[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

米国企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)の適用等における
日本企業の取扱いに関する要望

2002年10月1日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会 企業会計部会

  1. 米国経済の動向は、世界経済全体にとっても、また、デフレ経済からの脱却・景気回復を目指すわが国経済にとっても、非常に重要である。こうした観点から、会計不信への対応策として、資本市場の信頼回復のための包括的な措置を迅速に講じたことを高く評価する。

  2. ところで、わが国企業は、すでに近年の日本の商法改正ならびに証券取引法改正によって、国際的にみて極めて高い水準のコーポレート・ガバナンスならびにディスクロージャーを実現しており、また、現在も、その充実に向けた取り組みが行われている。一方、企業改革法が導入する新たな規制には、日本の法律と相容れない部分もあり、日本企業にとって遵守不可能であるばかりでなく、今後の米国での資金調達を妨げることとなる。したがって、規制が重複する部分については、日本企業を適用除外とすべきである。

  3. とりわけ、企業改革法第301条については、証券取引所法10A条に追加するとされている「(m)監査委員会に関する規則(Rules Relating to Audit Committees)の(3)独立性(Independence)」の部分をはじめとして、わが国企業に適用することは問題がある。
    わが国商法上の制度は(別紙1「1.」「2.」参照)、大会社の監査について、監査役会(委員会等設置会社においてはわが国商法上の監査委員会)および会計監査人の必置を規定し、その上で企業ならびにその業務執行役員からの独立性を担保する規定を設けている。
    従って、企業改革法第301条に基づく監査委員会の設置は、わが国の商法上の制度と相容れないものであり、わが国企業が商法上の制度を遵守しなければならない以上、同条の適用は差し控えるべきである。少なくとも、提案されているニューヨーク証券取引所の上場規則と同様、適用除外としたうえで、わが国と米国のコーポレート・ガバナンスの重要な違いについて開示することで足りるとすべきである。

  4. SECにおいてはこれまで、外国企業について、規制の重複を避ける観点から、母国の規制を尊重し、一定の規制について外国企業を適用除外・例外規定の適用を行ってきた(別紙1「3.」参照)。また、ニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)においても、同様に、一定の上場規則からの適用除外を行ってきている。こうした良き伝統を尊重し、企業改革法の運用を行うべきである。

  5. なお、わが国企業は、企業改革法に対応すべくできる限り努力しているところであるが、未だ同法の具体的な運用が明らかでないところもあり、実務を進める上で新たな問題が生じた場合には、改めてその解消に向けた要望を行いたい(別紙2参照)。

以 上

【別紙 1】

1.日本の大会社における監査体制―会計監査人・監査役(監査委員会)

商法上の大会社については、会計監査人が会計処理の適正性について監査を行うこととされ(監査特例法第2条)、また、監査役は、監査役会を組織し(監査特例法第18条の2第1項)、会計監査人と協力しつつ(監査特例法第8条)、取締役の職務執行を監査することとされている(商法274条第1項)。なお、2003年4月1日に選択的に導入される監査委員会は、取締役及び執行役の職務執行を監査することとされている(監査特例法第21条の8)。

2.監査体制と独立性

(1) 会計監査人

  1. 株主総会で選任される(監査特例法第3条第1項)。
  2. 代表取締役が選任の議案を株主総会に提出するには、監査役の同意が必要である(監査特例法第3条第2項)。
  3. 会計監査人は会計監査人の選任につき、株主総会で意見を述べることができる(監査特例法第6条の3)。
  4. 会計監査人を再任しないことを株主総会の議題とする場合には、監査役会の同意が必要である(監査特例法第5条の2第3項)。
  5. 不再任の場合には、会計監査人は総会で意見を述べることができる(監査特例法第6条の3)。
  6. 会計監査人の解任を株主総会の議題にする場合には、監査役会の同意が必要である(監査特例法第6条第3項)。
  7. 会計監査人は解任について、株主総会で意見を述べることができる(監査特例法第6条の2第3項)。

(2) 監査役(会)

  1. 監査役は、株主総会で選任される(商法第280条第1項)。
  2. 監査役はその選任につき、株主総会で意見を述べることができる(商法第275条ノ三)。
  3. 代表取締役が選任議案を株主総会に提出する場合には、監査役会の同意が必要である(監査特例法第18条第3項)。
  4. 監査役は、その会社・子会社の取締役・使用人を兼務することはできない(商法第276条)。
  5. 任期は4年であり(商法第273条第1項)、株主総会で解任可能であるが、特別決議によるものとされ(商法第280条第1項)、解任の際には、監査役は株主総会で意見を述べることができる(商法第275ノ三)。
  6. 任期中に監査役の辞任がなされた場合には、当該退任監査役および他の監査役は、この辞任について株主総会で意見を述べることができる(商法第275条ノ三ノ二)。
  7. 監査役はその半数以上が社外でなければならない(監査特例法第18条第1項)。

(3) 委員会等設置会社における監査委員会

  1. 株主総会で取締役として選任される(商法第254条)。
  2. その過半数は社外取締役で構成される(監査特例法第21条の8第4項)。
  3. 監査委員会のメンバーは、執行役・使用人等を兼任することができない(監査特例法第21条の8第7項)。

3.米国証券関係法上の適用除外(例)

  1. 様式10-Q四半期報告書の提出の免除
  2. 1934年証券取引所法第14条(Section 14)の委任状勧誘規制からの適用除外
  3. 1934年証券取引所法第16条(Section 16)の短期売買差益規制からの適用除外。
以 上

【別紙 2】

[その他外国企業の扱いを明確にすべき事項(例)]

102条会計事務所の登録制度
106条外国会計事務所の扱い
201条監査業務を行っている会社への一定の非監査業務の提供の禁止
202条監査・非監査業務の監査委員会による事前承認
203条監査パートナーの交代義務
204条監査人の監査委員会への報告義務
206条監査開始の1年前までに当該監査法人にいた者が当該会社のCEO・CFO等幹部になっている場合の当該監査法人による監査の禁止(Cooling Off Periodの新設)
303条会計事務所への不当な影響の排除
304条CEO・CFOの報酬・賞与の没収
307条弁護士の責任
401条簿外取引・プロフォーマ情報の開示規制
404条内部統制の評価の報告
406条財務担当役員の倫理規定の有無の開示
407条監査委員会における財務専門家の有無の開示
408条SECによるレビューの強化
409条財務状況の重大な変更の即時開示
以 上

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