経団連タイムス No.3052 (2011年8月4日)

夏季フォーラム2011

第2セッション「わが国が抱える課題の克服」


2日目の第2セッションでは、「わが国が抱える課題の克服」をテーマに、環太平洋連携協定(TPP)などグローバル化への積極的な対応、社会保障と税・財政の一体改革、エネルギー・環境政策の再構築の主に3つの課題について議論を行った。

まず、前半の部では、政策研究大学院大学の白石隆学長を来賓に迎え、アジアにおける都市化・中産階級の拡大や外交・安全保障の変化など長期的趨勢を中心に講演を聞いた。白石学長は、東日本大震災の発生がこれらの長期的趨勢に影響は与えないとしつつも、早期の復旧・復興やTPP交渉など重要政策課題の解決が進まない状況が続けば、企業や個人など各プレイヤーがミクロの観点から合理的判断に基づいて行動し、その結果、国として懸念される状態になりかねないと述べた。

また、今後も世界経済においてアジアの比重は高まり、特に、ベトナムとインドネシアが政治的にも経済的にも重要な国になると指摘。日本としては、アジア各国の間で安全保障と経済との間に生じつつある緊張・軋轢に対応しつつ、グローバル化を推進し、成長するアジア経済の中に自らを埋め込んでいくことが成長のための唯一の道であると強調した。

その後の意見交換では、勝俣宣夫副会長からの「縮小均衡に陥らないためにはアジア経済圏の活力を取り込むことがカギ」「復旧・復興が最重要課題ではあるが、経済連携の遅れによる国際競争力の低下は産業の空洞化につながりかねない。今こそグローバル化の推進に向けて舵を切るべき」との課題提起を受け、「TPP交渉参加に向けてはハワイにおけるAPEC首脳会議が山場だ。少なくとも参加に向けた意思を表明すべき」などといった意見が出された。

後半の部では、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授から、社会保障・税・財政の改革に向けた課題について、講演を聞くとともに、意見交換を行った。土居教授は、国内で国債を消化する余力が減少するなか、財政の構造改革が急務であり、また、国民の増税への理解を深めるためには、歳出削減に向けた不断の努力が必要であると述べたうえで、歳出削減に向けては、社会保障と地方財政の改革が欠かせないと指摘した。加えて、税制抜本改革について、現行の税制は1989年に消費税が導入された時から変わっておらず、少子高齢化、グローバル化、財政健全化、地方分権化の4点を踏まえて、制度設計していくことが重要であるとの考えを示した。

意見交換では、渡辺捷昭副会長が社会保障と税の一体改革を進めるうえでは、(1)社会保障給付の効率化・重点化(2)経済活力を削がないかたちでの安定財源の確保(3)複雑な社会保障制度を国民にわかりやすい仕組みにすること――の3点が重要であるとし、財源確保に向けて、自助・共助・公助のバランスを見直すべきだと指摘した。また、他の参加者からは「少子化対策を推進し、2055年における人口の目標を1億人とすべき」「消費税を1年ごとに1%ずつ引き上げれば、消費喚起につながる」との意見が出された。

エネルギー・環境政策の再構築をめぐっては、まず、西田厚聰副会長から、喫緊の課題として、福島第一原発事故の早期収束と今後5年間の電力供給確保に向けた道筋の明確化が必要であることが提起され、電力問題が国内経済の空洞化を加速させる要因になりかねないといった懸念が示された。そのうえで、中長期的には、エネルギー政策における3E(安定供給、経済性、環境)のうち、安定供給と経済性をより重視する必要があり、現行の基本計画に基づいて原子力を拡大することが困難ななかで、その不足分をどう補っていくかが重要政策課題だとの認識を示した。また、再生可能エネルギーについては、まずは研究開発を強化したうえで低コスト化、高効率化を図るべきであることを指摘。温暖化防止に向けては、わが国の優れたエネルギー・環境技術を活かし、地球規模での貢献を図ることが有効だと強調した。

その後の意見交換では、「原子力を他の電源で穴埋めすることは現実的には大変難しい」「費用対効果の観点からは省エネが有効であり、需要サイド、供給サイドの両方で利点がある」「福島第一原発事故を徹底的に検証したうえで、原子力の安全基準を確立し、中長期のエネルギーバランスを考えることが必要」「省エネ、CO2削減には、全体の電力消費量の6割を占める民生部門に削減余地が大きい」「エネルギー・環境政策は国の根幹にかかる重要政策であり、公開の場での議論を踏まえるべき」など、活発な討議が展開された。

【政治社会本部】
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