2001年12月18日 (社)経済団体連合会 |
経団連では、利用者が多様で低廉な通信サービスを享受できるよう、通信市場において、様々な主体が公正な競争条件の下で自由に創意工夫を発揮できる枠組みの整備を求めてきた。そのためには、昨年3月に公表した経団連の「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言」で主張したように、「事業(者)規制法」とも言うべき電気通信事業法を自由かつ公正な競争の確保を目的とする「競争促進法」の体系へと早急に転換する必要がある。この競争政策の確立の遅れが、IT革命においてわが国が諸外国に後れをとった一因である。
先般改正された電気通信事業法には、競争促進の観点から支配的事業者規制などが導入されたものの、第一種・第二種の事業区分に基づく競争促進とは相容れない規制が残っており、「競争促進法」と呼ぶには依然、不十分な体系となっている。また、支配的事業者規制なども導入されたばかりであり、その運用を注視するとともに、市場の動向に合わせて不断に見直していかなければならない。
一方、通信市場の隣接・関連分野にも目を向けると、垂直・水平両方向へ融合が進み、いわば「IT市場」とも呼び得る市場が形成されつつある。そのような中で、IT分野全体を視野に入れた競争政策のあり方が問われており、その一環として情報通信法制を再構築することが重要となっている。
以下では、まず、通信市場およびIT市場における現状と課題ならびに改革の方向性を整理した上で、現行制度を手直しするというアプローチではなく、新たに競争促進的な制度を構築することとした場合の基本的な要素を「新通信法(競争促進法)」の骨子として提示することとしたい。
電電公社民営化・競争導入から16年余が経過した今日、数多くの事業者が市場に参入するとともに、長距離・国際通信、移動体通信では競争が進展し、一般利用者向けの料金・サービスは多様化・低廉化が進んでいる。従来、競争が困難と考えられてきた地域通信市場においても、インターネットへのアクセス需要の高まりを背景に、自ら設備を設置してサービスを提供する事業者や既存事業者が有する設備を利用してサービスを提供する事業者が増加するなど新しい展開が見られるようになっている。
一方、ネットワーク利用の拡大に伴い、個人・企業のニーズはますます高度化しており、それらニーズに対応したサービスの円滑な提供が望まれる。
通信事業は独占から競争へ移行しつつあるものの、電力、ガスなど一般的に「公益事業」といわれる分野と同様に国民生活や産業活動に必要不可欠な公共性の高いサービスとして、従来、参入・退出や料金などについて規制が課されてきた。しかしながら、個人・企業のニーズの多様化・高度化が進む中で、必ずしも全てのサービスが国民生活に不可欠とは言えなくなってきており、一律に規制を課す必要性は急速に薄れている。
一般に競争が進展している産業分野においては、公正な競争の確保を競争の一般ルールである独占禁止法に委ねることが重要であり、本来、当該産業分野固有の法律(以下「個別法」と記す)を必要としない競争環境が実現されることが望ましい。しかしながら、通信市場には、
85年の公社の民営化、競争の導入以降、市場では、通信とコンピュータの融合により付加価値の高い様々な通信サービスが提供されるようになった。また、最近では、コンピュータのみならず、端末機器、情報コンテンツがネットワーク・インフラと融合し、IT市場とも呼び得る一つのバリューチェーンを形成しつつあり、ネットワーク・インフラのブロードバンド化がこれをさらに加速しようとしている。
この動きを提供されるサービスと、それらを伝送するネットワークに整理して捉えるとすれば、まず、サービスについては、端末機器の機能の向上、ネットワーク・インフラの高度化、インターネットの爆発的な普及とインターネット・プロトコルによる伝送の拡大などによって、音声、データ、映像など様々な形態の情報がパッケージで伝送されるようになっている。一方、ネットワークでは、通信用、放送用、CATV用といった特定の設備に拘束されない形で情報を伝送することが技術的に可能となっており、部分的ではあるが、伝送設備の共通化・一体化が進みつつある。
