を行うことを禁止又は制限」すること、「個人データの複写、複製に関しては、委託契約の範囲内であっても、バックアップを目的とする場合などの必要不可欠なものに限定」することの三つの事項については、事業者が講ずることが「求められる」措置とすべきである。
指針第三の五においては、「事業者は、雇用管理に関する個人データの第三者への提供(法第二十三条第一項第一号から第四号までに該当する場合を除く。) に当たって、次に掲げる事項に留意するものとする」として、 (一) 〜 (五) が挙げられているが、これらはあくまでも「留意する」ことであり、法に違反しているかどうかは、情報の内容、利用の態様に応じて個々に判断されるべきである。したがって、P26にある、「利用目的達成後の個人データについては、当該データの盗用や流出等を防止するためにも、できる限り早期に、提供元への返却又は提供先における破棄若しくは削除を確実に行」うこと「個人データの複写、複製に関しては、バックアップを目的とする場合の必要不可欠なものに限定」することについては、事業者が講ずることが「求められる」措置とするとともに、これらの措置に責任を有する主体を明確にすべきである。
(i) 「不採用者の個人情報など、採用活動の上で必要とされなくなった情報については、写しも含め、その時点で返却、破棄又は削除を適切かつ確実に行うことが求められる」とされているが、不採用者の個人情報は必ずしも「採用活動の上で必要とされなくなった情報」ではない。これは、あくまでも「求められる」措置であり、事業者がこれに従わなかったことを以って厚生労働大臣により法の規定違反と判断され得ることはないが、業務の実態を考慮し、修正または削除すべきである。
(ii) 従業者の出向や転籍を行うにあたり、出向先・転籍先に個人情報を提供する場合には、「提供先を明記すること」および「採用時などに一括して取得するのではなく、第三者提供の時点における本人の意向が的確に反映されるよう、第三者提供を行う都度、当該意思確認を行うこと」が求められているが、出向先・転籍先と事前に折衝するための個人データ提供に際し、本人の同意が得られなかった場合には、結果として、事業者が従業者を出向・転籍させることができなくなり、経営上、極めて深刻な問題を生じさせることとなる。これらは、あくまでも「求められる」措置であり、事業者がこれに従わなかったことを以って厚生労働大臣により法の規定違反と判断され得ることはないが、あまりにも業務の実態を無視した規定であり、削除すべきである。