[経団連] [意見書]

新たな貿易保険制度に対するわれわれの考え

2000年8月8日
(社)経済団体連合会

経団連では、かねてより貿易保険の重要性に鑑み、財政基盤の強化、制度・運用の改善など貿易保険の拡充ならびに透明で機動的な運営につき、適宜、わが国政府・関係当局へ要望を行い、その実現に向け努力してきた。直近では、98年1月に発表した政策提言「開発途上国における民活インフラ事業の推進に向けて」の中で民活インフラに対応した効率的な貿易保険の構築および機能の充実に加え、貿易保険制度の独立行政法人化を提言したところである。
この度、われわれの要望が実現し、「独立行政法人 日本貿易保険」が2001年4月に発足する。実務面でのサービスの向上、効率化を求めるわれわれとして、新法人が非公務員型であり、かつ本省内部からの切り出し型である点を評価するとともに、貿易保険が新しい体制となるこの機会を捉え、改めて以下のとおり提言する。

1.求められる貿易保険のあり方
  • 対外経済活動の促進
  • 対外経済政策を具現化するための戦略的手段
  • 業務の簡素化・効率化とサービスの向上
  • 経営の中核に民間人の登用

2.国際競争力のあるサービス提供を目指した業務の改善
  • 欧米貿易保険機関並みの引受条件の提供
    (政府保証なしの中長期案件における信用危険の積極的な引受、てん補率の引上げなど)
  • 国際協力銀行と密接な情報交換、業務における連携
  • 事務の効率化による利用者負担の軽減
    (保険料体系・エビデンスの簡素化、保険支払いの迅速化)
  • 財政基盤の確立

3.効率的なサービス提供を行う体制の構築
  • 新法人と経済産業省の政策面における緊密な連携
  • 新法人の職員の専門性の向上
  • 民間経済界との人事交流ならびに民間人の登用
  • 貿易保険関係機関の業務の見直し、新法人への統合

  1. 求められる貿易保険のあり方
  2. 昨今のアジアの経済危機にみられたように、国際金融情勢ならびにビジネス環境の大きな変化により、民間では引受け困難な貿易および投資リスクが増大している。
    周知のとおり、わが国貿易保険制度は貿易一般保険、海外投資保険、海外事業資金貸付保険などの7種類で構成され、わが国企業が外国との貿易や投融資を行う際に生じるリスクの内、民間では負担し難いリスク(非常危険、信用危険)をカバーすることによって、対外経済活動を促進させる役割を担っている。同時に、貿易保険はわが国の対外経済政策を具現化するための戦略的手段であり、先のアジア危機における貿易保険を通じたわが国の支援は内外の高い評価を得ている。
    かかる貿易保険の実務を担う「独立行政法人 日本貿易保険」には、業務の透明化と責任の明確化によって、より良い行政サービスを提供するという独立行政法人化の趣旨に鑑み、まず利用者に対するサービス向上を図ることを期待する。
    更に新法人に求められることは、制度ならびに業務の簡素化・効率化を図るとともに、利用者のニーズに迅速かつ柔軟に対応し、国際競争力のあるサービスを提供することである。新法人がこのような要請に徴して運営されていくためには、経営の中核を担う人材を民間経済界から登用することを考える必要がある。


  3. 国際競争力のあるサービス提供を目指した業務の改善
  4. わが国貿易保険が国際競争力のあるサービスの提供を行うためには、昨秋の貿易保険法の改正に基づく制度改善7項目(債券取得への付保の簡素化、保険事故となる期間の短縮、海外投資保険の保険金査定の簡素化、海外投資保険の事故事由の追加、仲介取引に係る船積前の危険への付保の追加、独立行政法人が自ら回収する制度の導入など)を着実に実施していくことに加え、以下の点につき貿易保険制度ならびに業務の改善を図るよう求めたい。
    第1に、わが国企業が国際的なビジネスを展開する上で欧米企業にイコール・フッティングで競争に臨めるよう、欧米貿易保険機関並みの引受条件を提供することを期待する。具体的には、経済産業省の再保険引受を担保とし、民間企業が途上国で実施する中長期案件に対し政府保証なしの信用危険を積極的に引受けるとともに、てん補率の引上げを望むものである。これに関連して、引受基準を明確化し、また審査機能を強化することによって市場の動向に対応した引受審査の迅速化を図るよう求める。
    第2に、新法人は、国際協力銀行と密接な情報交換、業務における連携を図り、わが国における輸出信用制度の実務機関が一体となって、わが国企業の国際的なビジネス展開を支援するよう要望する。
    第3に、手続きの簡素化、システムの電子化等を行うことによって、事務の効率化を図り、利用者の負担が軽減されるよう望む。引受においては、複雑な保険料体系を簡素化し、リスクに応じた保険料体系を構築すべきである。更に、保険事故の査定および債権の回収においては、エビデンスの簡素化、保険金支払いの迅速化等が早急に図られるよう望む。
    なお、貿易保険事業の独立行政法人化に伴い、貿易保険の引受が縮小することのないよう、新たな貿易保険制度全体として確固たる財政基盤を確立することを期待する。


  5. 効率的なサービス提供を行う体制の構築
  6. 貿易保険事業の実施に当たっては、効率的なサービス提供実現のため、新法人の自主性が保たれるよう配慮すべきである。同時に、途上国の開発促進に対するわが国の対外経済政策上の判断が十分なされるよう、新法人と経済産業省は政策面において緊密な連携を図るよう求める。
    組織に関しては、新法人が既述のごとく経営の中核を担う人材を民間から登用することのみならず、利用者のニーズに迅速に対応し国際競争力のあるサービスを効率的に提供していくため、職員の専門性の向上を図るべきである。特に、多様なニーズに応じた引受けを積極的に行っていくためには、案件のリスク分析、海外バイヤーの信用調査、ならびに引受審査等において高度な知見を有する専門家を早急に確保することが不可欠である。従って、これら分野において経験豊かな人材の多い民間経済界との人事交流ならびに民間人の登用を積極的に実施するよう要望する。
    また、行政改革の観点から貿易保険体制をスリム化、効率化していくためには、これまで貿易保険に関わる業務委託等を手がけてきた関係機関の業務を見直し、新法人への統合を検討していく必要があろう。

以 上

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