個別法としての「新通信法(競争促進法)」を中心に構築されるべき新しい制度枠組みは、以上のサービスの融合と伝送設備の共通化・一体化をも十分踏まえたものでなければならない。
現行の電気通信制度は、通信の公共性を前提とした「事業(者)規制法」の体系となっており、規制を通じて事業運営の適正性・合理性を確保することによって利用者の保護を図ることとしている。しかしながら、事業運営の適正化・合理化は、本来、市場における競争を通じて担保されるべきものであり、利用者利益は競争の促進によってこそ確保されるものである。
利用者利益を最大化するには、事業者の自由な創意工夫が遺憾なく発揮されるよう、まず、競争の促進につながらない、むしろそれを妨げているような参入・退出、料金等に関する規制を緩和・撤廃し、原則自由な市場を確立する必要がある。そうすることが「新通信法(競争促進法)」へ転換するための第一歩と位置づけられる。
IT市場では垂直・水平双方向に融合が進みつつある一方、これを規律する法制度は通信・放送あるいは有線・無線という技術毎に複数並存しているため、技術的には可能であるにもかかわらず、新しい事業が展開できなかったり、同一の市場において異なるルールの下で競争しなければならないといった問題が生じている。
そこで、まず、共通化・一体化が進みつつある伝送設備については、使用する技術および伝送する情報が何であるかにかかわらず、同一の制度の下に置く必要がある。そうすることによって、新しい技術の登場にも柔軟に対応できるようになる。
伝送設備に関する共通の制度枠組みを構築するためには、通信サービスの定義を特定の伝送設備に基づかないものに改める必要がある。
また、音声、データ、映像などネットワーク上で提供されるサービスの融合が進む中にあって、通信サービスとして規制対象となるサービスの範囲を限定し、自由な事業展開によるIT市場の拡大を促す必要がある。
先に述べた通信市場の特殊性に鑑みれば、競争の確保を独禁法による事後規制に全面的に委ねるのではなく、競争促進のための必要最小限のルールを設け、市場支配力を有する事業者とそれ以外の事業者との間に公正な競争を有効に機能させる必要がある。
すでに接続ルールの適用等によってネットワークのオープン化が進められてきているが、ブロードバンド化等に伴いネットワーク上で提供されるサービスが拡大することによって、情報コンテンツや端末機器のネットワークへの依存度はますます高まると予想される。このような中で、通信市場において市場支配力を有する事業者がその支配力を梃子に隣接・関連市場に進出する場合、当該市場における公正な競争を歪めるとともに、通信市場における支配力を強めることになる惧れがあり、この観点からも市場支配力を有する事業者に対する競争ルールの策定が求められている。
なお、以上のルールも競争の進展に応じて見直していく必要がある。
IT分野において自由かつ公正な競争を確保するためには、「新通信法(競争促進法)」に基づいて競争ルールを策定、執行し、紛争を迅速に処理する機能を強化するとともに、当該ルールを実効あるものにするため、独禁法による事後規制を厳正に執行していくことが不可欠である。また、通信市場における市場支配力を梃子にして隣接・関連市場における公正な競争が歪められることがないよう、事前の競争ルールに加えて、独禁法に基づく事後規制によって公正な競争を担保することが求められる。
競争ルールの策定・執行等の機能を担う機関には、通信分野の専門知識が求められるのはもちろんのこと、専ら利用者利益を確保し、公正な判断を行うため、その職務を遂行するにあたって、事業者を含め利害関係者から独立していることが求められる。また、中長期的な視点に立って自由かつ公正な競争の確保という政策目標を一貫して追求するためには、短期的な利害の調整を目的とした不当な政治的介入を受けないようにすることが重要である。さらに、これらの要件を徹底するためには、予算の配分を伴う産業振興行政の機能からも完全に分離される必要がある。
競争の進展に伴い、国民生活に不可欠なサービスを合理的な価格で提供する費用を特定の事業者にのみ負担させることは、当該事業者を競争上不当に不利な立場に置く惧れがある。したがって、公正な競争を確保するためには、ユニバーサル・サービスの費用を競争中立的な形で負担していくことが課題となる。
