「WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場」の概要
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【目次】 |
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I.はじめに:新ラウンド交渉の立ち上げに向けて II.新ラウンド交渉に対するわが国産業界の基本姿勢 1.交渉方式:基本はシングル・アンダーテイキング 2.交渉期限:3年を目処 3.途上国への十分な配慮 III.わが国産業界の優先交渉7項目 1.ビルトインアジェンダ(サービス貿易・農業貿易) 2.鉱工業品の関税引き下げ 3.投資 4.アンチダンピング(AD) 5.電子商取引 6.知的財産権 7.貿易円滑化 IV.その他の重要項目 1.貿易と環境 2.貿易と競争政策 3.政府調達 4.貿易と労働 V.おわりに <参考資料・用語集> |
国際通商システムの中心たるWTO体制は、自由、多角及び無差別を原則とし、公平な通商ルールに基づく紛争処理機能を備えることにより、貿易・投資を通じた効率的な資源配分を促し、世界経済の福利向上に大きく貢献してきた。
現在、国境を越えた事業活動がさらに活発化しているなか、企業にとって、WTOにおける一層の自由化、ルールの強化・整備を通じて、国際的な事業環境を改善していくことの重要性は、ますます高まっている。また、今後も引き続き、WTO体制の維持・発展を図ることは、世界経済の発展にとっても不可欠である。
経団連では、本年6月、「戦略的な通商政策の策定と実施を求める~「通商立国」日本のグランドデザイン~」と題する提言において、わが国政府に対して、WTOを中心とする多角的な国際通商体制の推進を通商政策の基軸とすると同時に、地域的な通商協定にも積極的に取り組むこと、また、政治のリーダーシップにより通商政策と一体となった国内の制度改革及び構造改革を推進することを強く求めた。特に、WTOにおける、さらなる自由化及びルールの強化・整備は、わが国通商政策の最重要課題である。
そこで、わが国産業界は、欧米を始めとする諸外国の産業界とも連携を強化しつつ、本年11月に開催されるドーハ閣僚会議において、包括的なWTO新ラウンド交渉が立ち上がるよう求めていく。
特に、新ラウンド交渉の立ち上げに当たっては、全加盟国が等しく利益を享受することができるように、途上国のニーズに十分配慮する必要がある。また、先進国は、途上国によるウルグアイ・ラウンド合意実施の促進、今後の交渉に備えた人材育成の強化、関連法制度の整備等のキャパシティ・ビルディングを積極的に行なっていくべきである。
以上のような基本認識の下、わが国産業界は、ドーハ閣僚会議において、全加盟国が、以下の提言に沿った形で、交渉方式・期限及び交渉項目について合意することを強く期待する。
なお、新ラウンド交渉で議論される個別項目に対する経団連の要望については、今後の交渉の進展にあわせ、漸次、取りまとめて発信し、その実現に向けて積極的に内外の各方面に働き掛けていく所存である。
交渉方式としては、交渉対象となる項目すべてについての協定を、パッケージとしてWTO全加盟国が合意する一括受諾方式(シングル・アンダーテイキング)が最も望ましい。
他方、交渉の進展によっては、いくつかの項目について複数国間協定等を含めた柔軟な対応をする可能性も排除すべきではない。但しその場合には、鍵となる一定の国の参加(クリティカル・マス)を確保することが望まれる。
交渉期限については、交渉開始から3年程度を目処として、できる限り速やかに妥結することが望まれる。また、閣僚会議の機会を利用して、中間的に、交渉の進展に関するレビューを実施すべきである。他方、個別の項目及び協定の態様により、妥結時期が異なることになる可能性も排除すべきではない。
協定の実施、自由化の権利と義務等、途上国が抱える問題について先進国が理解を示し、途上国が多角的貿易体制の利益を享受できるような自由化を遂行すべきである。そのためには、交渉の不可欠な一部として、後発開発途上国を中心とする途上国に対しては、特別で異なる待遇 #1 を確保すべきである。
