経済取引の多様化や複雑化、企業活動や資本市場のグローバル化に伴い、国際会計基準を中心とした会計制度の大変革が進んでいる。
わが国の会計制度も、一連の改革により、既に国際的に遜色ないレベルに達しており、残された主要課題についてもすでに検討が行われている。しかし、日本企業の作成した英文財務諸表に特別な警句が付される、いわゆるレジェンド問題に見られる通り、未だ国際的な理解を十分に得られていない状況にある。
会計基準設定の枠組みの強化を図ることにより、対外的な情報発信機能を拡充すべきである。同時に、国際的な会計基準の潮流に従うだけでなく、わが国としての考え方を形成して国際的な議論への反映に努める必要がある。
企業の財務情報は、投資家の判断情報であると同時に企業経営を遂行する上での重要なツールである。全面的な時価会計のような比較可能性を重視した会計基準整備が進められているが、企業の経営実態は様々であり、画一的な会計処理をしようとすれば、却って企業実態が反映できなくなる惧れがある。また、企業実態を継続して適切に表示するためには、基準の運用や監査上の判断の安定性が不可欠である。会計制度の改革には、比較可能性と企業実態の表示のバランスを図るべきである。
なお、会計制度の整備により、開示に対する責任が一層重くなっていることを企業として認識することが重要である。
持合解消の進展に見られる通り、会計基準の変更が、経済実態に大きな影響を及ぼす面があり、基準の検討段階から、その内容について正確な広報に努める必要がある。
また、会計基準の複雑化、専門化に伴い、新基準の実務指針公表から適用開始までの十分な準備期間を置くことが一層重要となっている。
以上の基本的認識から、下記の諸点について会計制度の改革を求める。
証券取引法、商法、税法はそれぞれの制度目的が異なり、種々の改定を経てその相違が広がりつつある。このいわゆるトライアングル体制については以下の整理が必要である。
証券取引法と商法の関係
証券取引法、商法と税法との関係
税法基準により規定されている会計慣行の見直しを進める。同時に法人税法上の損金経理要件の見直しを検討する。
近年、決算発表の早期化や開示内容の充実によって実務負担が著しく増加している。また、海外での上場など、わが国企業が資金調達の国際化を進める上で開示制度に関わる課題もある。6月より段階的に実施される電子開示は効率化の観点から評価できるが、その他の対策として以下の諸点を求める。
決算短信の開示内容
投資家の要請に応える決算発表の早期化を進めるため、決算短信における開示項目の簡素化を行なう。また、予測情報の廃止と四半期開示のあり方を検討する。
国際的な二重開示の回避
投資家の混乱を回避し、企業経理実務の利便性の観点から、国際的な二重開示を回避するため、米国基準や国際会計基準(IAS)などで作成された財務諸表を国内で容認することを制度化する。
開示制度間の国際的整合性の確保
証券監督者国際機構(IOSCO)において、規制当局間の相互協力体制を強化し、IASと各国会計基準の整合性確保とともに、開示制度における国際的整合性の確保に努める。
2000年6月に公認会計士審査会は、監査の質の向上や公認会計士試験制度の見直しに関する報告書をとりまとめており、以下の主要項目の早期実現を求める。
監査の質の向上
監査の質の向上と独立性確保の観点から、会計士法における使命の明記、会計士の継続的専門研修制度の義務付け、資格登録の更新制、関与社員の交替の義務付けなどの方策を講ずる。また、監査役との連携強化などにより監査の効率性を一層向上させるべきである。
公認会計士人口の拡大
わが国の会計士人口は約1万3千人であるが、監査の対象の拡大や監査以外の会計専門家としてのニーズも増大しており、資本市場のインフラ整備の観点から大幅な会計士人口の増大を求める。
固定資産の減損会計の基準整備について、以下の諸点を求める。
減損の兆候
減損の兆候を判定する際の対象は、資産の使用方法の著しい変更や事業からの撤退など明確に回収可能性が低下した場合に限定すべきであり、個々の資産価値が著しく下落したことのみをもって減損の対象とすべきではない。
減損を判断する単位
減損の判断をする単位(グルーピング)については、連結経営などの企業実態を踏まえたものとする。
回収可能価額の評価方法
資産の回収可能価額を適正に見積るための評価手法については、算定コストや実行可能性に配慮しつつ、公正価値の定義を含め、ガイドラインとなる基本的な評価方法を整備する。
投資不動産の時価会計
固定資産は、有価証券のように誰が保有しても同じ価値で容易に換金することはできない。国際会計基準に見られるような投資不動産への時価会計の導入は時期尚早である。
導入時期
実務への混乱を引き起こさないために、制度について周知徹底する必要があり、基準策定から実務への適用までに十分な準備期間を置くべきである。
企業組織再編が進展する中、わが国の再編の実態に応じた基準の検討を進めていく必要がある。
検討にあたっては、対等合併などプーリング法の適用が妥当であるケースが多いと言われるわが国の企業再編例を詳細に分析し、パーチェス法を適用すべき事例の明確化を行なう。また、連結と個別の処理のあり方や共通支配にある企業組織再編の扱いについても検討が必要である。
わが国の監査基準にはゴーイング・コンサーン監査に関する基準が欠如しているため国際的な信頼が低いとの指摘がある。しかし、現行制度においても企業の継続性に疑念がある場合、監査人が注意喚起を行うことは可能であり、ゴーイング・コンサーン監査については、現行実務をベースに基準化する方向で進めるべきである。
現在、税務上の規定を中心として行われている減価償却の会計処理について、固定資産の利用状況を適切に反映する会計基準を整備する。
今通常国会で予定されている企業年金制度改革により、厚生年金基金の代行部分の返上など制度変更が可能となることから、実務指針の見直しや注記のあり方など、これらの会計上の取扱いについて早急に明確化すべきである。
金融資産・負債に対する全面的な時価会計導入に向けた理論的検討が国際的に進められているが、投資家をはじめとする財務諸表利用者のニーズや経営成績を表示するという損益計算書の本来の目的を踏まえれば問題点が多い。「時価会計が常に正しい」という認識から脱却し、全面時価会計の検討を進めているJWG(ジョイント・ワーキング・グループ)への対応も含め、十分な議論を尽くすべきである。
ストック・オプションを公正価値で評価し、費用認識する会計処理については、ベンチャー企業の収益を圧迫する等、本来のストックオプション制度活用の妨げになる惧れがあり、賛成できない。
上記のような会計制度の総合的改革を進め、国際的な発言力を強化し、適切な評価を得るためには、民間を主体とした常設の会計基準設定主体の設置と国際会計基準委員会への参画が不可欠である。
現在、企業会計審議会により策定されている会計基準ならびに公認会計士協会により策定されている実務指針について、市場関係者が広く参加し、経済実態に合致した基準作りが可能となるよう、円滑な移行が望まれる。