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情報通信審議会IT競争政策特別部会最終答申(草案)に関する意見

2002年7月2日
(社)日本経済団体連合会
  情報通信委員会
  通信・放送政策部会

日本経団連では、昨年12月、「IT分野の競争政策と『新通信法』の骨子−IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第二次提言」をとりまとめるなど、現行の「事業者規制法」ともいうべき電気通信事業法を利用者利益の確保とそのための自由かつ公正な競争の促進を目的とする「競争促進法」の体系へと転換するよう訴えてきた。
今般、こうした経済界の要望を参酌して、情報通信審議会IT競争政策特別部会最終答申草案が、利用者利益の最大化を図るため、事業者間の自由競争を政策の基軸に据え、一種・二種事業区分の廃止および規制水準の全般的な低下の方向性を打ち出したことは、高く評価できる。その上で、草案に基づいて構築される「新たな競争の枠組み」が、真に「競争促進法」と呼ぶに相応しいものとなり、通信分野のイノベーションにつながるよう、下記の諸点を要望する。
なお、草案では、規制の見直し等に関する具体的な措置内容を今後の検討に委ねている箇所が少なからず見受けられる。そこで、審議会としての最終答申のとりまとめを受け、政府として改正法案等を策定するにあたって、改めてパブリックコメントを募集して幅広く意見を聴取するなど、公正・透明な手続を担保すべきである。

1.参入規制のあり方( P.74 (2) )

草案では、公正競争の確保等の観点から必要と認める場合には、「登録について条件を付すこと」または「届出に係る事業の開始に際して所要の措置を講じることを可能とする」等の手法が考えられるが、今後、法制的観点も含め、さらに検討が必要、としている。
この点については、公正競争の確保等の観点から、個別事案毎にその都度条件等を付すのではなく、予め事業参入要件を提示しておくこととすれば、「事前届出」で足りると考えられる。そうすることによって、草案が示すように「社会的影響力」等をメルクマールとして事業者を区分することなく、規制水準も低下させることができる。
なお、行政当局に提出する情報は、事業者の名称、住所、サービスの概要を基本とすべきである。

2.退出規制のあり方( P.78 (4) )

草案では、退出規制のあり方について、事前届出制への移行に併せて、事前に事業の休廃止について周知する義務を課す等の措置を講じる方向で検討するのが適当とした上で、現行二種事業のうち、社会的影響が大きいと考えられる事業者については、現行の事後届出に替わり事前届出制を採用することに一定の合理性がある、としている。
今日では、多数の事業者が参入、競争しており、一部の事業者が退出したとしても、ユニバーサル・サービス以外は、他の事業者により代替可能であると考える。また、仮に事前の周知義務を課したとしても、倒産等の場合は実効性に乏しい。したがって、事業からの退出に関しては非規制とし、事業者の自己責任に委ねるべきである。

3.公益事業特権付与のあり方について( P.76 (3) )

草案では、公益事業特権の付与を希望する事業者からの申請に基づく認定制度の導入について検討を進めることが適当、としている。
この点については、「公衆に対し通信サービスを提供すること」など、公益事業特権を利用するにあたっての要件を参入時に予め示しておき、それらの要件の下で事業を行なう旨を届出た者は、公益事業特権を利用できるようにすべきである。実際に公衆に対しサービスを提供しているかどうかなど、参入後の事業内容などを事後十分にチェックすることとすれば、新たに認定制度を導入せずとも、特権の濫用は防止できると考える。こうした仕組みは、草案が指摘する「公益事業特権の付与を受けた事業者がその事業内容を変更する場合」への対応においても有効であろう。併せて、当該事業者が、公衆に対しサービスを提供するなどの要件の下で事業を行なう旨を届出ていることを道路管理者などが確認できるようにすることも考えられる。

4.サービスに係る規制のあり方について( P.82 (2) )

草案では、料金等の提供条件に係る契約約款の作成・公表義務等を不要とする規制緩和措置を講じることが適当、とする一方、利用者保護の観点から、契約時における情報提供・説明ならびに業務改善命令や料金変更命令等を発出するための個別提供条件の報告を義務付けることを検討する、としている。
料金等の提供条件に係る規制が緩和されれば、競争が促進され、多様な選択肢が利用者に提供されることが期待されるなど、むしろ利用者の利益につながるものと考えられる。契約時における情報提供・説明は事業者の当然の責務であり、また、仮に、著しく不当な料金等を提示する事業者があったとしても、利用者は他の代替サービスに乗り換えることが可能であることから、個別の提供条件を事後的に報告させるなどの義務付けは不要と考える。

5.有効競争レビューのあり方( P.86 (c) )

草案では、適切なサブマーケットごとに市場を画定し、市場支配力を評価することが適当とした上で、定期的な有効競争レビューが必要である、としている。
有効競争レビューのあり方については、別途検討していくことになっているが、レビューの結果は、競争の枠組みのあり方を大きく左右すると考えられるだけに、納得性の高いものでなければならない。そのため、数度に渡りパブリックコメントを募集して利用者、事業者などから幅広く意見を吸い上げるなど、公正・透明な手続を経る必要がある。

6.その他

(1) 競争政策の推進体制の整備〜独立規制機関の設置検討

公正・透明な手続の下で有効競争レビューを実施するなど、草案が描く新しい競争の枠組みにおいては、自由かつ公正な競争を促進するルールを策定、執行し、紛争を迅速に処理する機能を強化することがますます重要となる。競争ルールの策定・執行等の機能を担う機関は、専ら利用者利益を確保し、公正な判断を行なうため、その職務遂行にあたって、事業者を含め利害関係者から独立するとともに、政治的介入を受けないようにする必要がある。さらに、産業振興行政の機能からも独立する必要がある。
競争推進体制の整備について、草案では、有効競争レビューを的確かつ迅速に実施するための行政当局によるモニタリング機能の強化・充実に触れるに止まるが、この際、前述した独立規制機関の設置についても検討すべきである。

(2) 申立制度の導入

第一次答申において、「申立制度についても、導入方策を検討する必要がある。手続を定めたガイドラインを整備、公表することが必要である」としている。しかしながら、既存の制度・政策等の見直しについて直接行政に要望でき、これに対し、行政が一定期間内に回答を公表することを義務付けた「申立(ペティション)制度」の導入については、特段の進展がみられない。独立規制機関の設置に関して述べたように、「新しい競争の枠組み」においては、市場環境の変化に対応して利用者利益を第一に考えた公正な判断に基づく競争政策が求められる。そのためには、ペティション制度などを通じて、利用者である国民、企業の理解と支持を得る努力が不可欠と考える。

以  上

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