経団連は11月25日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(広崎膨太郎部会長)を開催した。部会では、荒井寿光・東京中小企業投資育成社長(元知的財産戦略推進事務局長)から、今後の知財制度のあり方や企業における知財戦略の重要性について説明を受けるとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
各国で展開される知財訴訟や、自社の知財力を高めるための企業買収など、企業が自らのビジネスモデルを実現するための「知の大競争時代」ともいえる知的資源の争奪戦が行われている。
そうしたなか、企業においては、自社の知財を各国の知財制度がどのように守ってくれるのかということに関心が集まっており、知財制度もサービス産業の一つとして各国の制度間競争にさらされている。わが国においてもこうした観点から、知財制度のあり方について再考が求められている。
わが国の特許制度は従来、「遅く・狭く・弱い」制度であったが、イノベーションを支える基盤として、今後は「早く・広く・強い」制度とすべきである。具体的には、(1)ITや医療産業の発展のため、特許の要件を見直し、広く特許権が認められるようにする(2)権利関係の早期確定のため、ダブルトラック(注1)を廃止する(3)グローバルな権利取得を早期に実現するため、日米が共通案件を協力して審査する「日米共同審査」を導入する――などを提案したい。
一方、企業においても、イノベーション創出の観点から、事業・研究開発・知財の三位一体経営が重要となっている。今後は特許権のみならず営業秘密の保護や商標権・意匠権を含めたブランド戦略など知財戦略の企業内統合を進め、知財の総合力を強化すべきである。
また、国際標準化の視点も重要であり、自社の国際展開を強力に進めるうえでもルールづくりを積極的に行う必要がある。
意見交換では、「日米共同審査」が実現すればわが国の国際的な求心力を高める契機となるとの期待に加え、職務発明制度(特許法第35条)(注2)や特許権に基づく差止請求権の制限についての意見を求める声が、経団連側から出された。
これに対し荒井氏は、「共同審査」について、わが国企業の事業戦略上重要な国々と取り組みを始めることが重要であるとの見解を示した。また、職務発明については、制度としては廃止すべきと考えるが、各社で優秀な技術者を集める工夫は別途必要であると指摘。差止請求権の制限については、一つの製品に何千件もの特許が含まれ得るITの時代となったいま、損害賠償請求権は認めつつも差止請求権は制限される「ソフトIP」制度も検討すべきとの認識が示された。
知的財産委員会企画部会では、イノベーション創出をより促進する知財制度のあり方について、今後検討を深めていく。