98年6月施行の中央省庁等改革基本法に定められた財政投融資制度改革は、「入口」(郵便貯金、簡易生命保険、年金等)と「中間」(資金運用部)及び「入口」と「出口」(特殊法人等)との間に、市場メカニズムを導入することをもって、財政投融資のスリム化を図るものである。
既に年金積立金の自主運用等について定める年金改革法案が審議中であり、また、郵便貯金・年金積立金の預託義務の廃止、財政融資資金特別会計(仮称)における債券の発行等について定める資金運用部資金法等改正法案、郵便貯金資金の自主運用等について定める郵便貯金法等改正法案(仮称)の提出準備が進められている。
今次改革は、入口から出口に至る財政投融資の抜本的改革に向けた重要な第一歩である。今次改革により、郵便貯金・年金積立金の預託増加に伴って、財政投融資がいわば自動的に肥大化する事態は解消され、財政負担の先送りや隠れ借金等の問題を生んできた財政規律の弛緩は改善することが期待される。
反面、郵便貯金が、調達・運用両面において自律性を高めることになり、金融システム改革が進展する中で、簡易生命保険とともに、官業としての役割が改めて問われることとなる。同時に、年金積立金の運用も含め、巨額の公的資金の運用に伴う市場撹乱の回避やリスク管理が重要な課題となる。
また、特殊法人等による財投機関債の発行は、財投債・政府保証債の発行規模の縮減、特殊法人等の財務内容に対する市場評価の明示化につながることが期待される。しかし、「市場の失敗」を是正する役割を担う特殊法人等を、市場メカニズムで規律することには限界があり、特殊法人等の改革は、引き続き不断の見直しと最終的には政治の決断により推進していく必要がある。
今次改革は、中央省庁等改革の一環であり、関連法案の速やかな取りまとめと成立が望まれる。その上で、今次改革を実効あるものとする観点から、特に以下の課題への取り組みを要望する。
郵便貯金・簡易生命保険積立金・年金積立金の自主運用については、(1)市場の価格変動を惹起しない、(2)民間企業の経営に影響力を及ぼさない等の基本方針を確立する必要がある。そのような観点から、債券の直接引受け、株式・株式関連商品への直接運用を禁止するとともに、各種債券・株式等の運用割合(各種債券・株式等の資産構成割合、同一法人の債券・株式の発行残高に対する保有割合等)について明確な定めを設けるべきである。
特に株式の委託運用については、(1)国は個別銘柄の選択は行わない、(2)議決権の行使は、国が運用方針を明示することを前提に、民間運用機関の判断に委ねる等の措置が必要であり、その具体的あり方について検討を急ぐ必要がある。
郵便貯金・簡易生命保険積立金・年金積立金については、金融商品の時価評価を含め、企業会計原則に準拠した会計基準を採用するとともに、民間を上回るディスクロージャーを徹底する必要がある。
また、経営責任の所在を明確化するとともに、運用職員が善管注意義務等に違背した場合は、懲戒処分、損害賠償等の責任を問われることを明確にすべきである。
しかし、運用責任をいかに厳格に問うとしても、国営形態のまま運用を行うとすれば、運用リスクを公的に保証することになる。一部賦課方式を採用する年金については措くとして、郵便貯金と簡易生命保険については、中央省庁等改革基本法の定めにもかかわらず、運用状況をはじめ事業運営の実態を見た上で、事業形態の抜本的な見直しの検討が必要であると考えられる。
中央省庁等改革基本法の趣旨を実現するには、引き続き、政治の決断により、特殊法人等の民営化、事業の整理縮小・廃止、独立行政法人化等を強力に推進していく必要がある。
その前提は、経営実態の明確化であり、可能な限り企業会計原則に沿って会計処理の一層の適正化を図る必要がある。また、一般会計及び特別会計からの繰入額及び同累積額、財政投融資による出融資額及び同残高、不良債権総額、累積損失及び繰上償還額等を含めディスクロジャーを徹底すべきである。さらに、特別会計と特殊法人等、特殊法人等と子会社・関連会社・関連公益法人との連結財務諸表の作成・公開が強く望まれる。