昨年12月に与党の税制改正大綱がとりまとめられ、企業年金法(仮称)の税制措置が明らかになった。これを受け、現在、政府において、法案の立案作業が行なわれているが、その際には、新制度の円滑な実施によって企業年金の充実を図る観点から、以下の点に十分配慮されたい。
企業年金法(仮称)の施行後、速やかに厚生年金基金の代行部分返上を可能とする。返還金額は、解散時と同様の最低責任準備金とする。代行返上に伴う市場への影響を最小限にとどめるため、企業年金契約を分割し、代行部分の契約の相手方を基金から国または年金資金運用基金とする方法や、現物による返還を認める。その際、返還先となる年金資金運用基金と基金のポートフォリオ調整が必要であれば、早期に調整を開始できるよう、年金資金運用基金の運用方針を具体的に示すべきである。
また、当分の間、返上後も厚生年金基金側が厚生年金の裁定業務を行なう等、柔軟な対応をとる必要がある。
適格退職年金からの円滑な移行を可能とするため、既実施の制度内容を認めるとともに、財政検証、財政再計算について、一定の期間簡易な基準を適用する等、十分な経過措置を講じる。
企業年金税制については、受給時課税の原則に沿って、公的年金等控除の縮減と併せて特別法人税を廃止すべきである。特別法人税の撤廃が実現しなければ、適格退職年金からの移行期間の延長を要望する。
受給権保護は、継続基準・非継続基準に基づく財政検証等を実施することで十分図られる。モラルハザードを惹起する支払保証制度は将来にわたって導入すべきではない。
支給事由、支給開始年齢の弾力化
従業員のライフスタイルの多様化に対応するため、60歳以下の年齢で退職した従業員に対しても、退職を支給事由として支給開始を前倒しできるようにする。また、厚生年金基金の設立認可基準にあるように、受給資格期間を満たす従業員の内の80%以上が該当すれば、一定の年齢以降の退職を支給事由として定められるようにする。
給付の基準
年金給付及び一時金の額の算定方法については、給与比例制度、定額制度、ポイント制度によるほか、例えば、一定の指標利率に応じて給付金額が決定する制度など、労使合意に基づく自由かつ柔軟な設計を可能とする。
掛金
予定利率、給付利率や掛金の計算方法などは、労使合意に基づき自由に行なえるようにする。また、年金財政の健全化を促す観点から「特例掛金」を認め、損金算入を認める。従業員拠出については、簡易な方法で本人の同意を取得できるような仕組みを設ける。
加入者資格、給付の基準の弾力化
確定拠出年金制度と同様、加入者資格、給付の基準に関し、事業所ごと、職種ごとに異なる制度設計を行なうことを可能とする。不当な差別的取扱いに当たる事例については、具体的に限定列挙し、労使の選択の幅を必要以上に狭めることのないようにする。
年金規約に関する主務大臣の承認、基金の設立認可の基準を明確化し、基準を満たせば承認・認可が得られるようにする。また、現行適格退職年金制度で行なわれている自主審査方式を活用する。
主務大臣への報告については、受託機関による代理を認める等、簡素化を図る。
財政検証
財政検証の具体的な手法については、厚生年金基金のガイドラインを基本とするが、積立基準については、賃金制度の多様化が進む中で、将来の昇給分を含める必要はない。併せて、適格退職年金からの移行に関し、具体的な基準を早期に公表し、所要の経過措置を講じることにより、新制度に円滑に移行できるようにする。
財政再計算
財政再計算については、一定のルールのもとでコンピュータ等による機械的な計算に基づく確認システムを大幅に採り入れ、迅速かつ大量の処理が可能となるようにする。
積立不足の解消等
企業年金法(仮称)の目的が受給権保護の強化にあることに鑑み、単年度償却等の柔軟な償却方法を認め、年金財政の健全化を促進する。
受託者責任
資産運用機関の受託者責任のあり方を早期に明確にする。
情報開示
事業主から従業員への情報開示については、電子媒体の活用など簡易な情報提供方法を認める。
離職した従業員が年金資産を転職先の企業年金、または確定拠出年金に移管できるよう、ポータビリティ確保のための仕組みを整備する。
企業年金制度間の移行または制度内での移行に当たっては、現行の適格退職年金制度から厚生年金基金制度への移行の場合と同様、既受給者の年金資産や、積立不足を含めて移換できるよう、具体的なルールを策定し、公表する。
一定の手続に基づく労使合意があり、予め定められた要件を満たしていれば、主務大臣の承認が得られ、企業年金制度を終了できるようにする。
米国の「マスタートラスト」の仕組みを導入可能とし、基金または事業主がマスタートラスティと直接契約を締結できるようにする。