現中期防衛力整備計画(平成8年度〜12年度)は、冷戦終焉以降のより不透明・不確実な安全保障環境に直面する中で策定された。その後、世界的に地域紛争やテロ等が多発し、わが国でも、北朝鮮によるテポドン・ミサイルの発射、不審船事件等が発生し、正規戦争以外の危機が顕在化するなど、その対応能力の必要性が強く認識されるようになっている。
米国においては、このような危機に対応し、IT分野の技術革新等がもたらす軍事革命(RMA)を活用し、将来の統合作戦能力の向上を通じて軍事的優位を確保する検討や弾道ミサイル防衛の配備に向けた検討が進んでいる。
わが国においても、次期中期防において、新たな状況に対応した防衛力整備という観点から、国民の安全と安心を確保するための危機管理の一環として防衛力を位置づけ、基盤的防衛力整備に加え、ITを活用した統合された情報共有基盤の構築、弾道ミサイルに対する防衛対処能力、国際平和協力対処能力、緊急時の即応対処能力等の向上に取り組むことが想定される。
わが国の防衛技術基盤を見ると、これまでの絶えざる高度な防衛基盤技術の研究と、それらをベースとした装備品開発実績の積み重ねによって、わが国の防衛産業は、運用上の要求があり、適切な投資がなされるならば、必要とされる装備品を国産開発できる十分な能力を有している。
一方、諸外国からの防衛技術の導入については、民生技術、基礎技術、要素技術については可能であっても、航空機、航空機エンジン、誘導武器等の核心部分、最先端の防衛技術の入手が困難になりつつある。
なお、防衛技術基盤を維持・強化することは、以下の点から重要である。
下方修正後の現中期防の正面装備調達は、前々中期防に比べ約30%の減という厳しい水準にあり、また、取得改革におけるコスト低減目標前倒し(3年間で10%)、歳出化経費の繰り延べは企業にとって大きな負担となっている。防衛関係各社は生産の合理化や民需展開により下支えをし、生産基盤を維持してきている。
今後、防衛装備品のより競争的な調達環境の中で、企業自らも努力し、より効率的な産業基盤を構築していくべきであるが、調達側においても、防衛装備品の特殊性に留意の上、企業努力の反映される調達制度の整備等が必要である。
防衛予算の削減の中で、欧米ではここ数年、防衛企業の統合・再編が進められてきた。最近は、米国防衛企業と欧州企業の提携に向けた動きも見られ、防衛装備品の国際的な共同研究や開発が増えていくと考えられる。
わが国防衛関連企業も、そのような世界の動きから孤立して技術基盤を維持していくことは困難であり、技術基盤の強化に努める一方、米国防衛企業等との提携(包括提携、試験・要素研究)や共同開発、国内における同様の提携等も視野に入れる必要がある。
次期中期防においては、新たな安全保障環境に対応する上で、防衛技術基盤の重点的強化の必要性を明記することが重要である。その上で、技術レベルの現状と国防上の観点から、重点的に国産化すべき防衛装備・技術の方向性を示し、新装備構想によるプロジェクトの立ち上げと研究開発予算の拡充に反映していくことが望まれる。
装備国産化の明確なビジョンが示されることにより、企業は自社投資における指針を得ることができ、そのような分野への集中的投資を通じ、より技術基盤を強化することができる。
ITによる情報共有基盤の構築
新たな脅威に対応し、わが国の危機管理能力を高めるために、緊急時の即応対処能力、情報収集機能と情報セキュリティの強化、陸海空の防衛力統合運用に向けたITによる情報共有基盤の構築が推進されることが重要である。その際、防衛予算という枠組みに留まらず、政府全体の危機管理体制の整備という観点から予算等を確保し、整備を推進することが重要である。
安全保障上重要な大型のシステム開発への重点的取組み
わが国の運用要求に合った基盤的防衛力の整備に資する大型のシステム開発、弾道ミサイル等の新たな脅威に対する防衛対処能力の整備等の推進が望まれる。
大型開発である航空機やIT革命を主導する通信・電子分野での大型システム開発は、わが国の防衛技術レベルを維持・向上させるのみならず、民間への技術波及効果が大きい。
技術実証プロジェクトの推進
技術進歩のすう勢に対応し先端的技術の確立に資するため、その技術を適用したプロトタイプを試作する技術実証プロジェクトの推進が望まれる。
生産基盤の維持
防衛部門から民需部門への転換を図った場合、防衛部門への再転換は困難であり、運用上必要な装備の整備・補給基盤、防衛装備品の特殊性等に配慮し、コスト低減と透明性の確保向上に努めつつ、安定的調達を行う必要がある。
取得・調達改革等
取得改革のコスト低減目標達成のためには、民生品の採用を含む装備品の性能要求や仕様の見直しを官側が主体的に推進していくことが必要である。
また、調達改革においても、透明性、公正性の確保に配慮しつつ、確定契約化の推進などの契約関連業務の簡素化、企業の自主的なコスト低減努力を促す実効あるインセンティブ制度運用、及び歳出化経費の繰り延べの早期解消等が求められる。
国内生産・技術基盤を維持しつつ、国際的な共同開発・生産の動きにも対応していくため、輸出管理政策、知的所有権の保護等につき、共同研究開発・生産を円滑にできる環境を整備すべきである。