また、途上国への優遇と同時に着実な協定の実施を促すため、技術支援を通じたキャパシティ・ビルディング #2 をパッケージとすることが望ましい。その際、先進国が中心となり、途上国のために各分野においてきめ細かな支援を行なっていくことが期待される。
わが国産業界は、政府と協力し、これまで民間企業が培ってきた知識、ノウハウを役立て、途上国の発展に寄与していく所存である。
わが国産業界は、ビルトインアジェンダに加えて、鉱工業品の関税引き下げ、投資、アンチダンピング、電子商取引、知的財産権、貿易円滑化といった項目が新ラウンド交渉のアジェンダとして盛り込まれることを強く求める。
その他の項目については、交渉アジェンダとして取り上げることを必ずしも排除しないが、さらなる検討が必要であろう。
昨年初より開始されているサービス貿易及び農業貿易の自由化交渉は、新ラウンド交渉に包含し統合していく必要がある。
サービス貿易は、経済の高付加価値化等により、ますます重要性が高まっていることから、新ラウンドの立ち上げによってサービス貿易交渉が更に促進されることを強く望む。分野別自由化交渉を通じて、
(注)サービス貿易については、2000年3月に経団連が取りまとめた提言「次期WTO交渉の課題~サービス貿易自由化交渉を中心に~」、2000年11月のJSN(サービス貿易自由化協議会)訪ジュネーブ・ミッションによる「WTOサービス貿易自由化交渉に対する考え」を参照されたい。今後、交渉の進展を見極めつつ、更に詳細な提言を取りまとめて、発信していく予定である。
農業貿易については、グローバルに市場経済化が進むなか、農業貿易のみを例外的に扱うことに対する疑問の声が出ている。途上国の関心がきわめて高いこともあり、自由貿易体制を推進する日本を含む先進国は、市場開放に向けて積極的に取り組むべきである。
自由な貿易を通じた効率的な資源配分が可能となるよう、鉱工業品関税の大幅削減を強く求める。
関税引き下げ交渉方式については、
欧米先進諸国については、平均譲許関税率 #6 (貿易加重平均:米国3.5%、EC3.6%)をわが国(1.5%)と同等の水準まで引き下げるとともに、米国の商用車(25%)や欧州諸国の一部の家電(10~15%)等に見られる、他品目に比べてかなり高い保護主義的な関税を大幅に削減することが強く求められる。また、農産品や繊維製品等を中心として、途上国による輸出の関心が高い品目については、積極的に関税を引き下げ・撤廃していくべきである。
途上国については、まず譲許率 #7 を100%近くにまで引き上げるべきである。さらに、各国における、他の社会的な政策目的や経済の発展段階等に十分に配慮しながら、移行期間を設ける等により、漸進的に平均関税率を先進国並みにまで引き下げていくよう促す必要がある。
世界的に市場が拡大している情報通信(IT)関連製品については、電子商取引の発展の促進という観点からも、ITA(情報技術協定)加盟国の一層の拡大に努めるとともに、ITAの締結後、さらなる拡がりを見せる情報通信関連製品を視野に入れて、全てのエレクトロニクス製品を対象とする等、幅広い品目について効果的に関税の撤廃を目指す必要がある。
国境を越える投資は、企業の経営資源の移動を円滑にするとともに、技術の移転や雇用の創出等を促し、途上国を含む世界経済の発展に大きく寄与しているにもかかわらず、これを規律する一般的な法的枠組みは存在していない。WTOにおいて、国際的な投資ルールを構築することを強く求める。なお、ここでの投資とは直接投資(ただし、GATS=サービス貿易一般協定の対象分野を除く)と定義すべきである。
具体的には少なくとも、(1)投資保護、(2)透明性、(3)最恵国待遇、(4)内国民待遇、(5)市場アクセス、(6)紛争処理に関するルールの整備を行なう必要がある。
以上の他、途上国に対する特別で異なる待遇、途上国に対する技術支援、キャパシティ・ビルディング、既存の二国間投資協定及び地域貿易協定との関係等についても議論することを排除すべきではない。
