2003年10月21日 (社)日本経済団体連合会 |
会社法改正への提言・概要 <PDF形式>
会社法は企業活動を支える重要なインフラである。経団連では2000年10月の「商法改正への提言」で、(1)強行法規性の緩和と市場重視の法整備−企業の国際競争力の確保、(2)事業・組織の再編に資する法整備、(3)資金調達手段の多様化・効率化、(4)ベンチャー・ビジネスの育成、(5)IT活用の推進、の5つの基本目標に向け、会社法改正に早急に取り組むことを訴えた。
こうした働きかけなどを受けて2001年6月(いわゆる金庫株の解禁等/議員立法)、11月(会社関係書類の電子化・新株予約権制度の導入・種類株式の多様化等)、12月(監査役制度の強化と株主代表訴訟制度の見直し/議員立法)、2002年5月(全面改正)、2003年7月(定款授権に基づく取締役会決議による自己株式取得解禁/議員立法)の5次にわたり会社法改正が行われ、まもなく株券の不発行と電子公告に関する会社法改正法案についても国会に提出される予定である。これまでの関係各位の精力的な取り組みは高く評価されるべきものである。
加えて、改正作業の総仕上げとして、昨年9月に法務大臣の諮問を受け、会社法の現代化に向けた取り組みが始まり、その中で、会社法制諸制度間の規律の不均衡を是正するとともに、現代化に相応しい内容の実質的な改正を行うことが検討されている。
現在、グループ編成の選択肢の弾力化、会社機関の選択肢の合理化、資金調達・株主還元手段の選択肢の拡大を求める経済界の要望の趣旨も汲みつつ、法制審議会での検討が進展しており、まもなく要綱試案が公表される見通しである。この機会に、企業の国際競争力の確保、企業・株主等の選択の尊重という観点から、改めて会社法改正の視点と重要課題について、提言することとする。
企業は厳しい国際競争の中で、自社の競争力を最大限に発揮できるグループ編成や会社機関の構成を選択している。本年4月より会社法は委員会等設置会社制度や重要財産委員会制度の導入を行っており、また各社も執行役員制度の導入など多様な取り組みを展開している。新しい会社法は、株主の選択した各企業の自主的な取り組みを尊重すべきであり、事業遂行形態の多様化、定款自治による弾力的な機関設計を可能とすべきである。
実質的な株主の保護と行為時株主・単元株主による代表訴訟
定款自治を実効あるものとするためには、実質的な株主の保護を図る必要がある。例えば、組織再編・資本増強などの結果、基準日後に株主となった者に対して株主総会での議決権行使を、取締役会の判断で柔軟に認めることが妥当である。
また、株主代表訴訟においても、訴えを提起する株主が実質的な株主の「代表」として相応しい要件を満たしているか、その資格を再検討すべきである。訴訟の原因となっている行為より後に株式を取得した者や単元未満の株式しか所有しない者に訴訟提起を認めている原告適格についても見直すことが適当である。
訴訟委員会制度の導入
会社にとって最善の利益とは思われない株主代表訴訟について、これに取締役が応訴する負担を除去することは、訴えを提起した者以外の大多数の株主の意思でもある。「適切代表」の考え方を導入し、例えば、株主より取締役・執行役・監査役に対する責任追及の訴えが提起された際に、会社が訴訟委員会を設置し、訴訟委員会が取締役等の責任追及をしないと判断したときは裁判所もその判断を尊重するという、訴訟委員会制度を整備する必要がある。
取締役の責任軽減制度の見直し
2002年5月より施行された取締役等の責任軽減制度においては、責任軽減をしてもなお、代表取締役につき報酬等の6年分以上、取締役につき同4年分以上、社外取締役につき2年分以上の責任を負わせることとしている。これらは水準として過大な負担であり、水準の引き下げが必要である。また、取締役の過失責任主義のもとでは、社外者か社内者かといった主体によって責任の軽重はありえない。取締役等は報酬等の一律「2年分以上」までの責任を負うこととすべきである。
監査役設置会社における利益処分の取締役会決議事項化
