[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

水質環境基準の拙速な設定に反対する

2003年6月16日
(社)日本経済団体連合会
  環境リスク対策部会

これまでわが国では、主に人の健康への影響を防止する観点から環境基準が設定されてきたが、現在、わが国として初めて、中央環境審議会において水生生物への影響に着目した水質環境基準が検討されている。同審議会の専門委員会が取りまとめて同審議会に上程しようとしている報告書では、亜鉛について淡水域30μg/L、一般海域20μg/L、特別域10μg/Lの基準値が盛り込まれているが、これについてはデータの裏付けが乏しく、日本経団連としては拙速な基準値の設定には反対である。

1.保全すべき環境はどのようなものか明確にすべきである。

生態系は多様であり、ある種の生物が生息できない環境が他の種の生物にとっては最適な環境であることもある。しかし今回の検討では、淡水域について、ヒラタカゲロウの成長低下を唯一の根拠として、全国一律の基準値を設定しようとしている。基準値の設定の前に、環境基準の導入によって保全すべき環境はどのようなものか、明確にしておく必要がある。

2.基準値の導出過程の信頼性に疑問がある。

今回の検討では、過去の学術文献に記載されているデータから基準値が導出されている。しかし、原文献を精査し科学的にその信頼性が判定されたか疑問である。例えば、亜鉛の基準値の設定根拠とされている文献は、諸外国では信頼性が否定されているものである。
また、基準値は原則として慢性毒性値から導出すべきであるにもかかわらず、急性毒性値に仮定の係数を掛けることで基準値を求めているものがあり、信頼性が極めて乏しくなっている。行政当局で慢性毒性試験を実施する等により、より多くの知見を収集すべきである。

3.現実に環境影響が生じているか否かを検証すべきである。

毒性試験結果は室内実験のデータに過ぎず、また、基準値の導出に用いられている急性慢性毒性比等の係数も仮定の値に過ぎない。これらが現実の状況においても妥当かどうかを検証するために、基準値を超える地点において現実に環境影響が生じているか否か、また、当該物質の低減によって環境が改善されるか否かを検証すべきである。現に、宮城県におけるフィールド調査の結果によれば、基準値を超える地点において環境影響が生じている証拠はない。

以上

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