地上テレビジョン放送は国民に広く普及している基幹的メディアであり、そのデジタル化は多彩な国民生活を実現する可能性を秘めている。例えば、高品質で利便性に富んだ放送サービスや、高齢者・障害者に優しいサービスの提供が可能となろう。また、通信ネットワークとの連携を通じて、家庭の情報インフラとして、家庭に居ながらデジタルコンテンツや金融等の電子商取引に広く活用され、さらに地域間の情報格差をも是正しうる。
デジタルテレビ受像機は、家庭内ネットワークと社会とのネットワークを結ぶゲートウェイの機能を果たすことができ、各種情報家電を含め、新規需要を喚起することが期待される。因みに、地上放送のデジタル化により、今後10年間に放送インフラ設備ならびに受信機関連市場だけで40兆円にのぼる経済波及効果をもつとの試算もある。
また、アナログ放送に比べて周波数の効率的な利用が可能となることから、国民のニーズが高まっている移動体通信はじめ様々な用途に電波を有効に活用することが可能となる。
このような意義の大きい地上放送のデジタル化については、従来から国策として検討がなされている。経団連では、地上放送のデジタル化を円滑に進める観点から以下を提言する。
地上放送のデジタル化には、民間放送事業者、NHK合わせて約1兆円程度の費用を要するとの試算がある。基幹的放送である地上放送の使命をふまえ、次の視点から地上放送のデジタル化を進めていく必要がある。
地上放送のデジタル化の意義は国民の利便性の向上にある。国民に無用な負担を課したり、国民の視聴に悪影響を及ぼすことがあってはならない。
民間が自己責任原則に則ってデジタル化に取り組むことが基本であり、政府においては、民間だけでは解決できない問題への対応をはじめ、環境整備を行う必要がある。
地上放送のデジタル化に際しては、国民の財産である周波数の有効活用につなげていく必要がある。デジタル化により余裕の生じた電波については、国民のニーズの強い分野に優先的に割り当てていくべきである。
地上デジタル放送の早期普及のためには、視聴者利便の向上、受信機価格の低廉化が不可欠である。そうした観点からも、官民の関係者において、BS、CS、地上波全てのデジタル放送に対応できる受信機の共用化を進めていくことが期待される。
地上デジタル放送については、少子高齢化の進展に対応し、高齢者、障害者の自立や社会参加をサポートする機能が期待されている。官民が協力して、高齢者・障害者が使いやすい技術、機器の開発や視聴覚障害者向けコンテンツの充実などを図るべきである。
地上テレビジョン放送のデジタル化が完了し、現在のアナログ放送を停波すればVHF帯、UHF帯の周波数の一部が空くことになる。これら周波数については、IMT−2000の導入等により周波数の逼迫が一層深刻化すると予想される移動体通信、あるいは国民に広く普及している音声放送のデジタル化をはじめ様々な分野での利用が可能となる。アナログ放送の終了に伴い使用可能となる周波数については、国民のニーズの強い分野を中心に周波数の分配、有効活用を図る必要がある。
わが国は、周波数事情が英米に比べてはるかに逼迫している。そのため、地上デジタル放送用の周波数を国の方で予め確保できず、一部の地域では、現在アナログ放送で使用している周波数を別のアナログ周波数に一旦変更することが不可避となっている。このアナログ周波数の変更は、地上放送のデジタル化により使用可能となる周波数について、国民のニーズ等をふまえて再分配するという周波数政策上取り組まざるをえない課題である。
その際、テレビジョン放送の視聴が中断される事態を防ぐという視聴者保護の観点からは、新しいアナログ周波数に合せて放送局側の設備等の交換・調整、受信者側のアンテナの交換・調整等を行なうアナログ周波数の変更対策が必要となる。この点は、デジタル化を進めている英米等にはない、わが国固有の隘路である。今後、世界に後れをとることなく、円滑に地上放送のデジタル化を進めるため、アナログ周波数の変更対策に要する経費については、政府による支援措置を講ずるべきである。
地上テレビジョン放送のデジタル化に当たっては、放送事業者が、全国的なデジタル化に取り組むに際して、経営の選択の幅を持てるよう、放送対象地域の見直し、マスメディア集中排除原則の見直しを含め、制度的な諸課題について検討を進めていく必要がある。
なお、デジタルコンテンツの著作権処理の円滑化に向けて、ネットワーク時代にふさわしい仕組みづくりも重要である。