藤原東大教授(中央)、高橋東経連会長(左)らを 招いて行われた夏季フォーラム2011第1セッション |
経団連(米倉弘昌会長)は7月21、22の両日、長野県軽井沢町のホテルで「夏季フォーラム2011」を開催した。同フォーラムでの各セッションの概要は次のとおり。
1日目の第1セッションでは、「未曾有の震災からの復興に向けて」をテーマに議論を行った。まず、東北経済団体連合会の高橋宏明会長が、「東日本大震災からの復興に向けて」と題して、東経連の取り組み等について講演した。高橋会長は、東日本大震災の被害状況について説明したうえで、東経連が5月に政府・国会議員に提出した「大震災復興に向けた提言」に基づき、必要な施策を訴えた。具体的には、まず製造業の復興に関して、(1)規制緩和や税制・財政・金融上の優遇施策等を行う「モノづくり復興特区」による支援(2)サプライチェーンの中核をなす地場企業への支援(3)自動車・電気機械・新エネルギーや医療・福祉など東北の特性を活かした産業の育成――が必要と指摘した。また、農水産業の復興については、冠水した農地の集約と大規模化を図り、民間企業が農業に進出できるようにすべきであること、漁業でも大規模化や6次産業化を進めることが必要であり、あわせて水産加工復興特区を設けるべきであることを提言した。さらに、東北の交通や通信インフラ網の充実が必要であることを訴えるとともに、物産と観光については、東北の物産品を買ってもらおう、または東北を訪れてもらおうという観点から実施している「BUY東北」「VISIT東北」活動の取り組みについて紹介があった。
引き続き、東京大学法学政治学研究科の藤原帰一教授が、「復旧か再生か−震災後復興における二つの選択」と題して講演した。藤原教授は、「政治主導のもとで、政治家の官僚に対する不信感が強まり、政治家と官僚が連携不足に陥っている。各省庁の分断が進み、政策の優先順位が付いていない。また、中央と地方の連携も失われている。さらに、ねじれ国会のもとで政治は空白状態にある」と現状を分析。そのため、「本来は、震災前の課題もあわせて克服する『再生』が必要であるにもかかわらず、官僚主導によるこれまでの路線が継続された『復旧』に向けた政策が優先されている」と指摘した。そのうえで、「今後、政治では、セキュリティーを脅かす小さな可能性をなくすような政策が優先される。この状況では、原子力発電所の早期再開は難しいだろう。政治がセキュリティーを優先すれば、コスト高となるため、企業の競争力にとってはマイナスとなる」との見解を示した。さらに、「震災からの『再生』のため、政治的なリーダーシップを発揮し、縦割り行政を打破して限られた予算を重点的に配分する必要がある」として、「まず地方自治体の政策決定の自由度を后w)痂゜たうえで、予算を重点化・集約化・効率化し、限られた拠点を特区として指定すべき。民間からの資金、とりわけ海外からの資金が特区に流れるようにすることが重要である」と訴えた。最後に、「経団連の存在意義は経済の自由化と国際化を促進することにある。経済の自由化や国際化、障壁の撤廃により、『復旧』ではなく『再生』につなげるべきだ」と主張した。
その後の意見交換において、まず、岩沙弘道副会長から、「わが国は震災前からグローバル化、少子高齢化、財政健全化といった課題への対応を迫られていた。震災からの復興を、国のかたちを変える構造改革へとつなげていかなければならない。農業・水産業・まちづくり・ものづくりなどの改革を進めるため、政府は復興特区を早急に制度化し、規制の撤廃・緩和や税、財政・金融支援策を総動員すべきである。復興特区では、被災地全域に速やかに適用される制度と地域資源や特色を活かした取り組みを付加的に支援する制度を設けるべきだ」との発言があった。続いて他の参加者から、「がれきの撤去や港湾整備、雇用創出等、政治がやるべきことは多いにもかかわらず、復旧のスピードがあまりにも遅すぎる」「現場のニーズをよくわかっている地方自治体にもっと権限と財源を任せるべき。計画策定の段階から民間も関わっていくべきだ」「農水産業の集約化や大規模化に思い切って踏み込む必要がある。GPSなどの高い技術を導入し、農業を魅力あるものにすべきだ。6次産業化を進め、競争力をつける必要がある」「復興基本計画と復興庁の創設、復興特区の設置が重要である。政府は野党と連携して推進すべき」「復興特区では韓国やシンガポールのようにゼロ規制から制度設計を行うべき。海外からの投資のみならず、海外の人材を長期的かつ大量に受け入れることも考えるべき」といった意見が出された。