[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

経済産業省 競争政策研究会中間報告(案)へのコメント

2003年1月27日
(社)日本経済団体連合会
 経済法規委員会
  競争法部会

わが国経済の発展、ひいては国民の福祉の向上のためには、わが国企業が内外の市場において競争力を維持・強化することが不可欠である。そのために、企業は、経済・社会環境や産業構造の変化に迅速に対応し、柔軟に企業組織を改編させていく必要がある。独禁法は、内外市場の激しい変化に対応しようとする企業の努力をサポートすることはあっても阻害することがあってはならない。
経団連では、かねてより、現行の独禁法上の企業結合規制・審査について、以下の通り、的確性、透明性、迅速性に問題があり、経済界の要請を満たしていないとの評価を持っているところである。

  1. 企業結合審査における考慮要素の内、効率性等の経済合理性を踏まえた要素が十分考慮されておらず、判断が適切妥当であるとは言えないケースが見られる。
  2. 一般に企業結合審査に要する提出資料が尨大であり、企業側の負担が過大であるとともに、どの程度まで資料提出を求められるのかについて予見性が低い。
  3. 企業結合ガイドラインに示されている基準が不明確であり、個別の公表事例によっても必ずしも予見可能性が高いとはいえない。
  4. 簡易審査案件・迅速審査案件の類型化が行われておらず審査対象の重点化がなされていない。

加えて、公取委の企業結合審査の人員は、欧米の競争当局に比べ少なく、専門性も十分ではない。この違いが、的確、透明、迅速な企業結合審査の実現を阻害していると考えられる。
上記のような問題意識がある中で、今般、経済産業省競争政策研究会(座長:鶴田俊正専修大学教授)が、企業結合規制・審査に関して、「中間報告(案)」を公表したことは誠に時期に適ったものであり、その内容も、審査対象の重点化、提出資料の明確化、審査事例の公表内容の充実、企業結合審査の人員の増加・質的向上を提言するなど、全体として、経済界の問題意識に沿った方向性が示されているものとして、高く評価したい。
この機会に、企業結合規制・審査に対する経済界の上記問題意識を踏まえ、さらに、以下の通りコメントする。

1.セーフハーバー・ルールを満たす案件の簡易審査類型化等

中間報告(案)では、「1.「企業・産業再生に関する基本指針」に定められた「迅速審査類型の明確化」への反映(中間報告(案)P66)」の中で、政策提言として、<1>結合後シェア25%以下の企業結合案件、および、<2>結合後シェア25%超の場合であっても有力な事業者がいる等の一定の要件を満たす企業結合案件について、(ア)改正産業再生法案件に関する「運用指針」において迅速審査類型とすること、(イ)一般的な企業結合案件に関し明確化される迅速審査類型とすること、を提言している。そして、その上で、「2.更なる政策対応(中間報告(案)P67)」として、現在小規模案件及びシェア10%未満となっている「簡易審査類型(競争上問題がないとされる類型)」を拡充すべく企業結合ガイドラインの改訂を検討すべきとしている。
しかし、上記<1>、<2>の企業結合案件については、簡易審査類型とすべき旨を明確に記載すべきである。これらの類型の企業結合案件は、過去の審査結果を見る限り、競争上問題がないとされるケースが圧倒的に多く、簡易審査類型としても弊害がないと考えられる一方、これにより、公取委のリソースの節約と企業の負担軽減というメリットが得られるからである。
なお、上記<1>、<2>の企業結合案件が、(ア)改正産業再生法案件に関する「運用指針」において迅速審査類型とされ、(イ)一般的な企業結合案件に関し明確化される迅速審査類型とされるべきことは、中間報告(案)の通りである。

2.従来の審査基準の緩和

現行企業結合ガイドラインで考慮要素等とされている新規参入の蓋然性、輸入、隣接市場からの競争圧力、効率性、破綻企業・業績不振かどうかの要素については、より一層の考慮が行われるべきである。とりわけ効率性に関しては、米国における企業結合審査において幅広く効率性が考慮されていることを踏まえ、高度な経済理論に基づく審査基準を構築することが望まれる。また、市場の画定にあたっても国際競争を踏まえてなされるべきである。
中間報告(案)のスタンスは、原則として、従来の公取委の企業結合審査を分析しその審査基準の明確化を提言するに止まっている。他方、過去の事例において、仮に、上記の要素が十分に考慮されたり国際競争を踏まえた市場の画定が行われれば、競争阻害のおそれを指摘された案件(中間報告書(案)資料14参照)の中にも、競争阻害のおそれなしとの判断がなされ、かつ、実際にも競争阻害のおそれがなかった案件があることが充分に考えられる。
そこで、過去に競争阻害のおそれを指摘された案件について、問題解消措置が講じられなかったとしても競争阻害のおそれがなかったと考えられる事例を調査し、審査基準等が適切であったかどうかを検討すべきである。
以上の検討により、中間報告(案)では抽象的・定性的にしか記述されていない(中間報告(案) P69参照)考慮要素等の内容を具体的なものとし、「当該考慮要素等の具体的な内容に基づいて、公取委の一般案件に関する迅速審査類型の策定やガイドラインの改訂等がなされるべき」旨を記載すべきである。

3.公正取引委員会の企業結合審査体制の質的向上について

企業結合審査体制の質的向上(中間報告(案)P69)に関しては、外部の人材を活用すべき旨を明記するとともに、企業結合審査における近年の経済理論の目覚ましい発展を踏まえ、こうした理論的フレームワークを駆使できる経済学の博士号取得者など高度の専門的知識・経験を有する人材を多数登用すべき旨を記載すべきである。

4.公表内容の充実

審査事例の公表内容の充実に関し、事案の概要、画定市場、審査結果及びその理由の公表においては、企業秘密に配慮しつつ、他の事例において直接参考となりうるよう、より一般化した形で基準等を明確化することが念頭におかれるべきである。なお、公取委は、2002年12月11日に「企業結合計画に関する事前相談への対応」を公表し、詳細審査を行った事前相談については、公表内容を拡充するとしており、上記のような観点から今後の運用が注目される。

5.企業結合ガイドラインへの新たな考慮要素の追加

中間報告(案)は、これまでの公取委の企業結合規制・審査の分析の上に立ったものであるが、この立場に止まらず、国民経済全体の発展、雇用の維持、地域経済の振興等国民生活に与える影響等を企業結合審査において多面的に考慮すべきであり、これらの要素を企業結合ガイドラインに盛り込むべき旨中間報告(案)に記載すべきである。

6.その他

  1. 「(2)業務提携ガイドラインの策定(中間報告(案)P68)」については、不明確なガイドラインではかえって規制の強化につながるおそれがあるため、原案にある早期策定の必要性に加え、実態を踏まえた明確なガイドラインを策定すべき旨も追加的に記載すべきである。
  2. 「5.産業界に対する期待(中間報告(案)P70)」において、「<3>「セーフハーバーのルール」に照らした際に、問題解消措置を条件として付さざるを得ないと事業者が予想した場合は、「問題解消措置のルール」に基づいて、問題解消措置を、審査開始時点(又は審査過程の早期)において、申請するよう努める」との記述は削除すべきである。問題解消措置が必要かどうかを予想可能なほど「セーフハーバーのルール」が明確とは言えず、審査過程で問題解消措置の必要性が認識されることも多いと考えられるからである。
以 上

日本語のトップページへ