公開会社の株主は、投資家として市場での株式の処分・取得という形でいつでも意思表明を行い得る。一方、会社の構成員たる株主としては、株主総会における権利行使が主な意思表明の手段であり、経営が複雑化する中で、自らの意思を反映する適切な経営判断をする取締役等を選ぶことこそが、その役割といえる。そして、経営を委ねられた取締役等は社外者であるかどうかにかかわらず株主に対して同様の責任を負っている。
現行制度においては利益処分に関する決定権限は、委員会等設置会社についてのみ取締役会に与えられ、監査役設置会社の場合、利益処分案を株主総会に諮る必要があり、会社運営の選択肢をアンバランスなものとし、会社運営の自治の障害となっている。定款に定めを置けば、監査役設置会社についても、利益処分を取締役会決議事項とすることを認めるべきである。
取締役の責任の過失責任化
現行の会社法制は、違法配当などにつき取締役に対して無過失・連帯責任を負わせるという、取締役に過度な責任を求める構造となっている。しかも委員会等設置会社については、利益供与の場合を除いて過失責任に修正しており、監査役設置会社との機関選択に中立性を欠いており、会社運営の自治を限定している。
そもそも取締役等に過失がないにもかかわらず、取締役等の財産を損害等てん補の引当てにするのはバランスを欠いており、現物出資等の財産価格調査に係る取締役の財産価格てん補責任、取締役等の違法配当・利益相反取引・利益供与に係る責任は、過失責任とすべきである。
金融商品の時価評価の導入等、資産評価の予見可能性が低くなっている中で、剰余金の分配時には予測し難い資本の欠損が期末に生じる可能性がある。分配した取締役のてん補責任について、一定の限度を設けるべきである。
機関設計の柔軟化
本年4月施行の改正会社法に基づき委員会等設置会社制度が導入されたが、この制度では3つの委員会と執行役を一体で導入することが求められている。経営の選択肢を拡大するため、監査役会と監査委員会との選択制度の導入など、選択的に各委員会や執行役制度を導入できるようにするとともに、重要財産委員会制度の改善、補欠監査役・取締役制度の改善を図るべきである。
また、株式会社と有限会社に関する法制を一体化する際には、現行法で有限会社を選択している会社には、現行制度と同様の機関設計を選択可能にすることが必要である。
さらに、株主により多くの会社財産を分配すべき段階にある清算時において、裁判所による関与を極力減らしつつ会社機関を最低限のものに簡素化できるようにすること(常勤監査役・社外監査役・監査役会の設置を不要とすること等)など、会社の段階に適した機関設計をより自由に行えるようにすべきである。
取締役会の書面決議
取締役会の決議の目的である事項につき、各取締役が同意をし、かつ、監査役が特に意見を述べることがない場合には、ことさら物理的に対面して取締役会決議を行う必要はない。こうした場合には、書面による決議を可能とすべきである。
LLC(Limited Liability Company)制度の導入
米国では、州法によりLLC(Limited Liability Company)という事業体が認められている。これは、全ての出資者を有限責任とし、事業体が自身として財産の所有、業務を行う有限責任会社の利点を有しながら、組合のように運営の弾力性を有しつつ、設立された事業体の段階では所得課税を行わず、その損益を出資者の段階で課税する税制の導管としての利点を併せ持つ。
リスクの高い新規事業への進出、事業の再構築、あるいは複数の企業の共同事業を進めるための手段として、わが国においても同様の仕組みを導入すべきである。
グループ内子会社の会社機関の簡素化
親子会社、とりわけ持株会社とその子会社との間においては、親会社がグループ全体の効率的な資金と人材の配分を行い、子会社の経営を監督する関係にある。グループ全体を一体のものと捉えて、特に完全子会社については会社機関を簡素化できるようにすべきである(会計監査人設置義務や常勤監査役・社外監査役設置義務の見直し等)。
最低資本金制度の撤廃
効率的なグループ編成のための分社化や新たな起業など、会社は多様なニーズによって設立され、必要とされる資本金の額は、事業の規模や性格、取引先等の関係者の求める信用力などによってさまざまである。