今般の電気通信事業法改正により、ユニバーサル・サービス確保のために基金方式が用いられることとなったが、ユニバーサル・サービスを提供することによって発生する純費用が競争上不当な重荷を発生させているか否かの検証がまずなされる必要がある。事業者のみならず利用者である国民の幅広い理解を得る上でこの作業は不可欠である。
以上の改革を実行するためには、昨年3月の提言で指摘した通り、伝送媒体に関わる法制(電波法、有線電気通信法等)や事業に関する法制(電気通信事業法、放送法、有線テレビジョン放送法等)、事業体を規律する法制(NTT法)といった現行の情報通信に関わる諸法律について、利用者利益の最大化とそのための自由かつ公正な競争の確保を可能とする新たな情報通信法制へ整理・統合する必要がある。
融合が進むIT市場では、情報コンテンツの流通に不可欠な伝送能力を提供する通信サービスにおける自由かつ公正な競争の確保がとりわけ重要であり、まず、通信市場における競争の促進に焦点を当てた制度枠組みを構築することが急務である。
なお、技術、サービス、市場の変化が激しいこの分野においては、それらの変化に柔軟に対応できるよう、簡素な制度とする必要がある。また、将来起こり得るあらゆる変化を考慮して法律を作成するのは困難であることから、以下に示す骨子の一部は、後述の独立規制機関が、法律によって与えられた権限に基づき、透明な手続に従って策定、執行する競争ルールに反映されるべきものと考える。
<骨子1> いつでも、どこでも、誰もが合理的な料金で多様な通信サービスを自らのニーズに応じて迅速に享受できるよう、自由かつ公正な競争を促進することにより、利用者利益の最大化を図ることを法律の目的とする。 |
<説明> 現行電気通信事業法は、「電気通信事業の運営を適正かつ合理的なものとするとともに、その公正な競争を促進することにより、電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進すること」を目的としているが、利用者利益の最大化とそのための自由かつ公正な競争の促進を法律の目的として掲げることにより、「新通信法」の「競争促進法」としての性格を明確にする。 |
<骨子2> 通信サービスは、「利用される伝送設備が何であるかにかかわらず、利用者が指定した情報の形態・内容を変更することなく、利用者が指定した複数の地点間で伝送する能力を提供すること」とする。 |
<説明>
|
<骨子3(1)> 通信の秘密の確保および接続の義務、ならびにこれらの義務に反した場合の措置など、予め示された事業参入にあたっての要件に同意する事業者は、事業参入する旨を独立規制機関に通告する。その際、公衆に対して通信サービスを提供する事業者は、ネットワーク・インフラの整備にあたって周辺諸権利との調整に必要な権利(いわゆる公益事業特権)を利用できるものとする。 |
<説明>
|
<骨子3(2)>
|
<説明>
|
<骨子4(1)>
|
<説明>
|
<骨子4(2)> 公正取引委員会の機能強化に向け、組織の位置づけを見直すとともに(内閣総理大臣の所轄機関化)、陣容を強化する。 |
<説明> 「新通信法」で規定すべき事項ではないが、独立規制機関による競争ルールの執行を実効あるものとするためには、必要とされる場合には、独占禁止法による事後規制が厳正に執行されるとの認識が広く共有されていなければならない。 |
<骨子5> 競争ルールをはじめとする法制度の定期的見直し条項を設ける。 |
<説明> 市場の変化等が激しい通信分野では、将来起こり得る変化を考慮して法律を策定することは不可能であり、その内容は基本的な政策の方向性を示すに止まらざるを得ない。そのため、法律の具体的な執行にあたっては、独立規制機関が競争ルールを策定する必要があり、また、そのルールも市場の変化に迅速に適応するよう定期的に見直していく必要がある。 |
<提言> NTTの経営に直接介入する規制および研究開発に関する責務は早急に撤廃するとともに、ユニバーサル・サービス確保、公正競争確保に必要な事項などを新法に統合、吸収することにより、NTT法を廃止する。 |
<説明>
|