投資ルール構築の方法としては、こうした投資ルールが、主に投資受入国となる途上国を中心に、すべての加盟国に利益をもたらすものとすべく、途上国のニーズに配慮した柔軟なものにしなければならない。例えば、GATSにならって、過度の義務を課さないようにするため、内国民待遇及び市場アクセスについては、自国の判断に基づき自由化できる分野を選択して約束する方式(いわゆるポジティブ・コミットメント方式)を採用すること等を検討すべきである。
以上の投資ルールの構築とは別に、TRIM(貿易関連投資措置)に関しては、すべての国がTRIM協定ならびに同協定に係るWTO上の決定を遵守することを強く求める。先進国は、後発開発途上国を中心とする途上国がTRIM撤廃を実施できるよう、技術支援等を通じたキャパシティ・ビルディングを行なう必要がある。
(注)なお、欧州委員会は、新ラウンド交渉に関して、2000年12月に、133条委員会に対して新戦略ペーパー("State of Play and Strategy for the New WTO Round")を提出しており、その中で、投資に関しては複数国間協定が望ましいアプローチであると指摘している。
サービス貿易の場合、GATSにおいて、サービス産業による実質的な直接投資に当たる、「海外における業務上の拠点の設置」(第三モード)に関する規定(1条2項(c))があり、最恵国待遇及び透明性が確保される他、各国が特定約束表においてコミットしている限りにおいて、内国民待遇及び市場アクセスも保証される。これに対して、物品貿易を扱うGATTにおいては、同様の規定がなく、製造業による海外の拠点設置については、国際ルール上、こうした待遇が認められていない。したがって、投資ルールを構築していく上では、物品貿易の分野に、GATSにような自由化の方式を導入することで、漸進的に投資の自由化を図っていく可能性についても検討する必要がある。
AD措置は、WTO体制の基本原則である最恵国待遇の例外として認められているが、一部の国による保護主義的な発動の濫用が目立つようになった結果、企業の国際的な事業活動を阻害する事例が増えている。AD協定の規律強化によって、公平かつ適切なAD措置が発動されることとなれば、予見可能で安定的な国際通商システムの維持を図ることが可能となる。現行AD協定(GATT6条の実施協定)を見直し、必要に応じて、規律を強化することを目的として、改正によるルールの明確化について合意すべきである。他方、AD協定の基本的な原則は見直す必要があるが、当面、維持することを受け入れることも可能である。
見直すべきAD協定の内容としては、(1)ダンピングの決定(AD協定2条)、(2)損害の決定(同3条)、(3)調査手続き(同5条・6条)、(4)価格約束(同8条)、(5)AD税の賦課及び徴収(同9条)、(6)AD措置のレビュー関係(同11条)、(7)紛争解決(同17条)等があり得る。他方、この他の項目について、必要に応じ、取り上げるべきである。
また、公共の利益条項や、現行協定には規定が存在しないにもかかわらず、一部の国・地域で導入されている迂回防止措置等、この他の論点についても取り扱う。
こうした見直しとあわせて、近年AD措置の発動を急増させている途上国のAD当局に対して、現行AD協定の適切な実施を促すため、キャパシティ・ビルディングを積極的に行なう必要がある。
シアトル閣僚会議以降、WTOにおける電子商取引の議論に何ら実質的進展が見られないことを深く憂慮する。ウルグアイ・ラウンド以降、電子商取引は世界的に目覚しい発展を遂げている。WTOの法的枠組みが民間主導による世界的な電子商取引の発展に貢献しその健全な発展を促進するように、WTOは短期および中長期的な観点から電子商取引に関する作業に取り組むべきである。
電子商取引に関するワークプログラム #15 を推進させるため、電子商取引について継続的かつ専門的に検討が行なえるタスクフォースを設置することを求める。同タスクフォースは、世界的な電子商取引の発展を促進するという観点から、主として分野横断的な課題についての検討を促進する役割を担うものと考える。