設立の際に必要な資本金を一律に設定する最低資本金制度については、多様なニーズに対応できるよう、撤廃すべきである。
競争力あるグループ編成を実現するためには、経済環境の変化に対応して機動的な組織再編を可能にすることが必要となる。求められる組織再編の内容に応じて、多様な選択肢を設けるべきである。
組織再編を円滑に進めるためには、その対価を柔軟化することが有効である。吸収合併、吸収分割及び株式交換の場合において、消滅会社等の株主に対して、存続会社等の株式を交付する代わりに、金銭や他の会社の株式などの財産を交付する、合併対価の柔軟化を認めるべきである。
組織再編を迅速に進めるため、簡易組織再編行為の要件の基準(現行:存続会社が合併等に際して発行する新株の総数が発行済株式総数の5%以下等)を見直し、存続会社等の譲受け側については発行済株式総数等の20%に、分割会社については分割する財産の帳簿価額が分割会社の総資産の20%に緩和すべきである。ただし、組織再編以外の新株発行等について、簡易組織再編と並列的なものと捉え、新たな規制を設ける議論があるが、これは資金調達の自由度を大きく阻害するものであり、導入すべきでない。
また、支配関係のある会社間で組織再編行為を行う場合には、被支配会社における株主総会決議は形式的な意義しか持ちえず、このような場合には株主総会決議を要しないものとする簡易な手続(略式組織再編手続)を利用できるようにすべきである。
事後設立の際の検査役調査については、組織再編等を行う際に事業の中断を招来する結果となる。円滑な再編を実現できるよう、事後設立の際の検査役調査は廃止すべきである。
また、現物出資・財産引受けに際して検査役の調査を要しない有価証券の範囲について、規制の趣旨に沿って拡大し、「取引所の相場のある有価証券」から「市場価格ある有価証券」に変更すべきである。
一昨年、自己株式の取得・保有規制が緩和されたが、子会社の親会社株式の保有の禁止規定は見直しがなされていない。
このため、子会社が他の会社の組織再編行為により親会社株式の割当てを受けようとする場合や、子会社が行う組織再編行為に際して親会社株式の割当てをするために取得しようとする場合などに不都合が生じる。これらについては限度額を設けることなく取得を認めるべきである。
そのような措置を講じても、救済等目的の株式の買増しにより子会社となった会社が、新たな親会社の株式を保有していると、これを相当の時期に処分しなければならず、市場の混乱を招来しかねない。子会社の親会社株式取得禁止規制を一般的に撤廃すべきである。
企業活動を活発化させるためには、自由化、多様化の進む資本市場の動向に合わせて資金調達や株主への利益還元の手段を拡大することが必要である。
株主への利益還元方法について、企業は、多様な株主のニーズ、今後の事業の成長性を見極めた上で、配当によるか、自己株式取得によるかを選択している。既に本年通常国会における改正で、自己株式取得の財源と中間配当財源との一体化が図られた。今後、より機動的で柔軟な株主への利益還元を図るため、利益の配当、中間配当、資本金・準備金の減少に伴う払戻し、自己株式の買受け等による株主に対する会社財産の払戻し、利益処分によるその他の金銭等の払戻しについて、財源を共通のものとするとともに、取締役会決議により、任意の時期に株主に対する分配を行うことができるようにする一方、現物配当を許容すべきである。
社債の流動性を向上させるため、各社債の利率、利払日、償還日等の発行条件が同一であれば、社債総額、発行価額、発行日が異なる社債の銘柄を統合することにより、流通が容易となる単位への統合を可能とすべきである。
予め取締役会決議で定めた転換事由が発生した場合には自動的に、または取締役会の決議により、新株予約権が発動される新株予約権付社債を発行できるようにすべきである。
自己株式の処分については、新株発行同様の手続が必要とされているが、証券取引法では既発行の株式としての厳しいインサイダー規制、相場操縦規制が課せられている。市場価格を有する自己株式については、自己株式を市場取引により売却することを認めるべきである。
近く公表予定の「会社法制の現代化に関する要綱試案」については、別途詳細なコメントを法務省等に提出する予定である。