経団連タイムス No.3054 (2011年9月8日)

新講座「総務部門のためのリスクマネジメント講座」開催


伊藤弁護士
尾崎弁護士

日本経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は8月30日、東京・大手町の経団連会館で「総務部門のためのリスクマネジメント講座(第1回)」を開催した。
東日本大震災以降、企業は未曾有の事態への対応を迫られ、リスクマネジメントの見直し機運も高まっている。そこで、西村あさひ法律事務所の協力を得て、企業の総務部門が抱えるリスクについて、それらの分野に精通した弁護士からリスクマネジメントの要諦と最新情報を提供してもらう講座を企画したもの。
第1回のテーマは「企業不祥事がもたらすリスク」。当日は、西村あさひ法律事務所の伊藤鉄男弁護士からの「組織の根幹を揺るがす危機への対応について」と題する講義の後、同事務所の尾崎恒康弁護士から想定事例の解説を聞いた。
伊藤弁護士の講義の概要は次のとおり。

■ 検察の危機

検察は、昨年秋から暮れにかけて、大阪地検特捜部事件(大阪地検特捜部による厚生労働省課長(当時)の事件捜査で、主任検事が証拠品を改ざんした事件)という、まさに「組織の根幹を揺るがすような危機」に直面した。私は当時、最高検察庁次長検事として危機の対応に当たった。その際の経験を題材に、問題発生後の対応と防止策について話したい。

■ 問題発生後の対応

第一報受理から初動調査までの間は、できるだけ早く事実の概要・大枠を把握することが最も重要である。また、証拠隠滅や口裏合わせは、不祥事でなく犯罪の領域であるとの認識が欠かせない。

捜査(調査)にあたっては、(1)スピード(2)調査の主体の選び方(3)徹底した真相解明――が重要である。大阪地検特捜部事件では、第一報を受けた翌日の午前中には記者会見と捜査員派遣を行い、同日夕方に主任検事を逮捕した。早く対応しても批判は受けるが、一喜一憂せず決めたことをやり抜くことが大事だ。また、調査の主体を選ぶ際は、客観性の担保(“お手盛り”との批判を回避)と調査の迅速性・的確性とのバランスに配慮する。

調査とは別に検証を行う場合は、第三者機関における委員の人選がポイントである。検証は、世間から「甘い」と見られたら失敗であり、正確な事実認定に努力すべきだ。改革案は大胆なものがよい。検察庁の改革案には、特捜事件における取り調べの一部可視化を盛り込んだ。

マスコミに対しては、いずれにせよ取材され報道されると考え、正面から向き合って、正確な報道が行われるよう努める。誰が会見するかは極めて重要なので、あらかじめ決めておくことが望ましい。また、会見にあたっては、十分な事前準備や心構えが必要である。

■ 防止策

平常時から、他社の事例を「それがわが社で起きたらどうするか」という視点で見て、備えをしておくべきである。組織の要は人であるが、他方で、人を信用し過ぎると失敗する。また、スタープレーヤーや花形部署が期待に応えようとして不祥事を起こすことは少なくなく、教育を充実させ、違反を起こすことができないシステムづくりに力を入れる必要がある。

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「総務部門のためのリスクマネジメント講座」は、今後、訴訟リスク、従業員の違法行為に対する使用者責任などをテーマに開催する予定である。詳細に関する問い合わせは日本経団連事業サービス研修担当(電話03−6741−0042)まで。

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