会社法制のあり方をテーマに開かれた 21世紀政策研究所の第86回シンポジウム |
経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は7日、東京・大手町の経団連会館で、第86回シンポジウム「会社法制のあり方−米仏実地調査を踏まえて」を開催した。会社法制については、政府の法制審議会会社法制部会において見直しの議論が行われており、昨年12月には会社法制の見直しに関する中間試案が公表された。その議論のなかでも、特に経済界の注目を集めているのは、企業グループ経営に対して大きな影響を与えかねない多重代表訴訟制度(親会社株主による、完全子会社の取締役等に対する代表訴訟を認める制度)の導入についての議論である。そこで、21世紀政策研究所の会社法制研究会では、今年度は多重代表訴訟制度について、アメリカおよびフランスで実地調査を行うなどして導入の必要性に関し研究に取り組んだ。今回のシンポジウムでは、研究成果を発表するとともに、会社法改正についてパネルディスカッションを行った。
まず、葉玉匡美弁護士(TMI総合法律事務所・21世紀政策研究所研究主幹)が「会社法改正中間試案の多重代表訴訟制度と問題点」と題して、多重代表訴訟制度が国際標準ではないことや子会社取締役は親会社従業員であることが多く、多重代表訴訟制度を導入すると実質的には従業員に対する代表訴訟を認めることになること等を指摘した。
続いて、山田純子・甲南大学法科大学院教授が「アメリカの代表訴訟・多重代表訴訟についての議論」と題して、アメリカの多重代表訴訟は、その多くが日本の会社法改正で議論されている多重代表訴訟とは性質が異なることなどを説明した。さらに、清水円香・立命館大学法学部准教授が「フランスの代表訴訟・多重代表訴訟についての議論」と題して、フランスでは多重代表訴訟が実務上存在しているのか疑わしいといった点を指摘した。
パネルディスカッションでは、葉玉研究主幹をモデレーターとし、大杉謙一・中央大学法科大学院教授、松井秀征・立教大学法学部・法務研究科教授、北川浩・日本電信電話総務部門法務担当部長、小林一郎・三菱商事法務部化学品チームリーダーにより、活発な議論が行われた。パネルディスカッションのテーマは、(1)多重代表訴訟制度(2)子会社少数株主の保護(3)社外取締役の選任の義務付け――等に及んだ。
大杉教授は、代表訴訟に依存し過ぎることなく不正行為を予防する仕組みづくりの重要性等について、松井教授は、多重代表訴訟制度の導入をめぐって意見が対立している要因等について、北川氏は、中間試案のなかで企業実務に特に弊害をもたらす懸念がある点などについて、小林氏は、アメリカ法と比較して、日本法が経営の健全性を確保する手段として取締役の責任追及に頼り過ぎていることなどについて、それぞれ意見を述べた。
シンポジウムでの議論の詳細については、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。