2001年8月8日 経団連 環境安全委員会 共同委員長 山本 一元 |
COP6再開会合で運用ルールについて一定の合意に達したことを踏まえ、今後、国内対策の議論が進展すると想定されるが、経団連は自主行動計画を除く、これまでの国内対策はきわめて不十分であり、CO2削減の実効があがっていないと判断する。政府・与党は追加的国内対策を検討する前に、何故これまでの対策が効果を上げえなかったかを検証し、国民に情報開示すべきである。
以下では、現在政府が大綱に基づいて進めている温暖化対策が何故不十分かについて産業界の見解を明らかにするとともに、今後実効ある温暖化対策を進める上で政府が早急に取り組むべき課題について申し入れるものである。
温暖化対策は、産業界にとどまらず、民生・運輸分野をも包含する問題であり、日本としては、環境との調和をはかりつつ持続的な経済の発展を損なうことのない対策をとることが、いま求められている。
(1) 実効ある温暖化対策を検討するにあたっては、わが国の省エネルギー・CO2削減努力が1990年時点でもっとも進んだ(GDP当りCO2排出量は60.7トンであり、米国はその3.5倍、EUでも1.8倍、中国は27.3倍)ところから出発していることを十分認識する必要がある。1998年の日本のGDP当りCO2排出量は懸命な努力により、58.6トンまで削減してきているが、米国は依然として日本の3.2倍、EUは1.7倍、中国は14.7倍となっており、国際的な不均衡がみられること、すなわち不公平であることに根本問題がある。
(2) なかでも、産業部門からのCO2排出量は、1998年度実績で1990年度比−3.2%、1999年度実績で微増(0.8%)となっている。これは、産業界が自主行動計画を策定し、CO2削減に向け着実に取り組んでいる成果である。
一方、民生部門は、1998年度実績で12.6%増、1999年度実績では17.5%増、運輸部門は、1998年実績で21.1%増、1999年度では23.0%増となっており、温暖化対策の成果が全くあがっていない。
こうした現状を招いた原因として、
各省庁が実施している取組みについては、毎年、合同審議会や温暖化対策推進本部でフォローアップがなされているが、実施した項目の羅列に留まり、各対策のCO2削減効果、現在までの削減状況に関する定量把握はまったく行なわれていない。
政府においては、大綱に基づく施策のCO2削減効果と進捗状況を定量的に評価し、この評価に基づいて、今後必要とされる施策を講ずる必要がある。
各省庁の温暖化対策の取組みについて、国民が評価できるよう情報開示を徹底すべきである。例えば、大綱の施策の一つ「インフラ整備などによる二酸化炭素排出抑制型社会の形成」のために「二酸化炭素排出の少ない都市・地域構造の形成」を行なうとあり、政府のフォローアップによると、このために
大綱に沿って実施しているCO2削減対策の中には、本来温暖化防止を目的としないため、対策効果がまったく不透明な施策があると考えられる。例えば、整備新幹線の整備や高齢者・障害者の鉄道円滑利用促進のためのエレベーター等の整備をあげているが、CO2がいくら削減できるのか示されていない。こうした施策はCO2削減効果が数量的に把握されない限り、温暖化対策のリストからは除外し、数量効果が直接明示される対策に限定すべきであろう。その場合、サマータイムの導入、カープール制(複数名で乗車すること)の義務付け、断熱施工の利用促進策等についてより積極的に検討する必要がある。エネルギーの削減は、国民生活の快適性や利便性に犠牲を強いるものであり、総理大臣自らが、TVコマーシャルなどで国民に省エネやエアコン自粛等を呼びかけるなど積極的な啓蒙活動を展開する必要もある。
産業界としては、自主行動計画で自ら課した目標の達成に向けて着実に努力を続けるとともに、民生・運輸部門の業界に対しても自主行動計画に積極的に参加するよう促していく。また、トップランナー基準の遵守やその前倒し達成等を通じ、民生・運輸部門における排出削減に引続き貢献する考えである。現在、政府との協定化や環境税・課徴金、国内排出量取引等の措置が審議会等で追加的な国内対策として検討されているが、わが国の産業はすでに高いエネルギー効率を達成しており、産業界にしわ寄せするような措置の導入は、産業活動の縮小につながるため断固として反対である。政府がなすべきことは、地球温暖化対策推進法に基づく政府の実行計画を早急に策定し、大綱に基づく対策の問題点を改善するなど、自らが模範となって取り組むことである。
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