常任理事会で講演する田中氏 |
経団連が1日に開催した常任理事会で、日本エネルギー経済研究所の田中伸男特別顧問が、「21世紀のエネルギー安全保障戦略」をテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。
IEA(国際エネルギー機関)が昨年11月に公表した「World Energy Outlook 2011」では、中国とインドを中心とする新興国が世界のエネルギー需要を牽引し続けると示している。2010年から2035年までに世界のエネルギー需要は33%増加すると予想されるが、そのうちの50%を中国とインドが、33%をその他のアジア諸国が占める。
石油の純輸入量は、アメリカは軽質タイトオイルの増加と燃費の改善により、1000万バレルから600万バレルに減少する一方で、中国は1200万バレル、インドは600万バレル以上を輸入するようになる。天然ガスでも、中国の需要は現在の5倍になってヨーロッパ全域と同じ規模になる。
世界の需要増に対応するため、天然ガスと再生可能エネルギーの重要性が増すが、再生可能エネルギーは、資本集約的で高コストであり、原子力は重要なオプションであり続ける。21世紀のエネルギーセキュリティーはアジアをめぐるイシューである。
Outlookでは、低原子力ケースを示した。福島の事故を受けてOECD諸国で原子力発電所の新設がなく、非OECD諸国での新設が予定の半分となると想定している。この場合、コスト増、セキュリティーリスク増、CO2排出増の三重苦になる。日本での原子力発電の割合は、現在30%であるものが、低原子力ケースでは18%まで低下する。日本のガス輸入金額は倍増し、年6兆円に達する。他方、気候変動目標に関しては、90年比25%削減は不可能になる。また原発再稼働がないと、年間3兆円の負担増になる。
21世紀のエネルギー安全保障とは、多様な電源をうまく組み合わせて、持続可能な電力を安定的に供給するという包括的エネルギー安全保障である。その点でEU27カ国は地域全体を連系線やパイプラインでつなぎ、エネルギー自給率を50%に維持している。EUは原子力、再生可能エネルギー、化石燃料を上手に利用しており、日本もこれを見習うべきだ。また、国境を越えて拡大した電力市場は再生可能エネルギーの利用を促進する。さらに、北アフリカの砂漠地帯ともネットワークを構築する壮大な取り組みも進めている。
アジアでも、日本と韓国、中国、ロシア、台湾、ASEAN諸国、インドまで電力網を一体化することを目指す構想もある。ロシアとのガスパイプラインも重要だろう。エネルギーの安全保障のためには、中国、ASEAN諸国、インド、ロシアなどへ多層的に外交を行わなければならない。
日本では今後、安全保障、コスト、地球環境保護の3つの観点から、原子力、再生可能エネルギー、ガス等を含め、最良のエネルギー・ミックスを選ぶべきだ。そして、多様な電力を支えるために、国内の周波数を統一する一方、国外の電力系統とも接続することが重要である。
原子力は、安全性の確保を前提として、世界でも重要な選択肢であり続ける。各国のエネルギー大臣から、「『日本は原子力発電をやめろ』なんて言っていない。福島の事故の教訓を示してほしい。そうすれば、より安全に原子力発電を利用できるようになる」と言われている。原子力に対する国民の理解を得るには、なぜ福島第二や女川、東海第二は事故を免れたのに、福島第一で事故が起きたのかを明らかにして対応策を示さなければならない。