高コスト構造の是正を通じた国際競争力の強化を図る観点から、港湾利用コストの低減、利便性の向上は、わが国産業界として喫緊の課題である。そのためには、輸出入・港湾諸手続の簡素化は不可避であり、早急な取組みが求められる。
また、自国のセキュリティ確保と国際的なセキュリティ施策への対応も差し迫った課題であり、わが国として、徹底的な手続の見直しを図った上で、ITを活用した、コンプライアンスに基づくシステムを構築していくことが、効率化とセキュリティを両立させる最善の方策と考える。
このような観点から、日本経団連では、予てより輸出入・港湾諸手続の簡素化を訴えてきたが、今般、官民の取組みをさらに加速させるべく、個別手続の改革の方向性について別紙のとおり検討した。
徹底的な業務改革(BPR #1 )を前提に、ITを活用した官民を含めた輸出入・港湾諸手続のシームレスなシステム構築に向けて、下記の通り、政府の早急な対応を要望する。
申請書類・項目の削減・廃止
申請書類・項目を徹底的に見直しの上、利用者の立場から不必要と思われる申請書類・項目は削減・廃止すること。
申請書類・項目の共通化
申請書類・項目を各省庁・港湾管理者間で可能な限り共通化し、データの統一化・標準化を図ること。
FAL条約 #2 の批准
FAL条約を早期に批准し、申請書類・項目の国際標準化を推進すること。
ワンストップサービス(シングルウィンドウ化)の徹底
一回の入力で全ての申請が終了する、いわゆるワンストップサービス(シングルウィンドウ化)を名実ともに実現すること。
電子データ申請の原則化
各種申請に付随する添付書類を含め、BPRを実施した後、必要な総ての書類をデータとして電子化し、これによる申請を原則とすること。その際、必要に応じて、早急な電子化対応が困難な業者への時限的な支援策の導入を検討すること。
データの標準化
データは、相互運用が図れるよう、WCO #3 、UN/EDIFACT #4 等の標準メッセージやインターネットプロトコールにおけるebXML #5 言語などの国際標準に準拠すること。
電子化促進に向けた環境整備
電子申請に対しては、申請手数料の低減などのインセンティブを附与し、電子化の促進に向けた環境整備を図ること。
ITの活用
わが国産業競争力強化の観点から、ICタグ #6 など、世界標準も見据えた最先端ITの活用のための環境整備を図ること。
官民のネットワークシステム(情報基盤)の構築
米国24時間ルールなどの国際的なセキュリティ施策に対応する観点から、電子化を官民全ての関係者間で漏れなく展開し、シームレスな情報の連携を図ること。そのために、官民のネットワークシステム(情報基盤)の構築に早急に取り組むこと。
関係各省庁・港湾管理者間での情報共有
関係各省庁と港湾管理者は、申請情報の共有化を図ることで、同種手続の反復申請を回避し、利用者の便宜に資すること。
情報共有化法の検討
情報の共有化を実現するため、諸外国の例を参考に、情報共有化法 #7 の制定などを検討すること。
コンプライアンスの活用
自国のセキュリティ強化と物流の効率化を同時に達成する観点から、上記に示した手続の簡素化、共通化、電子化、情報の共有化を図るとともに、WTO、WCOの場や諸外国における取組み(C−TPAT #8 等)を参考に、コンプライアンスを活用した諸制度の構築を図り、優良事業者に対するインセンティブ措置を導入すること。
物流プロセスの最適化
輸出入・港湾諸手続の効率化を図るとともに、実際の貨物の流れを効率化することが、全体的な物流プロセスを最適化させるとの観点から、貨物の流れを規定する諸制度を見直すべきである。とりわけ保税制度に関しては、その運用実態や諸外国の状況を参考に、見直しを検討すること。
省庁の縦割りの弊害ならびに単年度予算の弊害が生じないよう、政治の強力なリーダーシップの下、官民によるプロジェクトチームを設置すること。
米国で開発されている新システムACE #9 をはじめとして、貿易情報のアカウントマネジメントなどの管理手法に関して、プロジェクトチームなどで、その調査・分析を進めるとともに、わが国としての対応を検討すること。
