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「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(原案)に関するコメント

2004年4月22日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会

公正取引委員会
「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(原案)の公表について
http://www2.jftc.go.jp/pressrelease/04.march/040323.pdf <PDF>

わが国企業が国際競争力を維持・強化していくためには、経済・社会環境や産業構造の変化に迅速に対応し、柔軟に企業組織を改編していく必要がある。
また、グローバル経済の進展の中で国境を越えた企業結合も通常のこととなり、アメリカ、EUでは、世界的な企業再編の流れを視野に入れた競争政策の運用がなされている。
このような内外市場の激しい変化に対応しようとする企業の努力を、独占禁止法が阻害することがないよう、企業結合審査にあたっては、透明性を確保し、また、企業の予測可能性を高めるべく、できる限り明快で国際的にも通用する審査基準が示されることが求められる。
今般、公正取引委員会が、これまでの企業結合審査の経験、ならびに「企業・産業再生に係る事案に関する企業結合審査について(昨年4月)」による迅速審査の実績を踏まえ、新たな「運用指針」を策定することは極めて有意義であるが、「運用指針」をより実りあるものとするために、企業実務の観点から、下記の通りコメントする。

第1 企業結合審査の対象

1‐(4) 企業結合審査の対象とならない株式保有

「甲〜戊以外の他の株主と甲〜戊との間に結合関係が形成・強化される場合には、その結合関係が企業結合審査の対象となる」とされているが、ここで想定するケースが1‐(1)ウの「共同出資会社」と異なるものであるとすれば、実質的に新たな規制を行おうとするものであり、その合理性、必要性について説明をすべきである。
一方、同じものであるならば、「1‐(1)ウに該当する場合があることに留意する」と改めるべきである。

2‐(4) 企業結合審査の対象とならない役員兼任

他の企業結合の類型と同様に、同一企業グループ内での役員兼任は、通常、企業結合審査の対象とはならないことを明示すべきである。

3‐(3) エ

「専ら株式会社がその発行している額面株式一株の金額を変更する目的で行う合併」とあるが、現行商法では額面株式の規定はなく、削除すべきである。

4‐(3) 営業の重要部分

「かつ、承継対象部分に係る年間売上高が1億円以下」とされているが、営業の重要部分とは「営業を承継させようとする会社」にとっての重要部分を意味することからすれば、「営業を承継させようとする会社」の年間売上高が様々であることを無視して、一律の金額基準を設けることは妥当ではなく、当該記述を削除すべきである。

第2 一定の取引分野

各判断要素につき、現行企業結合ガイドラインと同様に過去の具体的事例を挙げて説明されれば、企業にとって一層理解が深まり、予測可能性が高まるものと考えられる。

2‐(2) 価格・数量の動き等

「甲商品の使用から乙商品の使用に切り替えるために設備の変更、従業員の訓練等の費用を要することから、事実上、甲商品の替わりとして乙商品が用いられることが少ない」とあるが、甲商品と乙商品が別個の商品である以上、その切り替えにはコストを要し、替わりとして用いられることが少ないのは当然であり、一定の取引分野を狭く解することになる。「甲商品の使用から乙商品の使用に切り替えるために設備の変更、従業員の訓練等の多額の費用を要することから、事実上、甲商品の替わりとして乙商品を用いることが困難である」と改めるべきである。

3 地理的範囲

一定の取引分野の地理的範囲について、「法により保護すべき競争は日本国内における競争」であり「国内の取引先の事業活動の範囲を中心としてみる」とする。しかしながら、商品・役務によっては、「市場」として国境を越えて需給関係が成立することが普遍的に認められ、たとえ独占禁止法の保護すべき競争が国内に限られるとしても、このような「世界市場」が成立する場合においては、一定の取引分野を全世界あるいは東アジアなどの国境を越えた地域として確定しなければ、競争政策の有効な運用も困難である。

第3 競争を実質的に制限することとなる場合

各判断要素につき、現行企業結合ガイドラインと同様に過去の具体的事例を挙げて説明されれば、企業にとって一層理解が深まり、予測可能性が高まるものと考える。

第4 水平型企業結合による競争の実質的制限

多岐にわたる判断要素を「総合的に勘案して」競争を実質的に制限することとなるか否かを判断するとされているが、どの判断要素がより重視されるのかについてできる限り明記し、結論の予測可能性をより高めるべきである。

1‐(1) 単独行動による競争の実質的制限

ブランドで差別化された甲商品と、甲商品と代替性の高い乙商品の双方を同一の事業者が傘下に収めたために当該事業者が損失を被ることなく甲商品の価格を引上げることが可能であったとしても、甲商品の値上げに応じて需要者が従来通りの価格を維持している乙商品に購入先を振替えることが充分に可能であるならば、需要者には何ら問題は生じていないと考えられる。
商品が同質的な場合と、ブランドにより差別化されている場合とを区分して論じる実益はなく、「商品が同質的な場合」として論じられている基準で双方を判断して良い。
仮に、「商品が差別化されている場合」を「商品が同質的である場合」から区別して論じる必要性が高いのならば、当該商品が差別化されているのか同質的なものなのかを事業者自身が明確に判断できるように、どのような場合に商品が「差別化」されていると考えるのかを具体的に示すべきである。

