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「担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案」へのコメント
2002年5月31日
(社)日本経済団体連合会
経済法規専門部会
I.基本的考え方
法制審議会で検討中の担保・執行法制の見直しについては、2002年1月21日に「担保・執行法制の見直しに関する基本的考え方−法制審議会で審議中の担保及び執行制度の見直しに関するコメント−」を取りまとめ、公表しているところである。これに付け加えて、下記の点を要望する。
II.各 論
1.留置権、商事留置権、及び、不動産工事の先取特権の見直しについて
留置権、商事留置権、及び、不動産工事の先取特権の見直しにあたっては、例えば建設業者など特に建物に関連して担保権を有するものと、土地に関連して担保権を有するものとの間で、双方の権利を侵害しないよう、制度設計を行うべきである。
その中で、建設業者など、特に建物について担保権を有する者の権利の保全のために、例えば当該建物に対する留置権については、破産手続においては別除権、会社更生手続においては更生担保権、民事再生手続においては別除権を認めるなど、各倒産手続きにおいて権利が消滅しないような制度設計を考慮すべきである。
また、工事請負代金債権の保全のために公示を要する制度とする場合には、工事開始前に限らず、工事中、工事完了後にも登記できることとし、また、その予算額または費用の額を一定の書面(建設工事請負契約書等)により証明し、単独で登記すれば足りることも検討すべきである。
2.指名債権の債権質
「指名債権をもって質権の目的とする場合においては,その債権につき債権証書があるときであっても,その証書の交付を質権設定の効力発生要件とはしないものとする(中間試案第1の3)」ことについて、賛成する。
3.「不動産の収益に対する抵当権の効力等」について
経団連2002年1月21日のコメントの「I 3.抵当権に基づく抵当物件管理制度」に関連し、債権回収の手段を多様化する観点から、競売とは別個に抵当権者が不動産の収益から優先弁済を受けるための手続とすべきである。
また、抵当不動産の賃料に対する物上代位については、裁判所は差押物件の管理・保存に十分に配慮した上で、差押命令を発令するような制度(例えば、差押物件に維持管理に真に必要な経費等は差押の対象から除外する等)の明確化をはかり、抵当権者が、状況に応じて管理制度と物上代位のいずれかを選択できる規定とすべきである。
4.滌除制度の廃止と新・担保権消滅制度(仮称)の創設について
2002年1月21日のコメントの「I 2.滌除制度の廃止と新・担保権消滅制度(仮称)の創設」の通りである。
5.一括競売について
「土地の抵当権者は,抵当権設定後に抵当地に建物が築造された場合においては,建物を抵当地とともに競売することができるものとする。ただし,建物所有者が抵当地について抵当権者に対抗することができる占有権原を有するときは,この限りでないものとする(中間試案第1の4の(3))」ことについて、賛成する。
6.「短期賃貸借」について
- 2002年1月21日のコメントの「I 1.短期賃貸借制度の廃止と抵当権者審査型借家権(仮称)の創設」の通りである。
- なお、抵当権者が個々の賃貸借について個別的に同意を与える『抵当権者審査型借家権(仮称)』に加え、抵当権者が抵当権に後れる全ての賃貸借について包括的に同意を与えることによって、借家権に対抗力を与える制度(『抵当権者包括同意型借家権(仮称)』)も創設すべきである。
- また、土地についても、抵当権者の同意によって抵当権に後れる賃借権に対抗力を与える制度を創設すべきである。
7.担保権実行段階における敷金等返還請求権の取扱いについて
- 2002年1月21日のコメントの「I 5.担保権実行段階における敷金等返還請求権の取扱いについて」の通りである。
- なお、検討にあたっては、賃借人が保証金債権について一定の範囲内で優先して賃料と相殺出来る制度等についても検討すべきである。
8.労働債権について
- 雇人給料の先取特権(民法308条関係)によって保護が与えられる債権の種類及び範囲については、株式会社・有限会社等とそれ以外の使用者とを区別する合理的理由に乏しいことから、商法295条と同じ内容とすることに賛成する。
- ただし、一定の範囲の労働債権について、何ら公示手段も要さずに、抵当権等に優先させることについては、債権保全に意を用いている他の担保権者の利益を不当に害するおそれがある。また、債務者の資金調達に悪影響を及ぼすことがあることから、反対する。
