講演する久保利弁護士 |
経団連は10月19日、東京・大手前の経団連会館で約400名の参加者を得て、第10回企業倫理トップセミナーを開催した。
開会にあたり米倉弘昌会長(中村芳夫副会長・事務総長代読)から、「東日本大震災による被害など、日本経済は厳しい状況にあるが、このような時こそ、高い倫理観をもって、社会的責任を果たすことが求められる。企業を取り巻く環境変化や社会からの期待等を踏まえ、企業行動のあり方を再確認してほしい」とのメッセージがあった。
引き続き、日比谷パーク法律事務所の久保利英明代表弁護士が「企業倫理の徹底と危機対応」と題する講演を行った。久保利氏の講演要旨は次のとおり。
経団連の企業行動憲章が、昨年、持続可能な社会の発展に向けた企業の社会的責任を意識して改定されたとおり、いまや組織は、単なる倫理の枠を超えて、SR(社会的責任)を重視する必要がある。ISO26000もSRのガイダンス文書として昨年策定され、(1)説明責任(2)透明性(3)倫理的な行動(4)ステークホルダーの利害尊重(5)法の支配尊重(6)国際行動規範尊重(7)人権尊重――という7つの社会的責任の原則を定めた。
危機対応には3つのレベルがある。第一は、潜在的なリスクを発見・想定し、対策を講じる「リスクマネジメント」。第二は、リスクが現実化した場合に、原因の解明、被害拡大の防止等の措置を取る「クライシスマネジメント」。第三は、クライシス発生後に、事業継続への致命的な打撃を回避しつつ、企業価値を継続可能にするための「BCM(BCP)」である。平時から、通常のシステムでは対応しきれないとして想定から排除された「残余のリスク」についても、検討しておく必要がある。
司法では最近、役員の責任追及が厳格化している。とりわけ、役員に刑事責任を課したり、株主代表訴訟以外に、代表取締役個人に対し民事責任を課したりする判決などが相次いでいる。一方、株主代表訴訟において、経営判断の裁量を広く認め、役員の責任追及を否定する判決もある。いずれにしても弁護士の見解を文書で残すなど、自分の身は自分で守ることが必要だ。
危機管理の要諦としては、経営トップの「あってはならない」という言葉は、思考停止を生み、不祥事につながる。「神話」を信じないよう、柔軟な想定が求められる。また、記者会見では株主総会以上に準備し、国民を相手にしていると考え、冷静に対応すべきだ。平時に想定すらできなければ、有事のクライシスに対応できるはずがない。クライシスマネジメントはリスクマネジメントの深さと大きさに左右される。トップを支えるガバナンスを効かせることが重要である。
講演を受けて、加藤壹康企業行動委員会共同委員長から、「本日の久保利弁護士の説明を参考に、企業倫理の徹底はもちろん、CSR推進や有事を意識したリスクマネジメント、クライシスマネジメント等の推進に取り組むようにお願いしたい」とのあいさつがあった。