2‐(1) ウ 共同出資会社の扱い

「共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係を生じる」とはどのようなことなのか、説明を加えてもらいたい。

2‐(6) 効率性

効率性に関しては、米国における企業結合審査において幅広く効率性が考慮されていることを踏まえ、高度な経済理論に基づく審査基準を構築することが望まれる。また、括弧書きにおいて「下位企業が」とされているが、下位の定義及び下位に限定する合理性が不分明である。考慮要素であり効率性を高めることは競争を促進することに繋がるため、「下位企業が」を削除すべきである。

2‐(7) 当事会社グループの経営状況

  1. 「当事会社の一方が実質的に債務超過に陥っているか運転資金の融資が受けられない状況であって、近い将来において倒産し市場から退出する蓋然性が高い場合において」との記述があるが、これでは市場から退出する蓋然性の条件を制限していることとなる。「当事会社の一方が実質的に債務超過に陥り、または運転資金の融資が受けられないなど、近い将来において倒産し市場から退出する蓋然性が高い場合において」に改めるべきである。

  2. 「これを企業結合により救済することが可能な事業者で、他方当事会社による企業結合よりも競争に与える影響が小さいものの存在が認め難いとき」との記述があるが、影響がほぼ同等である場合についての判断が不明確となる。
    また、理論的に「影響が小さいものの存在」が認められたとしても、当該他事業者がその経営判断として「企業結合」等による救済を選択しないことも十分考えられ、この場合、フェイリングカンパニーは実際に破綻し、営業権(のれん)、雇用、生産設備、在庫等について、社会的な価値の損失が生じる。「他方当事会社による企業結合よりも競争に与える影響が明らかに小さい企業結合等が他の事業者により現実に実行される可能性が低いとき」に改めるべきである。

  3. 業種によっては、不振企業・事業の再生のためにある程度の規模が必要となる場合があり、「結合後シェア50%以下」という要件を一律に適用すべきではない。

3‐(1) エ 共同出資会社の扱い

「共同出資会社の運営を通じ出資会社相互間に協調関係を生じる」とはどのような事態を想定するものなのか、明らかにされたい。

3‐(2) 取引の実態等

本項で挙げられている取引条件、需要動向、技術革新の動向、過去の競争の状況等は、問題となっている当該市場がもともと協調的行動を生み易い性質を有するか否かを検証するものである。
しかし、市場が協調的行動を生み易い性質を有していたとしても、企業結合審査に際して、それ自体が問題となるのではなく、当該企業結合によって、協調的行動を生み易いという当該市場の元来の特性がより強まるか否かという観点から当該結合の是非が検証されなければならないはずであり、「当該市場が協調的行動を生み易い性質を有するか否か」の判断基準と、「協調的行動を生み易いという元来の市場の特性がより強まるか否か」の判断基準を明確に区別して記載すべきである。

第5 垂直型企業結合及び混合型企業結合による競争の実質的制限

2 垂直型企業結合及び混合型企業結合による競争の実質的制限の判断要素

単独行動による競争制限・協調行動による競争制限ともに、当事会社グループの経営状況については、水平的企業結合では用意されているセーフハーバーが準用されていない。経営状況が厳しい事業者あるいは事業部門について機動的な事業再編が必要であることは、水平的結合を採る場合と垂直的、混合的結合を採る場合とで何ら変わらないのであり、「破綻企業・部門の企業結合」類型が、競争を実質的に制限することとならない場合に該当することを明記すべきである。

第6 競争の実質的制限を解消する措置

  1. 単に基本的な考え方及び問題解消措置の類型を記載するのみならず、過去の事案において、どのような措置を講じ、どのような問題が解消されたのかについて明記されれば、より一層企業にとっての予測可能性が高まるとともに、事前に自らの意思でこの是正措置を採ることが可能となり、迅速な企業結合が可能になるものと考える。

  2. 問題解消措置は、あたかも「営業譲渡」が前提であり、その他の措置は例外的であるような記述(例えば、31頁(1)第3パラグラフの「特段の事情が認められる場合には」や同頁(2)ア第1パラグラフ最初の4行「…場合には、例外的に」まで)がなされているが、従来のケースでは、営業譲渡が問題解消措置としてとられた例は相対的に少なく、このような記述は当事者の選択の余地を著しく制約しかねないものである。少なくとも営業譲渡と、その他の問題解消措置とを並列の位置づけとすべきである。

以上

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