2001年9月12日 (社)経済団体連合会 経済法規委員会 経済法規専門部会 |
このたびの上場制度等の見直しの前提である「安定的で活力ある株式市場の確立に向けて幅広い投資者層が参入できる環境を整えることが重要」との視点は理解する。しかし、一般投資家層の株式市場への誘導のためには、発行会社の企業努力を通じた業績回復と積極的なIR活動による株式投資の魅力の浸透を図るとともに、政策として、証券税制改革や個人投資家への仲介窓口である証券業界への信頼回復と魅力ある商品開発努力といった方策が、まずとられるべきである。効果の不明な「投資単位の引下げ」を発行会社の負担において行うことを実質的に強制するような証券取引所の規則を定めることには、下記の理由からも反対である。
今回の商法改正により、株式分割等に係る純資産額規制が撤廃された趣旨は、株価が高止まりしているが純資産額は十分でないベンチャー企業等が、純資産額規制のために株式分割ができず、市場における株式の流動性が阻害されているからである。また、株式の大きさに関する規制が撤廃された趣旨は、「本来、株式の大きさは、各会社が資金調達の便宜、株主管理費用等を考慮して自由に定めることができるべきものであり、法でこれを強制すべき性質のものではありません。」(相沢英之他「一問一答 金庫株解禁等に伴う商法改正」10頁)という理由からの規制緩和によるものである。
投資単位の括り直しを行った場合、株主数が急増することが予想され、上場賦課金とは別に、印刷費用、代行費用などで、1社当たり億単位の負担を必要とする会社もある。一方、因果関係は不明であるが、投資単位の引下げにより投資家層が拡大することで需給環境が変化し、株価が上昇する可能性もある。このような中で、株主利益のために何をなすべきかは、市場の圧力の中で経営者が判断すべき事項である。従来も、株価が高止まりし、かつ、投資単位の括り直しコストを負担する余地がある会社は、経営判断としてこれを行い、流動性を高める努力を行ってきた。
規制緩和の動きの中で、経営判断事項に関して外部からの干渉を加えるのは是認できない。
個人投資者層の参加を促すという目的のためには、単元未満株式を流通させるという方法も考えられ、このような選択肢があれば、単元未満株式の流通が株主利益の最大化に繋がる会社においては、単元の括り直しをすることなく、これを採ることもあり得る。このためのインフラ整備は、取引所の役割として、まず考慮すべき課題である。
なお、従来通り、自主規制機関である証券取引所の活動として、単位の括り直しを個別に各社に働きかけていくとしても、その際、出来高が十分に高い会社にはその必要性はないし、個人投資家数、個人投資家持株比率が一定以上確保されている会社についても同様である。また、指定替え基準となる株主数基準に10年間の猶予期間等が設けられていることから引下げに踏み切った会社もあるため、配慮が必要である。
次期通常国会の課題である株券の不発行制度や、臨時国会で提案される株主総会の招集通知等でのITの活用の導入により、投資単位の引下げを試みる企業は一層増えるであろう。証券取引所としては、これらの制度の活用状況を踏まえながら、半強制的な手段ではなく、単元の括り直しに伴う発行会社のコスト低減の環境整備など市場誘導的な方策の導入に努めるべきである。