[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]
新IT戦略に関する提言
2003年3月18日
(社)日本経済団体連合会
現在、内閣のIT戦略本部では、専門調査会を設けるなど、ITの利活用を推進する観点から、新戦略の検討が進められている。
日本経団連では、情報通信委員会情報化部会において、ITユーザー企業から、ITの利活用の実態と課題等についてヒアリングするとともに、新戦略に盛り込むべき課題について検討し、今般、その結果を別紙のとおり部会報告として取りまとめた。ついては、同報告を踏まえ、下記のとおり提言する。
記
1.「一つの」電子政府の早期実現等
行政手続のオンライン化法が成立するなど電子政府の実現に向けた取組みが進展しているが、電子化が半ば目的化しており、業務改革、省庁横断的な類似業務・事業の整理などが未だ不十分である。「業務改革なき電子化」は不要な業務や手続を温存することになるなど、かえって弊害が大きい。国・地方を通じて、申請・届出手続など国民・企業との接点業務(フロントオフィス業務)および給与、調達など各組織共通の基幹業務(バックオフィス業務)の効率化を加速し、「一つ一つバラバラな電子政府・自治体」を作ることのないようにしなければならない。
(1) 業務改革による行政コストの削減
- フロントオフィス業務の手続を、極力、簡素化・統合し、不要なものは廃止すべきである。電子化によって期待できる効果の事前評価を義務づけるとともに、電子化によって、何が、どう変わり、どのような便益がもたらされたのかを事後評価し、行政コストを構造的に圧縮すべきである。
- バックオフィス業務においても、まず業務改革を行うとともに、レガシーシステムからオープンシステムへの移行を推進し、ライフサイクルコストを含め行政コストを削減すべきである。
(2) 中央省庁・地方公共団体のシステムの標準化
- 各府省・団体の業務分析を行った上で、情報システムを、極力、共通化・標準化するため、システムの企画、調達、開発、運用を一元的に行うべきである。
- 地方公共団体は個別にシステムを開発するのではなく、共同利用・共同運用システム化を推進すべきである。
(3) 利用しやすい電子政府の実現
- 重要イベント別、ライフイベント別に府省横断的な行政ポータル機能を整備し、各種のワンストップサービスとサービスの24時間化を実現すべきである。
- 輸出入・港湾諸手続のワンストップサービスを「業務改革のベストプラクティス・モデル」とすべく、強力に推進する。
なお、企業における業務改革を推進するためには、税務関係書類全般の電子保存を認めることが不可欠である。
2.「安心・安全な」電子政府の確立
電子政府は、ネット社会の最重要インフラであり、最高水準の情報セキュリティを確保すべきである。また、地方公共団体の情報システムが全国的に連携する時代において、地方公共団体ごとにセキュリティ水準が異なるようなことがあってはならない。こと情報セキュリティの確保に関しては、地方自治に委ねるべきではない。
- 国・地方公共団体は、共通の情報セキュリティポリシーを策定、実施・運用、監査し、適宜見直す。このPlan, Do, Check, Actのサイクルを継続的に繰り返すことによって高度なセキュリティ水準を確保すべきである。その際、外部監査を継続的に実施すべきである。また、情報システム系に加え、職員等人間系も含めた包括的な対策を実施すべきである。
3.民が「公」を担う「電子社会システム」の実現
これまで官が担ってきた「公」を、意志と能力のある民が補完、代替できるようにし、新たなサービスの創出、新たな価値の創造を促していく必要がある。そうした「官と民の協働」、「サービス提供のチャネルシフト」などをITによって支援し、社会問題を解決していく必要がある。
- 対面を前提とした医療・介護のあり方を見直し、ITを活用することによって、利用者のQuality of Lifeを改善するとともに、資源を有効活用すべきである。
- ITを活用することによって、交通の安全確保と人流・物流の円滑化、効率化との両立を目指すべきである。
4.標準化等の推進
標準化等は、ネット社会の基盤整備の一環として、官民が連携して推進する必要がある。
- 商品の製造、流通、販売、リサイクルなどライフサイクル全体にわたるトレーサビリティ確保のための消費者本位の業界横断的なルールづくりを関係省庁が連携して支援すべきである。商品のトレーサビリティへの活用が見込まれる無線タグ(RFID)については、国際的に調和のとれた周波数を割当てることが期待される。
- JIS漢字コードで規定する文字数を拡大するとともに、ネット上の外字取扱いルールを明確化すべきである。
- 行政上の要請等から長期保存が必要とされている電子文書の原本性保証要件を明確化すべきである。
5.IT外交の展開
ITが経済社会活動に広く深く浸透し不可欠なインフラとなるにつれ、ITに関する分野においても、国としての戦略、政策判断が問われる場面が増えることになる。このような観点に立てば、官・民の壁を越えたコミュニケーションの強化によって、問題の把握、プライオリティづけを統一的に行い、その上で、アジアを中心に世界に向けてメッセージ、情報を発信していくために、e-Internationalとも呼ぶべきIT外交の展開が求められる。
- ユビキタスネットワークを構成する端末機器、IPv6など、わが国が強みを有する分野において、国際標準化を推進すべきである。
- 電波の有効利用を推進するため、国内の電波利用ニーズを的確に把握し、ITUにおける周波数調整に反映させるべきである。また、国内への周波数の分配に際しては、無線設備のグローバルな流通・利用を妨げることのないよう、国際的な分配に調和させるべきである。
- WTO新ラウンドにおいて、オンラインで行われるデジタルコンテンツの取引に対する関税不賦課の恒久化、ITA(Information Technology Agreement)への参加国および対象品目の拡大、IT・電子商取引関連分野の全面的な自由化、を主張していく必要がある。
以 上
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