[経団連] [意見書]

日韓産業協力の新たな発展に向けて

2001年11月20日
(社)経済団体連合会

 対韓経済交流を顧ると、わが国企業は1965年の日韓国交正常化の前後から、韓国企業との間でさまざまな協力関係を構築してきており、両国間で活発なビジネスを展開している。昨年の日韓貿易は、米国、中国、台湾に次ぐ第4位の規模(約510億ドル)に達している。
 もとより経団連では、日韓企業の自由な経済活動がそれぞれの経済や両国経済関係の発展に資するとの観点から、両国のビジネス環境の整備やそのための枠組みについて、全国経済人連合会(全経連)はじめ韓国経済界と長年にわたって意見交換を図ってきた経緯がある。
 最近の日韓関係を見ると、1998年10月と2000年9月の金大中大統領の2度にわたる訪日を契機に、両国は新たなパートナーシップの構築に向け、日韓の自由貿易協定(FTA)の可能性をはじめ、未来志向の建設的な議論を行っている。
 かかる背景の下、経団連は昨年10月、全経連との間でFTAの可能性も視野に入れつつ、新しい世紀における今後の日韓産業協力のあり方について相互に検討することとし、本年1月より「日韓産業協力検討会」を設置して議論を重ねてきた。
 その結果、経団連としては、今後の日韓産業協力と日韓FTAについて次のような結論を得るに至った。すなわち、

 以下は、日韓産業協力の現状と今後の可能性、日韓FTAのあり方、ならびに今後の課題についてのわれわれの考えである。

1. 日韓産業協力の現状と今後の可能性

(1) 現状
 対韓ビジネスの現状を概観すると、電機・電子・通信、精密機器、自動車、鉄鋼をはじめとする主要分野で技術提携、部品の供給、製品の共同開発、第三国での協力などが行われており、相互依存関係が形成されている。また、わが国企業の中には、韓国企業と40年近くにわたって協力してきた事例があるほか、最近では両国企業による戦略的な提携が行われている。
 韓国でのビジネスを取り巻く環境については、韓国のOECD加盟(1996年)、アジア通貨危機の発生とIMFの韓国支援(1997年)を契機に、輸入先多角化制度など、これまで外国企業の活動を制限してきた貿易・投資に関する諸制度が廃止されるとともに、外国人投資促進法が新たに制定され、改革が実現している。その結果、日韓産業協力が促進される環境も整備されつつある。
 しかしながらその一方で、産業協力を進める際に日本企業が直面する問題として、労働問題や貿易投資に関連する諸手続きの煩雑さが指摘される。労働問題については、IMFによる支援を契機に整理解雇制など制度面での改善が見られるものの、日本企業にとっては依然として対韓ビジネスの大きな阻害要因である。

(2) 今後の可能性
 今後の日韓産業協力に関しては、後掲の資料に示したとおり、業種により差はあるものの、総じて協力関係の進展が見込まれる。
 特に、電機・電子・通信、鉄鋼の分野では、両国の技術レベルが世界のトップクラスにあり、国際市場で激しく競争する一方、部品、原材料の供給などで緊密な協力関係が構築されている。日本企業が世界戦略を展開する上で、商品の共同開発、部品、原材料の調達、製品の相互融通などで韓国企業はますます重要なパートナーとなり、先進国型の水平分業の最も典型的な業種となることが予想される。
 他方、韓国の輸入先多角化制度により実質的に対韓輸出ができなかった自動車やAV製品などについては、1999年の同制度の撤廃に伴い日本企業の現地法人の設立が始まっている。また、韓国企業の対日進出も徐々に進んでいることから、今後、双方の市場で新たな日韓協力のネットワークが形成される可能性も期待される。さらに、セメントなど建設資材の分野では、日韓中の三国による北東アジア域内の供給体制を構想するものもある。

