インターネットの普及などを背景として、「IT革命」とも呼びうる変革が進行している。ITの積極的な活用により、産業競争力の強化、新産業・新事業の拡大、雇用機会の増大、国民生活の質的向上、地域の活性化を図っていく必要があるが、情報ネットワークなどの高度利用面で、わが国は米国に大きく水をあけられている。最近、バーチャル・エージェンシー、ミレニアム・プロジェクトなど、情報通信の利用面の環境整備や技術開発の推進への取り組みが強化されつつあるが、それと同時に情報通信サービスの供給構造についても、公正な競争を通じて利用者ニーズが敏感に反映され、技術革新に迅速に対応できる仕組みに改革することが重要である。
IP(インターネット・プロトコル)ネットワーク上で多様なアプリケーションが稼動することが可能になり、情報通信ネットワークの社会インフラとしての役割はますます重要になっている。ところが、情報通信サービスを利用する企業からは、料金の低廉化やサービスの多様化を含め様々な課題が提起されている。インターネットをはじめ情報通信への潜在的なニーズは大きく、利便性の向上が実現すれば、新産業などの爆発的発展が期待でき、今や需要拡大の臨界点にあると言える。
デジタル技術等の技術革新を背景に、情報伝送路や端末などが一体化し、通信と放送とが融合したサービスが既に出現しており、今後この動きは一層加速されよう。しかし、通信と放送の区分が不分明で、通信・放送毎に別々の行政手続が必要になるなど、制度面での対応が遅れている。
利用者ニーズに対応するため、事業者がサービス面で創意工夫を図り、国民・企業が低廉・多彩な情報通信サービスを享受できるよう、今後本格化が予想される市場競争下でのルールを整備するとともに、利用者利益を重視した透明な行政を確立することが重要である。また、行政は、事業者の海外展開が可能となるよう、諸外国に外資規制の撤廃などを働きかける必要がある。
インターネット時代、通信と放送の融合時代に対応し、利用者利益の増大を図るため、現行の各種情報通信関連法を公正競争ルールに基づいた総合的な「新情報通信法」に、吸収、整理することが望まれる。「新情報通信法」の整備に向けた国民的コンセンサスを得るため、広く検討の場を設けるべきである。
今後は、事業者に事前規制を課す「事業規制法」の体系ではなく、競争を通じて利用者利益の増大を図る「競争促進法」の体系を整備する必要がある。とくに新法においては、目的として、利用者利益の確保とそのための自由かつ公正な競争の確保とを明確に掲げるとともに、有効競争の維持・促進を行政の責務とする必要がある。また、技術革新や市場の変化などに柔軟に対応できるよう、定期的見直し条項を盛り込むべきである。
通信・放送の融合の進展に対応して、情報伝送路、コンテンツを自由に組み合わせたサービス提供を可能とする、通信・放送を総合的にとらえた法制度の整備が必要である。情報伝送路は通信・放送共通の制度的枠組みとし、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねることが望ましい。ただし、基幹的放送については、当面、現行の仕組みを維持することが妥当である。また、地上波放送については、多様な事業展開が可能となるよう、マスメディア集中排除原則の見直し等を検討する必要がある。
安定的、効率的なソフト流通や既存ソフトの有効活用を通じて利用者の利便性向上と市場の拡大が実現するよう、ネットワーク社会に相応しい著作権処理ルールを確立することが望ましい。
自由かつ公正な競争環境を実現するため、情報通信インフラに関する制度的枠組みは、競争の状況に着目して規制を切り分ける体系とし、反競争的行為の防止等に必要な仕組みを整備すべきである。機動的な事業展開が可能となるよう、現行の接続協定認可制度、契約約款認可制度、役務種類変更許可制度などは廃止し、事後チェック型の仕組みを設けるべきである。
一方、競争が長期にわたって進展しない市場については、基本的に小売料金の上限価格規制や接続ルールを維持する必要がある。通信市場に対して大きな影響力を持つ事業者に対する規制は、競争の進展に応じて緩和すべきである。
なお、NTTが自己責任原則に則って経営できるようにするため、NTT法についても、公正な競争の実現・維持に必要な事項等を新情報通信法に吸収することにより、廃止する必要がある。
事業者が自らの経営戦略に基づいて設備設置・リセール・アンバンドルの組み合わせを自由に選択できるようにするとともに、設備を設置する場合には、柔軟にネットワーク構築できる権利を取得する一方、相互接続義務などを負うものとすべきである。さらに、設備設置の促進などに向けて、道路占用規制の緩和や、管路・とう道などの空き情報の開示に関する自主的ルールづくり、電波行政の改革などを行なう必要がある。
公正競争促進の観点から、反競争的行為を防止するため、関係省庁と公正取引委員会とが連携して指針を作成するなど、省庁の垣根を越えた取り組みが望まれる。
今後、料金・サービスをめぐる問題や政策の見直しを行政に求める場合が増加することが予想される。行政においては、中立的な立場から市場における競争状況を監視すると同時に、事業者間の紛争などに関する公正・適切な裁定等が期待される。例えば、国民・企業・事業者が、行政に対して既存の制度・政策の改革なども直接要望できる「ペティション(請願)」制度を創設するとともに、迅速な紛争解決の仕組みを整備すべきである。
行政は国民・事業者に対する説明責任を確実に果たす必要がある。行政の意思決定にあたっては、原則として事前の原案公表、パブリックコメントを義務づける必要がある。今後、審議会などの会合の公開・詳細な議事録、資料の電子公開など、行政の意思決定過程を透明にすべきである。
情報通信ビジネスの発展に最も重要な方策は、高度情報通信ネットワーク社会のベースとなる情報通信インフラについて、事業者の自由で公正な競争を可能とする環境整備を行なうことである。事業者や行政当局は、利用者利益の観点から、各国の模範となる取り組みを行なう必要がある。本提言で示した改革の方向等について、広く国民的に議論する場を設けることを期待したい。経団連としては、情報通信技術に関する国際競争力確保の方策を含め、情報通信市場の活性化に向けて更に検討を深めていく。