FAL条約批准と港湾管理者の問題
わが国の港湾は、地方自治体が管理者となっており、国の関係省庁とは異なる独自の申請書類などを求めている。従って、わが国の複数の港湾に入港する船舶は、その港湾ごとに異なった手続を踏まなければならない。港湾ごとの申請手続きの共通化、国と地方に対する各申請手続きの共通化を図らなければ、実質的な簡素化とはならず、FAL条約批准の障害にもなり兼ねないことから、関係省庁および地方自治体の連携が求められる。
シングルウィンドウシステムの改善
2003年7月に関係各方面の尽力により、シングルウィンドウが稼動開始した。関係省庁の協働という点においては評価できるが、利便性の面で多くの課題が残っている。運用開始されたシステムは、手続の簡素化、国際標準への準拠などの見直しが行われないまま、NACCS #10 、港湾EDI #11 等の行政システムのみを単に接続したもので、利用者の利便性・サービスの向上が実現したとはいえない。例えば、共通項目入力画面はあるものの、その他は各省庁ごとの画面それぞれに多くの項目を入力しなければならない。一画面の入力・送信で手続が全て完了するシステムへ改善するなど、利用者サイドに立った抜本的な見直しが必要である。
官民手続における完全電子化
通関手続については、NACCS、CuPES #12 によって、申請書類が電子化されているが、他法令に基づく電子化されていない書類の添付が義務付けられていることから、実質的な完全電子化は達成されていない。
韓国では既に船周りの手続に関しては、100%電子化されている。さらには、EU、英国、豪州などで次々と全面電子化への動きがある。
電子化により、官民双方にとって、業務の効率化が図られるとともに、ヒューマンエラーの低減や、審査・チェックも効率化される。
また、電子データでの情報保存を認めないと、結果的に電子化の利点を十分活用できないことから、電子帳簿法その他の電子データ保存に関する規制を見直し、緩和することも検討すべきである。
さらに、輸出入の円滑化を図る観点から、船荷証券及び原産地証明書などについても、例外なく電子化を進めるべきである。
民民手続における完全電子化
民民における電子化も未だ100%には程遠い状況にある。このため米国24時間前マニフェスト提出ルール #13 への対応などに時間がかかっている。また、米国と同様に貨物情報の事前提供を義務付ける動きが欧州などにも出てきており、わが国がマニフェストの事前提出を求められる貿易相手国が増加していく可能性が高い。したがって、民民の手続においても電子化を促進させるべく、努力しなければならない。そのためには、参加者がインターネットを通して手続ができ、省庁や参加企業の固有システムとの連携が容易にできる仕組みを構築し、荷主を始め、貿易・港湾諸手続に関係する官民全ての当事者が参加できるネットワークシステムを目指すべきである。
また全面電子化を前提に、電子申告の導入を促進するため料金面等におけるインセンティブを付与すべきである。未電子化の中小零細企業への対応としては、入力代行サービスセンターの設置や設備投資面での補助など、期限を限って支援策を講ずるべきであり、また、その後の対応としてサービスプロバイダーを活用した電子申請の環境を整備すべきである。
情報の共有が無ければ、利用者は各申請先に同種の申請を複数回しなければならない。そうした手間を回避するには、諸手続の簡素化と電子化を前提とし、データとして必要最小限の情報を関係各省庁・港湾管理者の間で共有する方策が必要である。例えば、共有データベースの構築や電子データをもって公式な情報文書とする制度設計などが模索されるべきである。一方、行政としては、「取得情報の目的外使用の禁止」ということが問題となろうが、この点、輸出入・港湾諸手続に限定し、申請者の同意を条件とした上で、共有化を図るといった検討も必要であり、諸外国の例を参考に、情報共有化法の制定なども視野に入れて取り組むべきである。
コンプライアンス・プログラムの実施