また、タスクフォースの設置に加え、以下に述べるような基本的な考え方について合意することを求める。なお、加盟国間で合意に至らない項目が出た場合は、電子商取引に関するタスクフォースもしくは然るべき委員会において引き続き検討を行なっていくべきである。
知的財産を化体した商品及びサービスが世界貿易に占める割合が急増するなか、途上国における知的財産権保護制度の整備は、健全な貿易秩序を維持する上で急務である。途上国がTRIPSの経過期間を遵守することを強く求める。先進国に対しては、途上国の制度の整備を支援するために、関連法制および執行体制、国民への啓蒙・教育に関する支援を強化することが必要である。また、WTO加盟申請国に対しても、加盟後の円滑なTRIPSの実施を実現するために、同様のキャパシティ・ビルディングを積極的に行っていくことが望ましい。
特許については、透明で安定的な国際ルールが不可欠である。先願主義 #17 の国際ルール化、早期公開制度の導入等、WTOはWIPOと協力しつつ特許制度の国際的調和に努めていくべきである。
貿易円滑化に関する基本的ルールの策定作業の開始について加盟国が合意することを強く望む。このルールは、ビジネス界の貿易関係手続きに関する負担を軽減すること及び各国政府の行政効率を向上させることを目的とし、税関手続きを含む貿易手続きを幅広く対象とし、関連するGATT/WTO協定に含まれる透明性、正当性、予見可能性、最小規制、無差別等の基本原則に基づいたものとすべきである。ルール策定にあたっては、他の国際釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就斡崖卸害球干傑臆憾感恩慨玩⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩も参考としていくべきである。
ビジネス界にとって意味のある貿易円滑化を実現するためには、途上国の制度や環境の整備が不可欠であることから、ルール策定作業とキャパシティ・ビルディングをパッケージにして行なうことを求める。具体的には、UNCTAD、世銀、IMF、WCO(世界税関機構)等の国際機関との協調による実施のための技術支援プログラムを開発することが有益と考える。また、先進国に対しては、途上国の通関手続き、関税還付制度の簡素化と期間短縮、IT化の促進等について二国間もしくは地域レベルで積極的に技術協力を行なっていくことが奨励されるべきである。
WTO協定と貿易措置を含む多国間環境協定 #18 の整合性について引き続き議論を行なうべきである。国際的にコンセンサスを得た多国間環境協定(モントリオール議定書、バーゼル条約、ワシントン条約等)に基づいた貿易制限措置については、WTO上も認められるものと理解している。
競争制限的行為や競争法域外適用の乱用を防止するための競争政策に関する基本的規律を検討すべきである。但し、競争法が整備されていない途上国が加盟国に多いことから、検討は慎重に行なうべきである。また、競争法の整備に関して、途上国に対するキャパシティ・ビルディングを行なっていく必要がある。
通商規制措置が持つ競争制限的側面についても検討することが望ましい。
政府調達協定の加盟国を拡大すべきである。また、政府調達の透明性に関するルールを整備することも重要である。
労働問題に一義的な責任を負うILOが主体となり議論すべきである。WTOは多角的自由貿易体制の維持・推進を目的とする機関であり、労働問題を扱うにはふさわしい機関ではない。
わが国産業界は、先進国だけでなく、途上国(とりわけ後発開発途上国)、市場経済移行国等、WTOを構成する全ての加盟国が釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就臼概蚊概究輝恰桶灸⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩を享受できるようなバランスの取れた新ラウンドの実現に向け、関係各国が協力していくことを強く希望する。また、わが国産業界としても、その実現に向けて鋭意、協力していく意思を表明するものである。