規制緩和と構造改革の進展とともに、競争政策の果たす役割は重要性を増している。その意味で、今般、法改正を視野に入れて一般集中規制と手続関係規定の検討が行われたことは評価できる。しかし、報告書の基本認識には、経済界のそれと大きな隔たりがある。独占禁止法の改正は、経済実態に即したものとすべきであり、戦略的あるいは生き残りを賭けた企業構造の変革や市場のボーダレス化に対応するために、独禁法の構造そのものの抜本的改革が必要である。かかる観点から下記の通りコメントする。
企業の経済活動がグローバル化し、市場規模が巨大化する中で、企業(または企業グループ)の日本市場での規模のみに着目して一律に外形的な規制を課す一般集中規制は、企業活動を不当に制限するだけで既に存在意義を失っている。独禁法はこうした規制を改め、実質弊害規制に転換すべきである。
また、一般集中規制の根拠として、六大企業集団の調査や大規模事業会社の調査等の結果を取り上げているが、同調査の分析には、企業集団を超えた合併、事業統合、業務提携等の増加などこれまでの企業集団の関係の変化や株式の持合い解消の進展などについて正しく認識していないという問題がある。六大企業集団調査等の必要性についても、この際、見直すべきである。
現在、独禁法違反行為への制裁措置は、刑事罰と課徴金の二制度が併存し、また不当利得の剥奪についても課徴金と民事救済の二制度が併存するという世界に例のない変則的なものとなっている。また、課徴金制度が導入された昭和52年当時と比べ、刑罰の強化、積極的な刑事告発、民事責任追及の増加など、独禁法違反に対する制裁や責任追及は一段と強化されている。こうした状況をふまえ、措置体系全体の抜本的な見直しが必要である。
現在、来年度通常国会で大幅な罰金引上げが俎上に上がる予定と聞くが、違法行為の抑止力は制裁措置全体で形成されるものであり、事実上、制裁的性格を有する課徴金の在り方など、措置体系全体の見直しを先行させるべきである。他の経済法令の罰金との単純な比較や、抑止力のためには高い方が良いといった一般論のみによる拙速な見直しには反対である。
また、公正取引委員会による証拠収集などの調査プロセスについても、デュープロセスの観点から不透明な点については是正すべきである。
課徴金等を想定した制裁減免制度については、採用している国が増加しているものの、わが国の国民感情に馴染むかという視点から慎重な考え方が示されており、この点は共感するところである。採用している国においてもいろいろと問題点がある現状から見て、急いで導入すべきものではない。これは司法制度改革の中で取り上げられているテーマであり、わが国の司法制度や法体系の中で、どのように取り扱うべきかという観点から議論を尽くすべきである。