2. 日韓FTAのあり方

(1) 貿易自由化をめぐる情勢
 世界経済は、グローバル化のうねりが高まる一方で、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)に代表される地域経済統合の流れが加速している。特に1990年代後半以降、FTAの締結数が増大している。
 わが国においても、WTOでの多角的通商交渉を補完するものとして、FTAを締結する機運が高まっている。具体的には、シンガポールとの間で年内を目途に「日本シンガポール経済連携協定」を締結することとしているほか、メキシコとの間では「経済関係強化のための日墨共同研究会」が設置され、本年9月から、FTAの可能性も含めて包括的な話し合いに入っている。
 現在、アジアでOECDに加盟しているのは日本と韓国のみであるが、WTO加盟に伴い中国の経済的プレゼンスが今後さらに高まるものと予想される。また、昨年11月にはシンガポールでASEANプラス3(日本、中国、韓国)の首脳会談が開催され、東アジアにおける自由貿易圏構想が提起されるなど、地域レベルの協調を目指す新たな動きも見られる。
 日韓両国は今後とも、アジア経済の発展を牽引する重要なパートナーであり、日韓の産業協力のあり方は、かかる世界経済のダイナミズムの中で考える必要がある。

(2) 日韓産業協力とFTA
 両国企業の間ではかねてより緊密な協力関係を構築し、活発なビジネスを展開してきている。二国間の産業協力の発展は、両国企業の創意工夫に基づく事業活動の積み重ねによるものである。
 しかしながら、個々の企業では克服できない制度的な障壁(例えば、関税、規制など)については、政府ベースでの解決が必要とされる。FTAによって (1)関税の撤廃、サービスの自由化、投資の自由化などによる市場拡大・貿易促進、その結果としてのビジネスや経済の活性化、(2)両国の諸規制の調和、すなわち規制の撤廃・緩和を通じた高コスト構造の是正や、国内の構造改革などが期待できる。
 FTAにより、両国企業間の競争が激化することが予想されるが、競争の過程において戦略的な提携の事例も拡大し、産業協力が一層進展するものと考えられる。FTAは日韓間の産業協力を加速する有効な手段である。

(3) 包括的なFTAの必要性
 日本企業の中には、関税撤廃のメリットもさることながら、日韓双方の国内制度の改革を通じた産業競争力の強化をFTAに期待する声が大きい。従って、日韓FTAは、単に関税撤廃に止まらず、包括的なFTAとすべきである。
 具体的には、後掲の資料に示したとおり、労働問題(労働者に過度に有利な諸制度や慣行の是正など)、基準・認証制度の統一化や相互承認、貿易関連諸手続きの簡素化・効率化と電子化、投資ルールの整備、人の移動に関わる制度(ビザ取得に関わる書類・手続きの簡素化など)、問題発生時の支援制度、知的財産権の保護などを盛り込むべきである。

3. 今後の課題

 実際のFTA交渉に入った際に避けて通れない課題は、農林水産品に代表されるセンシティブ項目の取扱いである。農林水産品を例に取れば、韓国からの輸入に占めるシェアは約10%と高く、この分野が例外扱いとなると、実質的に全ての品目の自由化を行うというWTOルールとの整合性の問題が生じる。われわれはこうした分野の問題を、わが国全体としての通商戦略の下、自由化による市場開放と輸入拡大が国民の大多数の便益を増進させるという認識に基づき克服すべきであると考える。
 また、韓国産業界ではFTAを締結したとしても、短期的には日本側だけが目に見えるメリットを享受し、対日貿易赤字が更に拡大するとの懸念が根強く、FTAの効果を疑問視する声が少くないときく。しかしながら、日韓FTAが韓国の規制改革の推進に資し、長期的に韓国産業界の国際競争力強化にもつながる点に留意し、両国経済界は協定締結に向け努力していく必要がある。
 日韓FTAは、未来を志向する日韓関係全般にとっても意義あるものであり、21世紀の両国関係を象徴する意味からも、早期に締結すべきである。

以 上

参考資料


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