本年秋に、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所の宇宙3機関が統合し、新たに独立行政法人「宇宙航空研究開発機構」(以下、「新機関」)が発足する。今後、わが国の宇宙開発利用は新機関を中核として推進されることとなる。
日本経団連では、2001年7月に「宇宙利用フロンティアの拡大に向けたグランド・ストラテジー −宇宙の産業化ロードマップ−」をとりまとめ、宇宙の産業化・商用化、利用の拡大を提言し、各方面への積極的な働きかけを行ってきた。その結果、昨年6月に総合科学技術会議がとりまとめた報告書「今後の宇宙開発利用に関する取組みの基本について」では、宇宙産業が将来の我が国の基幹産業に発展するよう、宇宙開発利用の産業化を促進することが、国家戦略として取りまとめられたところである。また、宇宙開発委員会の報告書でも同様な方針が示されている。
一方、新機関と産業界との連携については、昨年3月の文部科学省「宇宙3機関統合準備会議報告書」において、新機関による産業界との連携・協力の推進が掲げられ、その具体策として新機関における総合司令塔的組織の整備、流動的人材制度の推進などが提言されている。
産業界としては、これらの方針が着実に遂行され、わが国宇宙産業の競争力強化、利用も含めた宇宙関連産業の裾野の拡大、ひいてはわが国経済の活性化に繋がることを強く期待する。
そこで、新機関の発足を控え、今後の具体的計画の検討に際し、産業界の意見を、改めて緊急提言するものである。
新機関の業務については、宇宙開発委員会の議決を経て定める長期計画に基づき、文部科学省が新機関の5年間の「中期目標」を設定し、新機関が「中期計画」を作成することとされている。
現在検討中の新機関の長期計画、中期目標、中期計画には、これまでの議論で明示された産業化、及び産業界との連携強化の理念を十分に反映し、その着実な実行が可能となるよう必要な施策、組織・人員・予算等の整備が強く望まれる。
新機関では、宇宙開発に関して、宇宙科学の研究と産業化に資する業務の2つの大きな役割を担うことになる。特に産業化に資する業務は、科学技術創造立国を目指すわが国にとって最重要課題の一つであり、新機関で重点的に取り組むべき業務である。統合準備委員会報告書では新機関の役割として、民間では実施困難なリスクの大きい研究開発、技術実証及び宇宙実証を推進し、成果の速やかな民間移転を進めることにより産業競争力の強化に寄与すべき、とされたところである。新機関においては、これまで3機関が担ってきた研究中心の機能に加え、これらの産業化に資する機能を強化すべきである。
その際、宇宙科学の研究と産業化に資する業務は、企画から実行、評価に至る各プロセスの性格が大きく異なることから、中期・長期計画、目標においても、両者を明確に区分しつつ検討を進めるべきである。
産業界との連携・協力、産業化に資する業務を具体的に推進する組織として、新機関では「産学官連携部(仮称)」の設置が予定されており、ここに全面的に権限を付与し、産業化に関連する業務を総合司令塔的立場で経営できる体制とすべきである。そのための十分な人員、予算の執行権限を付与することも大前提である。我々は、産学官連携部が「宇宙の産業化」の軸として活動することを大いに期待している。
加えて、新機関が産業化に関連する業務を進めるにあたり、文部科学省のみならず、経済産業省、総務省、国土交通省等の関係省庁や利用省庁、公的研究機関が緊密に連携していくことが重要であり、そのための体制構築が必要である。
政府は、宇宙の産業化の具体的推進に向けて、検討推進中のプロジェクト(例えば、H-IIAロケット増強型、中小型ロケットGX、準天頂衛星システム、超高速インターネット衛星WINDS、地球観測・環境監視衛星等)はもとより、宇宙を利用した新産業の創出に向け、さらなる取組みを強化すべきである。
日本経団連宇宙開発利用推進会議においても、官民の役割分担をはじめ、宇宙の産業化の進め方に関する具体的方策について、引き続き、検討を進めていく。
新機関と産業界の連携なくして、今後のわが国の宇宙開発利用の拡大はありえない。新機関の発足に際し、以上の考え方が具体的に反映され、宇宙の産業化が着実に推進されることを強く期待する。