産業界として、セキュリティ確保の必要性については十分理解しており、各種施策に対しても、できる限り協調して取り組んでいく方針である。しかしながら、一方で、わが国の企業がグローバル競争を勝ち抜いていくためには、港湾物流の利便性確保を通じた国際競争力の強化も必要である。こうした一見相反する要求を両立させる方法は、ITの活用とコンプライアンスを活かしたシステム構築にある。具体的には、情報をデータという形で電子化し、そのデータを関係機関で共有化するとともに、WCOの場におけるオーソライズドトレーダーコンセプト #14 などのコンプライアンス尊重の考え方を導入したシステム構築を検討する必要がある。
物流全体の効率化
輸出入や貿易に関わる業務や手続の流れにおいて、部分的な効率化をいくら図ってみても、その効果は限定的である。したがって、諸手続の効率化を真に意義あるものとするためには、全体的な物流プロセスを最適化する観点から、物理的な貨物の流れ自体の効率化も同時に図っていく必要がある。その点で、とりわけ保税制度に関しては、保税搬入から申告までの時間的なロスが大きいこと、大半の貨物は検査不要となるため保税地域への搬入後通関申告させる実際上の意義が乏しいことから、運用実態や諸外国の制度を参考にしながら、コンプライアンス・プログラムの充実を図りつつ、見直しを検討すべきである。例えば、(i) 輸出については、自社施設での通関を可能にし、輸入については、貨物の到着前通関を可能にすることで、現物検査を必要とする貨物のみを保税搬入する、(ii) 貨物の検査についても、セキュリティ対策、社会悪物品の流入阻止等水際管理目的による検査と、関税・消費税等納税関連検査の区別を今まで以上に徹底し、検査の効率性を上げる、などの検討が必要である。
また、制度面とともに、夜間荷役の充実、ゲートの24時間オープン、ターミナルでの引き取り時間を円滑にトラック業者に通知する情報ネットワークの構築などの取組みも求められる。
さらに、これまで物流の効率化を促進する観点から講じられてきた各種施策に関して、その利用実態を把握した上で、使い勝手を改善し、一層の利用促進を図るべく見直しを行っていく必要がある。
米国は国土保安省(Department of Homeland Security)を発足させるなど関係当局を改組し、セキュリティ確保と貿易手続の効率化に取り組んでいる。わが国も産業競争力の維持・強化を実現し、永続的なIT貿易立国として存続出来るよう、より信頼度が高くかつ運用コストの低廉な新たなシステムを官民一体となって構築する必要がある。輸出入・港湾諸手続は、関係省庁・自治体および民間側の関係者も多数に上ることから非常に複雑な案件であり、政治のリーダーシップの下、関係各省庁間および官民が強力な連携を図り、一丸となって取り組む必要がある。
各国は国際競争力およびセキュリティ強化の観点から、相当の国家予算を投じて、新たな電子貿易手続のシステム構築に着手している。例えば、米国では、全貿易手続に関する情報基盤となる新システムACEの整備、韓国では、輸出競争力強化を目的とした「電子貿易促進3か年計画 #15 」の策定、など国家戦略として取り組んでいる。わが国もこのような各国の動向を踏まえ、官民双方の努力により、情報化の一層の促進に取り組む必要がある。
特に、米国ACEに関しては、アカウントマネジメント機能などを検討していく必要がある。アカウントマネジメントとは、コンプライアンスを確保する観点から、輸出入者の情報をアカウントごとに蓄積・管理し、その情報を必要な税関職員等に必要なタイミングと場所で提供する機能、と紹介されているが、これは裏を返せば、関連会社も含めた一企業・グループに関する全ての取引情報を(然るべきファイアーウォールがあるといっても)瞬時に把握することが原理上・技術上可能となることを意味する。こうしたことが米国に輸出や進出をしているわが国企業の事業活動に何らかの影響を与える恐れは否定できない。国際競争力の強化およびセキュリティ施策の観点からも、わが国としては、関係各省庁・港湾管理者・民間の実務レベルからなるタスクチームを立ち上げるなど、本腰を入れて貿易手続の情報化に取り組んでいく必要がある。