9.金銭債務の強制執行を間接強制の方法により行うこと、および、債務者の財産を把握するための方策について
債務者の財産を把握するための方策として、「財産開示制度」および「執行裁判所の第三者(税務署など)への照会制度」の創設について賛成する。その上で、債務者に資力があることが確認された場合には、「間接強制の適用範囲の拡張」により債務者に弁済を強く促すべきである。
なお、「執行裁判所の第三者(税務署など)への照会制度」については、プライバシー保護の問題があり、その要件については慎重に検討すべきである。
10.「一般先取特権の実行等」および「動産競売」について
2002年1月21日のコメントの「I 4.動産先取特権の行使要件の見直し」の通りである。
11.不動産競売に関する見直しについて
不動産競売執行妨害への対策の観点から、民事執行制度の改善・強化が検討されていることを歓迎する。また、今回の見直しにより手続規定が合理化され、手続が更に迅速に行われるよう強く要望する。
- 中間試案の方向性に賛成する項目
執行妨害行為を排除し、あるいは、競売に関する積極的な情報公開を通じて競売による売却処分を促進する観点から、下記項目について賛成する。
- 民事執行法上の保全処分の強化(中間試案の第2の1の(1))
- 競売参加者による物件内覧の機会の拡充、あるいは、執行官による競売物件の内部の撮影およびその上映(中間試案の第2の1の(1)の(イ)のbおよびその補足説明)
- 明渡し執行の実効性の向上(中間試案の第2の1の(2))
- 占有者に自らの占有権原を疎明させる制度(中間試案の第2の1の(3)の注記前段)
- 物件明細書のインターネットによる閲覧(中間試案の第2の3の(4)の(ア))
- 配当異議の申出等があった場合における差引納付に係る代金の納付時期(民執法78条4項)につき「直ちに」とあるのを「1週間以内に」などと改める(中間試案の第2の3の(4)の(イ)の(注))
- 更なる検討を要する項目
下記項目については、そのメリットを否定できないが、それぞれ濫用による弊害の懸念があり、不動産競売に関する他の制度の見直しや運用の改善を踏まえつつ、更に検討すべきである。
- 裁判所が最低売却価額を定める制度の廃止、あるいは、裁判所が最低売却価額を定めるかどうかを債権者に委ねさせる選択制の導入(中間試案の第2の3の(4)の(イ)の注記前段)
(理由)執行妨害行為がなお見られる現状からすると、不当に安く競売不動産を買い受けようとする者を利する結果をもたらすおそれがある。
- 競売によって不動産を取得した場合への瑕疵担保責任規定の適用(中間試案の第2の3の(4)の(イ)の注記後段)
(理由)誰が瑕疵担保責任を負えばよいのか不明確である。
- その他不動産競売に関する要望事項
- 私債権との調整において優先する租税債権の反復的行使の禁止(中間試案の第2の3の(4)の(イ)の注記後段補足説明)
- 競売参加にあたっての保証提供額の引下げ(例えば、最低売却価額の20%を10%に引き下げるなど)
保証提供の趣旨からすれば最低売却価額の10%程度で十分であり、保証提供額の引下げを行うことで買受の申出を容易にし、競売を活性化すべきである。
- 先順位者の同意による、剰余見込のない場合の後順位抵当権者の競売申立の認容(民事執行法63条)
剰余価値がない場合でも、経営上早期に不良債権を償却する必要がある場合もあることから、先順位者の同意が得られる場合には、後順位の抵当権者の競売申立も認めるべきである。
12.その他見直すべき項目について
- 裁判所の売却許可を経ずに売却を行いうる場合の拡大
民事執行規則123条(相場のある有価証券の売却価額等)の適用範囲については、「取引所」の相場のある有価証券に限定する理由に乏しく、「店頭売買有価証券市場の相場がある有価証券」も加えるべきである。
- 譲渡命令等を活用し得る場面の拡大
例えば、債務者から寄託を受けている有価証券を裁判所に提出する(換価して提出する場合を含む)に当っては執行官への引渡しを介在させる必要はないことから、動産の引渡請求権への執行に関し、譲渡命令・換価命令を活用し得る場合として、「取立てが困難であるとき」の他、公正な方法での換価が可能である場合を加えるべきである。
III.おわりに
今回の見直しについては、対象項目が多岐にわたり、また各関係者の意見が対立するところも多いことから、どこまで立法化できるか懸念されるところである。万一、積み残しが出ても、再度の見直しにより早急に対応すべきである。
以 上
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